著者の所属・活動拠点の国は、ブラジル、イタリアです。
掲載誌:Journal of Food Measurement & Characterization
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:熱や光に弱い赤橙色の色素を守る
カンタキサンチンは、赤から橙色を生み出すカロテノイドと呼ばれる色素の一種で、栄養補助食品、化粧品、飼料などで着色料として使われています。分子の中に二重結合が連なった長い鎖を持ち、この構造が色の強さやラジカル(反応性の高い分子)を安定化させる性質に関わっているとされています。一方で、この構造があるために、光や酸素、高温にさらされると壊れやすいという弱点があります。また、油になじむ性質が強く水に溶けにくいため、そのままでは水を含む食品に使いにくい面もあります。
こうした成分を守る方法の一つが「マイクロカプセル化」です。これは成分を別の素材(壁材)で包み込み、微小な粒子にする技術です。研究チームが注目したのは、ウチワサボテン(Opuntia ficus-indica)の茎にあたる平たい部分から取り出した粘り気のある多糖類、いわゆる粘質物(ムシレージ)です。この粘質物は、乳化や増粘、安定化に役立つ性質を持つ植物由来の素材として知られています。著者らは、この粘質物を、壁材として広く使われるマルトデキストリン(でんぷんを分解して作る糖類)と組み合わせ、カンタキサンチンを包む壁材として使えるかを調べることを目的としました。マルトデキストリンは水に溶けやすく扱いやすい反面、単独では乳化する力が限られるため、ほかの素材と組み合わせる工夫が考えられてきたと論文は説明しています。
何を調べたか:4種類の粉末を作って比べる
研究チームは、イタリアで育ったウチワサボテンの茎部分を細かく砕いて水に浸し、ろ過や遠心分離を経て粘質物を取り出しました。用意したカンタキサンチン抽出物を分析したところ、含まれるカロテノイドのおよそ77%がカンタキサンチンで、ほかにクリプトキサンチンやα-カロテンなどが少量含まれていました。
粉末は「噴霧乾燥」という方法で作られました。これは液体を霧状に吹き出して熱風で一気に乾かし、粉にする方法で、工業規模でも使われています。比較のため、マルトデキストリンだけの粉末、マルトデキストリンと粘質物の粉末という色素を含まない2種類の対照と、それぞれにカンタキサンチンを加えた2種類が作られました。著者らは、乾燥でどれだけ粉が回収できるか、色素がどれだけ粒子の内側に包み込まれたか(包み込み効率)、色、水分や溶けやすさ、粒子の帯電状態、熱に対する安定性などを調べました。
主な結果:包み込みは同程度、色ははっきり変化、熱の挙動に違い
乾燥後に回収できた粉の割合は、色素を含む粉末で約32%と、対照とほぼ同じでした。色素が粒子の内側に包み込まれた割合は、マルトデキストリンのみの壁材で64.11%、粘質物を組み合わせた壁材で62.99%で、統計的な差は認められませんでした。粉末1グラムあたりのカロテノイド量も12.68マイクログラムと12.54マイクログラムで、ほぼ同じでした。つまり、粘質物を加えても色素の取り込みや包み込みの程度は大きく変わらなかったと報告されています。なお著者らは、乾燥時の温度(吹き込み口100℃、排出口75℃)が色素の一部の分解に関わった可能性にも触れています。
色の測定では、カンタキサンチンを含む粉末は対照より赤みが強く、鮮やかさも高い色になりました。対照との色の差は、人の目ではっきり分かる水準でした。粘質物を含む粉末はやや黄色みが強く、これは粘質物そのものが持つ黄みがかった色も関係していると考察されています。
熱に対する挙動では、粘質物を加えると、マルトデキストリンだけの場合に比べて分解が始まる温度がやや低くなり、壁材自体の熱安定性は下がる傾向が見られました。一方で、カンタキサンチンを含む粉末では主な分解の温度が高い側にずれており、著者らは、色素と壁材の相互作用によって壁材の分解が遅れた可能性があると解釈しています。また、粘質物とマルトデキストリンにカンタキサンチンを加えた粉末は、高い温度で分解のピークを示し、構造のまとまりがよい状態であることが示唆されたと述べています。
この研究が示すこと
著者らは、噴霧乾燥によるマイクロカプセル化によって、水分が少なく水に溶けやすいカンタキサンチン粉末を作れたと結論づけています。さらに、マルトデキストリンとサボテン粘質物の組み合わせは、色と溶けやすさを保ちながら色素を包む壁材として有望だと評価しています。
この研究は、身近な植物から得られる素材を、熱や光に弱い色素を包む材料の一つとして検討したものです。粘質物を加えても包み込みの程度は保たれ、色の鮮やかさも得られたという報告は、天然由来の素材で色素を扱いやすくする選択肢の広がりを示しています。
原著論文の著者・所属:Diego Araujo da Costa(Food Science and Technology Institute, Federal University of Rio Grande Do Sul, P. O. Box 15059, Avenue Bento Gonçalves n° 9500, Porto Alegre, Rio Grande do Sul, 91501-970, Brazil)、Paola de Souza(Food Science and Technology Institute, Federal University of Rio Grande Do Sul, P. O. Box 15059, Avenue Bento Gonçalves n° 9500, Porto Alegre, Rio Grande do Sul, 91501-970, Brazil)、Federica Blando(Lecce Unit, Institute of Sciences of Food Production (ISPA), CNR, Lecce, 73100, Italy)、Simone Hickmann Flores(Food Science and Technology Institute, Federal University of Rio Grande Do Sul, P. O. Box 15059, Avenue Bento Gonçalves n° 9500, Porto Alegre, Rio Grande do Sul, 91501-970, Brazil)、Alessandro de Oliveira Rios(Food Science and Technology Institute, Federal University of Rio Grande Do Sul, P. O. Box 15059, Avenue Bento Gonçalves n° 9500, Porto Alegre, Rio Grande do Sul, 91501-970, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Diego Araujo da Costa, Paola de Souza, Federica Blando, et al. Opuntia ficus-indica mucilage and maltodextrin systems as wall materials for canthaxanthin microencapsulation by spray drying. Journal of Food Measurement & Characterization 2026-10-08. DOI: 10.1007/s11694-026-05018-x. 原著ライセンス:CC BY.