著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。

掲載誌:Journal of Food Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

オラ・プロ・ノビス(学名 Pereskia aculeata)はサボテン科の植物で、食べられるにもかかわらず、一般的な野菜としてはあまり利用されてこなかった食用植物です。葉にはたんぱく質や食物繊維、ポリフェノールなどのフェノール化合物が含まれています。さらに「粘質物(ムシレージ)」と呼ばれるねばりのある成分も含まれています。この粘質物は主に多糖類とたんぱく質からなります。食品にとろみを付ける、油と水が混ざった状態を保つ(乳化)、ゲル状にするといった性質があるため、食品素材として期待されています。

しかし従来の抽出方法は、葉を水と一緒にすりつぶしたあと長時間温める方法が中心でした。6〜8時間ほどかかるうえ、効率も高くないとされてきました。そこで研究チームは、超音波の力で植物の細胞を壊しやすくする「超音波アシスト抽出」に注目しました。超音波は液体の中で微小な泡を発生させ、その泡が弾けることで細胞壁を壊し、成分を取り出しやすくします。一方で、出力が強すぎると有用な成分が分解されるおそれもあります。

著者らによれば、この粘質物の抽出に超音波を使った例はこれまでありませんでした。抽出後に残る葉の残渣を評価した例もありませんでした。そこで本研究には三つの目的がありました。一つ目は、超音波の出力を変えて粘質物を抽出し、従来法と比べることです。二つ目は、得られた粘質物の性質や抗酸化活性を調べることです。三つ目は、抽出残渣の特性を明らかにして活用の可能性を探ることです。

何をどう比べたのか

研究チームは、ブラジル・パラナ州の大学の薬用植物園で収穫した葉を使いました。従来法では、葉を室温(25℃)の水または80℃の水ですりつぶし、その後65℃で6時間温めました。超音波法では、室温の水ですりつぶした後、200、400、600、800ワットの4段階の出力で30分間、超音波を当てました。

どの方法でも、その後にろ過と遠心分離を行いました。液体部分を粘質物として回収し、凍結乾燥しました。ろ過で布の上に残った固形分は、残渣としてオーブンで乾燥させました。

得られた粘質物と残渣について、次の項目を調べました。 ・収量 ・たんぱく質量 ・水への溶けやすさ ・水や油を吸う力 ・色 ・フェノール化合物の量 ・抗酸化活性 粘質物については、さらに次の分析も行いました。 ・含まれる成分の分析 ・乳化のしやすさと安定性 ・とろみ(粘度)などの流れ方の性質 ・構造の分析 ・顕微鏡観察 総合的に最も良い結果を示した試料では、アミノ酸の組成も調べました。

主な結果

粘質物の収量は、生の葉の重さに対して2.7〜3.7%でした。抽出方法による有意な差はありませんでした。つまり超音波法は30分の処理で、6時間を要する従来法と同程度の量を得られたことになります。粘質物のたんぱく質量は乾燥粉末100gあたり10.68〜16.01gでした。高い値になったのは、従来法の2通りと、200ワット・400ワットの超音波法です。

性質の面では、出力によって得意分野が分かれました。400ワットで抽出した粘質物は、水を吸う力が最も高くなりました(粉末100gあたり約797g)。測定した試料の中で最も高い粘度も示しました。一方、600ワットや800ワットといった高い出力では、水への溶けやすさや水を吸う力が低下しました。著者らはその理由として、強い超音波によって多糖類が分解された可能性などを挙げています。

乳化能力は、粘質物1gあたり約601〜621mLの油を乳化させる程度でした。最も高かったのは400ワットと800ワットの試料で、乳化した状態の安定性もこの2つで高くなりました。著者らは、この乳化能力が、食品によく使われる乳化剤であるカゼインナトリウムについて報告されている値(664mL)に近いと述べています。また、すべての粘質物は「擬塑性」と呼ばれる性質を示しました。これは、かき混ぜる速さが増すほど粘り気が下がる性質です。

フェノール化合物の量は、超音波の出力が高いほど増えました。最も多かったのは800ワットの試料で、粘質物1gあたり没食子酸換算で122.10mgでした。抗酸化活性も、超音波で抽出した試料で全体に高くなりました。ある測定法では、800ワットの試料が室温の従来法より約60%高い値を示しました。成分分析では、調べた35種類の標準物質のうち13種類が検出されました。最も多く含まれていたのは、フラボノイドの一種であるルチンです。400ワットの粘質物からは、すべての必須アミノ酸が検出されました。

抽出後の残渣は、粉末100gあたり15.15〜20.22gのたんぱく質を含んでいました。水への溶けやすさや水を吸う力は粘質物より低かったものの、油を吸う力は粘質物と同程度でした。フェノール化合物の量は粘質物の2〜10分の1程度でした。粘質物側に多く抽出されるほど、残渣側には少なくなるという関係が見られました。

この研究が示すこと

研究チームは、抽出方法は粘質物の収量には影響しなかった一方で、超音波を使うと得られる素材の性質が向上したとまとめています。とろみ付けや乳化の安定化を目的とするなら400ワットが適していました。フェノール化合物や抗酸化活性を重視するなら800ワットが適していました。このように、使い道に応じて抽出条件を選べることが示されました。

これまで評価されてこなかった抽出残渣にも、たんぱく質が多く残っていました。残渣は油を吸う力が高いことから、著者らは食品の食感やジューシーさ、製品の安定性の改善に使える可能性を指摘しています。脂肪の一部を置き換える素材としての可能性も挙げています。この研究は、一枚の葉から性質の異なる複数の食品素材を取り出せることを示しました。その点で、あまり活用されてこなかった植物の価値を高める手がかりとなる研究です。

原著論文の著者・所属:Larissa Millena Girotto(Department of Technology State University of Maringá Umuarama Paraná Brazil)、Dayane Lilian Gallani Silva(Department of Technology State University of Maringá Umuarama Paraná Brazil)、Anderson Reginaldo Sampaio(Department of Physics State University of Maringá Maringá Paraná Brazil)、Barbara Daniele Almeida Porciuncula(Department of Technology State University of Maringá Umuarama Paraná Brazil)、Beatriz Cervejeira Bolanho Barros(Department of Technology State University of Maringá Umuarama Paraná Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Larissa Millena Girotto, Dayane Lilian Gallani Silva, Anderson Reginaldo Sampaio, et al. Ultrasound‐Assisted Extraction of Mucilage: An Approach for the Full Utilization of Ora‐Pro‐Nóbis Leaves. Journal of Food Science 2026-08-01. DOI: 10.1111/1750-3841.71373. 原著ライセンス:CC BY.