この研究は、ブラジル、アメリカ、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Industrial Microbiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
サトウキビからエタノールをつくる工程では、「ヴィナス」と呼ばれる液状の副産物が大量に生じます。論文によれば、エタノール1リットルあたりおよそ13リットルが発生し、ブラジルでは2025/2026年の収穫期に約260億リットルのエタノールが生産され、それに伴って約3400億リットルのヴィナスが生じたと報告されています。ヴィナスは有機物と養分に富むため農地への還元に使われてきましたが、蓄積すると土壌の塩類化や酸性化などの問題につながることが指摘されています。
そこで注目されているのが微細藻類です。微細藻類は光合成をする一方で、種によっては水に溶けた有機物も栄養として利用できます(光合成と有機物利用を併用する性質は「混合栄養」と呼ばれます)。ただし著者らによれば、これまでの研究の多くはヴィナスを5〜50%程度に薄めて使うか、人工培地の補助として加えるにとどまっており、希釈しないヴィナスでの培養はほとんど検討されてきませんでした。また、ヴィナスで育った藻類をそのまま次の培養の種(接種源)に使えるかどうかも、ほとんど調べられていませんでした。
研究チームはこの点をふまえ、前処理を施した100%(未希釈)のヴィナスで微細藻類を培養できるか、藻類の増殖がヴィナスの成分をどう変えるか、そしてヴィナスで育った培養を次の培養の接種源として使えるかを調べました。
どのように調べたか
ヴィナスはブラジルの製糖・エタノール工場から提供を受け、既存の特許技術にもとづいて処理されました。粗い砂、スメクタイト粘土、活性炭の順に通す方法で、処理後のヴィナスはpH7、濁りが少なく、光が通りやすい状態になったと報告されています。処理済みヴィナスは滅菌せずに使用され、細菌や酵母が残っていることは顕微鏡で確認されています。
まず9種類の微細藻類について、50〜100%の濃度の処理済みヴィナスに対する耐性をスクリーニングしました。その結果をもとに、Chlorolobion braunii、Tetradesmus sp.、Haematococcus pluvialis の3種が選ばれ、12ミリリットルの培養で本試験に進みました。比較のため、合成培地BG11で育てた対照区が置かれました。
本試験では3つの条件が比較されています。合成培地で育てた対照区、合成培地由来の細胞を100%ヴィナスに入れた区(V1)、そして100%ヴィナスで育った細胞をふたたび100%ヴィナスに入れた区(V2)です。培養期間は5日間で、毎日の細胞数の計測と吸光度の測定を行い、最終日に細胞の体積を推定しました。あわせて、藻類を育てる前後のヴィナスを核磁気共鳴分光法(NMR。試料を壊さずに含まれる有機化合物の種類と量の目安を調べる手法)で分析しています。
報告された主な結果
未希釈の処理済みヴィナスでの成績が最も良かったのは C. braunii で、増殖速度は1日あたり1.3という値が報告されました。Tetradesmus sp. は0.66、H. pluvialis は0.68で、C. braunii のおよそ半分にとどまっています。とくに C. braunii は、自らの対照区よりもヴィナスでの増殖速度が高かった唯一の種であり、著者らはこれを混合栄養がはたらいている可能性を示すものと述べています。一方、Tetradesmus sp. と H. pluvialis の増殖速度は、それぞれの対照区の半分ほどでした。
細胞の大きさにも違いが現れました。混合効果モデルによる解析では、ヴィナスで育った C. braunii の細胞体積は対照区の1.6倍(208立方マイクロメートル)、Tetradesmus sp. では6.3倍(250立方マイクロメートル)になったと報告されています。これに対し H. pluvialis の細胞体積は維持されました。著者らは、細胞が大きくなると体積あたりの表面積が小さくなること、また先行研究では有毒な化合物への曝露によって細胞が大きくなり分裂速度が下がる例が知られていることに触れ、今回も大きな細胞ほど増殖速度が低い傾向がみられたと述べています。
接種源をどこから取るかによる違いも種ごとに分かれました。ヴィナスで育った細胞を接種源にした場合、C. braunii の増殖速度は1日あたり0.4まで下がり(対照区と比べて3.2分の1)、細胞はより大きくなりました。Tetradesmus sp. は増殖の応答に変化がなく(1日あたり0.67)、細胞体積は13.2倍と大きくなりました。H. pluvialis は小さなシスト(環境ストレスに応答してつくられる休眠状態の細胞)を形成しました。
NMR分析では、酢酸と酪酸が微生物群集によって消費されたことが示されました。処理済みヴィナスには細菌や酵母も残っているため、著者らはこれらの微生物が一部の化合物の生成や消費に関わった可能性を否定できないと述べています。また H. pluvialis を育てたヴィナスではシス-アコニット酸が放出されており、これはストレス条件下での生理的な調整に関連しうる化合物だとされています。
この研究が示すこと
この研究は、適切な前処理を施せば、希釈しないヴィナスでも微細藻類の培養液として使えることを、種を選ぶという条件つきで示しました。ヴィナスの処理によって液が透明に近づき光が通るようになったこと、pHが約4から約7に調整されたことが、培養を成り立たせた要因として挙げられています。
種によって応答が大きく異なることも明確になりました。C. braunii は未希釈ヴィナスでよく育つ一方、ヴィナス由来の接種源では成績が落ち、Tetradesmus sp. は増殖速度こそ対照区の半分でしたが接種源の由来によらず安定していました。著者らは Tetradesmus sp. のこの一貫性を、産業利用の候補として頑健な性質だと位置づけています。
著者らは、これらの結果がエタノール産業における循環型経済の考え方を前進させるものだとまとめています。なお、今回用いられたのはマイクロプレートによる小規模な培養であり、規模を大きくした場合にどうなるかはこれから検証が必要だと論文自身が述べています。
著者:Vitória G. Navarrete(Laboratory of Algae Biotechnology, Center for Biological and Health Sciences, Department of Botany, Federal University of São Carlos (UFSCar))、Vinicius S. Ferreira(Laboratory of Nuclear Magnetic Resonance, Center for Exact Sciences and Technology, Department of Chemistry, Federal University of São Carlos (UFSCar))、Tiago Venâncio(Laboratory of Nuclear Magnetic Resonance, Center for Exact Sciences and Technology, Department of Chemistry, Federal University of São Carlos (UFSCar))、R. Catoia Pulgrossi(The Han Lab, Quantitative Statistical Unit, Department of Medicine, Stanford University)、Luis Henrique Zanini Branco(Laboratory of Biology, Ecology and Taxonomy of Algae, Department of Zoology and Botany, Institute of Biosciences, Languages and Exact Sciences, São Paulo State University)、Ana T. Lombardi(Laboratory of Algae Biotechnology, Center for Biological and Health Sciences, Department of Botany, Federal University of São Carlos (UFSCar))
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Vitória G. Navarrete, Vinicius S. Ferreira, Tiago Venâncio, et al. Growing microalgae in treated vinasse: effects on cell morphology and growth rate. Frontiers in Industrial Microbiology 2026-09-15. DOI: 10.3389/finmi.2026.1917607. 原著ライセンス:CC BY.