著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
品種そのものの違いを見るために
烏龍茶は花や果実を思わせる複雑な香りで知られています。また、茶多糖と呼ばれる大きな糖の分子を含みます。茶多糖については、試験管内での抗酸化作用などが研究されてきました。茶の香りや成分は加工方法だけでなく、茶樹の品種による遺伝的な違いにも左右されると考えられています。
ただし研究チームによると、これまでの比較研究の多くは、産地や収穫年、加工方法が異なる試料を使っていました。そのため、香りや抗酸化活性の違いが品種によるものなのか、育った環境や作り方によるものなのかを切り分けにくいという課題がありました。
そこで著者らは、烏龍茶の発祥地とされる中国福建省安溪県の代表的な6品種を比べました。対象は鉄観音、黄金桂、毛蟹、本山、梅占、大葉烏龍です。生育環境と加工条件をそろえたうえで、香りの特徴と茶多糖の抗酸化活性を体系的に比較しました。
同じ茶園、同じ製法で作った茶を分析
6品種の生葉は、2024年5月に安溪県の同じ茶園で摘まれました。経験のある製茶師が、中国の国家規格に沿って、6品種すべてを同じ工程で加工しました。仕上がりは、香りが軽やかな「清香型」の烏龍茶です。
香りの分析では、茶から立ちのぼる揮発性成分を捕集し、ガスクロマトグラフィー質量分析で成分を特定・定量しました。さらに、各成分の量を「においとして感じられる最小濃度」と比べ、香りへの寄与の大きさを見積もりました。この指標は相対的なにおい活性値と呼ばれます。茶多糖は、水で抽出した後にエタノールで沈殿させて取り出しました。この粗抽出物について、DPPHとABTSという2種類の試験で抗酸化活性を評価しました。どちらも、化学的に作り出したラジカルを打ち消す力を測る試験です。
品種ごとに異なる香りの成分
統計解析の結果、6品種の香り成分の組成ははっきりと分かれました。本山、黄金桂、毛蟹の3品種は比較的似た組成を示し、鉄観音と梅占も互いに近いまとまりになりました。大葉烏龍は、ほかの5品種から最も離れていました。
研究チームは、品種の判別に役立つ成分の候補として14種類を挙げました。また、少なくとも1品種で香りに寄与するとみられる成分を28種類見いだしました。最終的に、12種類の成分が品種ごとの香り、特に花のような香りの化学的な基盤になっていると報告しています。
そのうち、トランス-ネロリドール、フェニルアセトアルデヒド、インドール、α-ファルネセン、リナロールの5成分は、6品種に共通する花の香りの骨格を成していました。残りの7成分は、品種によって量や香りへの寄与が大きく異なっていました。12成分のうち6成分は、テルペン類と呼ばれる植物の香り成分のグループに属していました。
品種ごとの特徴も報告されています。黄金桂は香り成分の総量が最も多く、香りに寄与するとみられる成分の数も最多の20種類でした。鉄観音からは、2種類の成分が鉄観音でのみ検出され、いずれも香りへの寄与の指標が100を超えていました。2種類とは、(E)-2-オクテナールと1-フェニル-2-ニトロエタンです。著者らは、これらが鉄観音特有の香りの特徴「音韻」の形成に重要な役割を果たしている可能性を指摘しています。
研究チームは、ヒトのにおい受容体と香り成分がどのように結合しうるかも、コンピューター上で予測しました。その結果、トランス-ネロリドールが受容体の一つに最も結合しやすいと予測されました。ただし論文は、これはあくまで予備的な推定であり、実際ににおいとして知覚されることの直接の証拠ではないと明記しています。
茶多糖は「量」と「活性」の順位が一致しなかった
茶葉に含まれる粗茶多糖の割合は、品種によって2.76%から3.99%の幅がありました。最も多かったのは鉄観音で、最も少なかった梅占の1.45倍でした。
抗酸化活性の試験では、活性の高さと含有量の順位が一致しませんでした。2種類の試験のどちらでも、最も強い活性を示したのは大葉烏龍の茶多糖でした。活性の強さは、ラジカルを半分打ち消すのに必要な濃度で比べます。この値が小さいほど活性が強いことを意味します。大葉烏龍はDPPH試験で1mLあたり0.58mg、ABTS試験で1.95mgでした。最も弱かったのは梅占で、それぞれ1.69mgと3.33mgでした。なお、大葉烏龍の茶多糖も、同じ重さのビタミンCよりは活性が低かったと報告されています。
含有量が最も多かった鉄観音の活性は、大葉烏龍より低い結果でした。著者らは、含有量だけでなく茶多糖の構造的な特徴が活性を左右している可能性を仮説として示しています。ただし今回は粗抽出物を用いており、分子量や糖の組成などの構造は測定していません。そのため、この解釈は今後の検証が必要な仮説にとどまるとしています。また、測定は細胞を使わない化学的な試験系で行われたもので、体内での抗酸化作用を示すものではないとも述べています。
品種の違いが茶の質に表れる
この研究では、産地と製法を同じにしても、6品種の香り成分と茶多糖の性質に明確な違いが残りました。研究チームは、この結果から、品種の遺伝的な背景が烏龍茶の品質を左右する重要な内的要因である可能性を示しています。同じ「安溪の烏龍茶」でも、品種ごとに香りを形づくる成分の組み合わせが異なることを、条件をそろえた比較で示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Zhong Wang(Anxi College of Tea Science, College of Horticulture, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Tea Green Cultivation and Processing Collaborative Innovation Center, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Zhelin Wan(Anxi College of Tea Science, College of Horticulture, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Tea Green Cultivation and Processing Collaborative Innovation Center, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Fanyu Liu(Anxi College of Tea Science, College of Horticulture, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Tea Green Cultivation and Processing Collaborative Innovation Center, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Changlian Wu(Anxi College of Tea Science, College of Horticulture, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Tea Green Cultivation and Processing Collaborative Innovation Center, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Shuaibo Shao(Anxi College of Tea Science, College of Horticulture, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Tea Green Cultivation and Processing Collaborative Innovation Center, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Yuting Li(Anxi College of Tea Science, College of Horticulture, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Tea Green Cultivation and Processing Collaborative Innovation Center, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Zhendong Zhang(Anxi College of Tea Science, College of Horticulture, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Tea Green Cultivation and Processing Collaborative Innovation Center, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Chengzhe Zhou(Anxi College of Tea Science, College of Horticulture, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Tea Green Cultivation and Processing Collaborative Innovation Center, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Cheng Zhang(Anxi College of Tea Science, College of Horticulture, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Tea Green Cultivation and Processing Collaborative Innovation Center, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Yuqiong Guo(Anxi College of Tea Science, College of Horticulture, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Tea Green Cultivation and Processing Collaborative Innovation Center, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhong Wang, Zhelin Wan, Fanyu Liu, et al. Systematic Comparison of Aroma Profiles and Tea Polysaccharide In Vitro Antioxidant Activities Among Six Anxi Oolong Tea Cultivars. Foods 2026-09-24. DOI: 10.3390/foods15193406. 原著ライセンス:CC BY.