著者の所属・活動拠点の国は、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナです。

掲載誌:Agrociencia Uruguay

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

バジルとセージは、生のハーブとして料理に使われるだけでなく、医薬品や化粧品の原料にもなる植物です。薬用に使われる植物は、汚染物質を含まない質のよい状態で育てることが求められます。研究チームはそのための方法として、植物の生育を助ける土壌細菌に注目しました。植物の根のまわり(根圏)にすみ、植物の成長を促す性質をもつ細菌は「PGPR(植物生育促進根圏細菌)」と呼ばれます。

著者らは、バチルス属と放線菌のPGPRが、バジルとセージの生育や、フェノール類などの有用成分の蓄積を高めるのではないかという仮説を立てました。そのうえで、細菌を分離し、種子に付けて育てたときの発芽、生育、成分の変化を調べることを目的としました。

細菌の選び方と栽培実験

研究チームは、山の斜面に生えるイラクサの根圏から、バチルス属3株(Bac1〜Bac3)と放線菌3株(Act1〜Act3)の計6株を分離しました。各株について、低温・高温、酸性・アルカリ性、塩分の濃い条件で育つかを調べ、さらに植物ホルモンの一種であるオーキシン(IAA)を作るか、植物が吸収しにくいリンを使える形に変えられるか、有機物を分解する酵素を出すかなど、植物の生育を助ける性質を確認しました。

その結果、6株のうちIAAを作ったのはBac3だけで、Bac3は塩分7%の条件でもわずかに育ちました。Act1は溶けにくい無機リンを溶かす性質を示しました。こうした特性をもとに、Bac3とAct1の2株が選ばれました。

選ばれた2株は、まずシャーレ上で種子に付けて発芽と芽生えの伸びを調べ、次に鉢での栽培実験に使われました。鉢では、細菌を付けた種子をまき、3週間後に細菌液を追加で与え、温度などを管理した条件で6週間育てました。比較のため、水で処理した種子も同じように育てました。栽培後には、根と茎の長さ、生重量と乾燥重量に加え、植物に含まれるフェノール類の総量、ロスマリン酸の量、フェノール類を作る経路の入り口で働く酵素PAL(フェニルアラニンアンモニアリアーゼ)の活性、抗酸化力が測定されました。

主な結果

発芽試験では、2株とも水処理に比べてバジルとセージの発芽率を高め、芽生えの根と茎も長くしました。最も効果が大きかったのはAct1で、7日後の発芽率は水処理と比べてバジルで76%、セージで117%増えたと報告されています。著者らは、Act1はIAAを作らないことから、リンを溶かす性質など別の仕組みが発芽の向上に関わった可能性があると考察しています。

6週間の鉢栽培では、2株とも両植物の生重量と乾燥重量を水処理より有意に増やしました。バジルではAct1が生重量を68.6%、Bac3が乾燥重量を60%増やし、セージではAct1が生重量を77.6%、乾燥重量を50%増やしました。一方、根や茎の長さへの効果は、常に統計的に有意な差となったわけではありませんでした。

成分面では、細菌で処理した植物のロスマリン酸の量とPAL活性が、両植物とも水処理より有意に高くなりました。たとえばバジルのロスマリン酸は、水処理の9.8 mg/gに対し、Act1処理で最大の14.2 mg/gと報告されています。PAL活性はバジル、セージともBac3処理で最も高くなりました。フェノール類の総量は、バジルでは両処理で、セージではAct1処理で有意に増えました。抗酸化力の指標でも、処理した植物の抽出液は水処理より強い働きを示しました。

成分どうしの関係を調べると、バジルでは抗酸化力がフェノール類の総量、ロスマリン酸、PAL活性のいずれともよく連動していました。セージでは抗酸化力と有意に結びついていたのはロスマリン酸だけで、著者らはセージでは他の成分も抗酸化力に関わっている可能性を指摘しています。

最後に、選ばれた2株の遺伝子配列を調べたところ、Bac3はBacillus pretiosus、Act1はStreptomyces ardesiacusに近い細菌であることが示されました。ただし既知の株との一致率はそれぞれ97.95%と97.73%で、完全に一致するものはありませんでした。

研究が示すこと

この研究は、イラクサの根圏から選んだ2種類の細菌を種子に付けて育てることで、管理された条件のもとでバジルとセージの発芽と生育が高まり、ロスマリン酸などの有用成分や抗酸化力も高まったことを報告しています。著者らは、細菌の処理によって植物がフェノール類を作る仕組みが活性化されたと解釈しています。また、効果の現れ方は細菌の株や植物の種類によって異なっており、植物ごとに調べることの大切さがうかがえます。

原著論文の著者・所属:Dragana Stamenov(University of Novi Sad, Faculty of Agriculture, Novi Sad, Serbia)、Ružica Ždero Pavlović(University of Novi Sad, Faculty of Agriculture, Novi Sad, Serbia)、Timea Hajnal Jafari(University of Novi Sad, Faculty of Agriculture, Novi Sad, Serbia)、Simonida Đurić(University of Novi Sad, Faculty of Agriculture, Novi Sad, Serbia)、Boris Popović(University of Novi Sad, Faculty of Agriculture, Novi Sad, Serbia)、Danijela Petrovic(University of Novi Sad, Faculty of Education in Sombor, Sombor, Serbia)、Dino Hasanagić(University of Banja Luka, Faculty of Natural Sciences and Mathematics, Banja Luk, Republic of Srpska)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dragana Stamenov, Ružica Ždero Pavlović, Timea Hajnal Jafari, et al. Impact of PGPR Seed Priming on Germination, Yield, and Metabolite Profile of Basil (Ocimum basilicum L.) and Sage (Salvia officinalis L.). Agrociencia Uruguay 2026-09-02. DOI: 10.31285/agro.30.1862. 原著ライセンス:CC BY.