著者の所属・活動拠点の国は、ケニアです。
掲載誌:World s Veterinary Journal
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的:森の土からカビを抑える細菌を探す
トウモロコシや落花生などの食料は、アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)というカビに汚染されることがあります。このカビはアフラトキシンという毒素をつくります。論文によると、なかでもアフラトキシンB1は最も毒性が強いとされ、食品のアフラトキシン汚染は肝細胞がんの世界的なリスクに大きく関わると報告されています。そのため、原因となるカビをどう抑えるかが重要な課題です。
対策の一つに「生物的防除(バイオコントロール)」があります。これは、カビなどと競合したり、その生育を妨げたりする微生物を利用する方法です。土壌にすむストレプトマイセス属の細菌は抗カビ物質をつくることで知られ、候補として注目されてきました。ただし著者らによると、よく調べられてきた菌株からは新しい有用物質が見つかりにくくなっています。そこで、あまり調べられていない環境に目を向ける研究が進んでいます。
研究チームが着目したのは、ケニアの首都ナイロビ近郊に残る大規模な在来林、カルラ森林です。ケニアでの抗カビ細菌の探索は主に国立公園で行われており、この森の根圏(植物の根の周りの土)の細菌は、A. flavusに対してまだ試されていませんでした。本研究は、ストレプトマイセス属を主な標的として、この森の根圏土壌から細菌を分離し、A. flavusに対する抗カビ活性を調べることを目的としています。
何をどう調べたか
研究チームは、森の中の10地点で植物の根元から深さ5〜10センチの土を採取しました。土を室温で乾燥させると、乾燥に強い放線菌の胞子が残りやすくなります。この性質を利用して、ストレプトマイセスを選択的に分離しました。そのうえで、ストレプトマイセスに特徴的な、粉をふいたような乾いたコロニーをつくる細菌を選び出しました。相手のカビには、ケニアのトウモロコシ産地で採れた、カビの生えたトウモロコシ由来のA. flavus株を使いました。
まず、1枚の培地に細菌とカビを向かい合わせて植える「対峙培養」を行いました。細菌の周りでカビの生育が抑えられるかを確かめ、190株を選別しています。活性を示した細菌については、培養した細菌から抽出物をつくりました。抽出物をしみこませた円形の紙をカビの培地に置き、周囲にできる「生育阻止帯」(カビが生えない輪)の直径を測る方法で、抗カビ作用を評価しています。
さらに、細菌の種類を確かめるために、細菌の分類によく使われる16S rRNA遺伝子の配列を調べました。抽出物にどのような化学成分が含まれるかは、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)という、混合物を成分ごとに分けて同定する手法で分析しました。
主な結果:6株が生育を抑え、1株はストレプトマイセス以外だった
対峙培養では、190株のうち6株がA. flavusの生育を抑えました。これらの株から得た抽出物は、いずれの調製法でもカビの周りに生育阻止帯をつくりました。カビを抑える物質を含まない対照では、阻止帯は見られませんでした。細菌の細胞部分から得た抽出物の阻止帯の直径は、株によって約25〜32ミリメートルでした。対照との差は統計的に有意だったと報告されています。
遺伝子解析の結果、6株のうち5株はストレプトマイセス属と確認されました。一方、残る1株(SE143)は、見た目はストレプトマイセスに似ていたものの、コマモナス属の細菌でした。著者らは、コマモナス属は抗カビ用途ではストレプトマイセスほど研究されていないと述べています。そのうえで、この株がカビを抑える仕組みについては、本研究では調べていないとしています。
化学分析では、抽出物ごとに11〜19の成分ピークが検出されました。共通して見られたのは、脂肪酸やその誘導体、有機酸の誘導体、フラノン類などの成分群です。一部の株からは、ストレプトマイセスの抽出物で以前に報告されている含窒素化合物や、フェノール系の化合物も見つかりました。株による違いは、成分の種類そのものよりも、どの成分が多いかに表れていたといいます。コマモナス株の抽出物は脂肪酸系の成分が豊富で、この点はストレプトマイセス株と似ていました。著者らは、カビを抑える働きは単一の物質によるものではない可能性が高いと考えています。複数の成分がともに作用している、という解釈がより妥当だとしています。
この研究が示すこと
この研究は、まだ調べられていなかったカルラ森林の土壌に、アフラトキシンをつくるカビの生育を実験室内で抑える細菌がすんでいることを示しました。また、そうした細菌がストレプトマイセスに限らず、コマモナス属にも見つかったことも示しています。
一方で、著者らは成果の範囲を明確にしています。今回確かめられたのはカビの生育の抑制であり、アフラトキシンの量そのものが減るかどうかは測定していません。また、結果は管理された実験室条件で得られたものです。作物や貯蔵穀物、実際の畑での効果は、まだ確認されていません。身近な森の土が、食品を汚染するカビに対抗する微生物の探索先になりうることを示した、基礎段階の成果といえます。
原著論文の著者・所属:Esraa Mohammady Elsemin(Department of Molecular Biology and Biotechnology, Pan African University Institute for Basic Sciences, Technology and Innovation (PAUSTI), Nairobi, Kenya)、Andrew Nyerere Kimang'a(Senior Lecturer, Department of Medical Microbiology, College of Health Sciences, Jomo Kenyatta University of Agriculture and Technology, Nairobi, Kenya)、Joel Ltilitan Bargul(Head of Biochemistry Department & Senior Lecturer at Jomo Kenyatta University of Agriculture and Technology & Program Coordinator, Molecular Biology & Biotechnology Program at PAUSTI (Pan African University, Institute of Sciences, Technology for Innovation), Nairobi, Kenya)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Esraa Mohammady Elsemin, Andrew Nyerere Kimang'a, Joel Ltilitan Bargul. Biocontrol Potential of Rhizospheric Soil Bacteria, Including Streptomyces and Comamonas Species, Against Aflatoxigenic Aspergillus flavus. World s Veterinary Journal 2026-09-25. DOI: 10.54203/scil.2026.wvj76. 原著ライセンス:CC BY.