日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Food Chemistry

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的:香りを粉末に閉じ込める新しい方法

食品などに使う香料は揮発しやすく、扱いやすい粉末にする際には香りをいかに逃がさず保つかが課題になります。これまでには、香り成分を捕まえる材料(シクロデキストリンや多孔質材料など)と混ぜてから粉末にする方法などが検討されてきました。

研究チームが注目したのは、医薬品の製剤技術で使われる「非晶質固体分散体(ASD)」という考え方を応用した香料の粉末化です。ASDでは、香り成分と担体(キャリア)となる物質を一緒に溶かして乾燥させ、結晶をつくらない固体の担体の中に香り成分を分散させます。本研究は、水になじむ性質と油になじむ性質をあわせ持つ「両親媒性」の高分子ポリビニルピロリドン(PVP)を担体に使い、乾燥前の溶液の条件が香りの保持にどう影響するかを調べました。

何を調べたか

著者らは、シナモンの香りの主成分として知られるシンナムアルデヒドをモデルの香り成分とし、平均分子量の異なるPVP(約10、24.5、55、360キロダルトン)を担体として用いました。PVPとシンナムアルデヒドをメタノールまたはエタノールに溶かし、PVP濃度を1リットルあたり25、100、200グラムとし、シンナムアルデヒドの量もPVPに対して比率を変えて調整しました。

この溶液を噴霧乾燥(溶液を霧状に噴き出して乾かし、細かい粉末にする方法)にかけ、乾燥後の粉末に残った香り成分の量と、30℃の真空条件で保存した際の香り成分の減り方を測定しました。さらに、熱分析、赤外分光、電子顕微鏡観察などで粉末の状態も調べています。なお、分子量360キロダルトンのPVPは主に繊維状になり、高濃度ではノズルが詰まって噴霧できなかったため、限られた条件でのみ検討されました。

主な結果

論文によると、仕込んだ香り成分のうち粉末に残った割合(保持率)は、PVPの分子量や溶媒の種類にかかわらず、PVP濃度が高いほどおおむね高くなり、香り成分を多く仕込むほど低下しました。メタノールとエタノールの間で保持率に有意な差は見られませんでした。

一方、粉末に残った香り成分の絶対量で見ると、仕込む香り成分の濃度を上げるにつれて保持量は増え、やがて上限に近づく形を示しました。研究チームがこの上限値をPVP1グラムあたりの最大保持量として求めたところ、PVP濃度100グラム毎リットルの条件で25や200グラム毎リットルより一貫して高く、メタノールと55キロダルトンのPVP、エタノールと24.5キロダルトンのPVPの組み合わせで、PVP1グラムあたり約4ミリモルに達しました。著者らは、これはシンナムアルデヒド1分子あたりPVPの構成単位約2個に相当すると述べています。

真空保存の実験では、香り成分の多くが失われるのは保存開始から約30日以内で、その後の減少はわずかでした。この時点で残った量はPVP1グラムあたり約1ミリモルで、著者らはこれを見かけ上ほぼ不可逆的に閉じ込められた分と解釈しています。また、仕込みの香り成分濃度が低い条件では、100日間の保存を通じて目立った減少は見られませんでした。

熱分析では粉末の中で香り成分が分離せず均一に分布していることが示され、赤外分光の結果などとあわせて、著者らは、香り成分はPVPと強く結びつくのではなく、乾燥の過程でPVP分子の内部や分子どうしの間にできる「ポケット」に閉じ込められると推定しています。ポケットの数はPVPの濃度によって変わるという仮説も示されています。

研究が示すこと

この研究は、PVPを担体とした噴霧乾燥によって、PVP1グラムあたり最大約4ミリモルという多量の香り成分を粉末に閉じ込められることを示し、溶液中のPVPの濃度や分子量、溶媒の組み合わせがその能力を左右することを明らかにしました。著者らは、PVPは乾燥時に香り成分を分子レベルで閉じ込める高い能力を持ち、他の報告されている担体に匹敵すると考えています。

ただし論文は、香料用の担体として有効かどうかを確かめるには、化学的な分解への安定性や吸湿性なども考慮する必要があるとしています。今回の保存試験は真空条件に限られており、湿度や酸素の影響は評価されていません。

原著論文の著者・所属:Haruna Sato(Division of Applied Chemistry, Graduate School of Environmental, Life, Natural Science and Technology, Okayama University, 3-1-1 Tsushima-naka, Kita-ku, Okayama 700-8530, Japan)、Nao Honda(Division of Applied Chemistry, Graduate School of Environmental, Life, Natural Science and Technology, Okayama University, 3-1-1 Tsushima-naka, Kita-ku, Okayama 700-8530, Japan)、Takato Hasegawa(Division of Applied Chemistry, Graduate School of Environmental, Life, Natural Science and Technology, Okayama University, 3-1-1 Tsushima-naka, Kita-ku, Okayama 700-8530, Japan)、Chika Araga(Division of Applied Chemistry, Graduate School of Environmental, Life, Natural Science and Technology, Okayama University, 3-1-1 Tsushima-naka, Kita-ku, Okayama 700-8530, Japan)、Hiroyuki Imanaka(Division of Applied Chemistry, Graduate School of Environmental, Life, Natural Science and Technology, Okayama University, 3-1-1 Tsushima-naka, Kita-ku, Okayama 700-8530, Japan)、Naoyuki Ishida(Department of Chemical Engineering and Material Sciences, Faculty of Science and Engineering, Doshisha University, 39-16 Tatara Nishihirakawara, Kyotanabe-shi, Kyoto-fu 610-0321, Japan)、Koreyoshi Imamura(Division of Applied Chemistry, Graduate School of Environmental, Life, Natural Science and Technology, Okayama University, 3-1-1 Tsushima-naka, Kita-ku, Okayama 700-8530, Japan. Electronic address: [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Haruna Sato, Nao Honda, Takato Hasegawa, et al. Flavor encapsulation capacities of amphiphilic polyvinylpyrrolidone as a carrier for amorphous solid dispersions. Food Chemistry 2026-08-22. DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.150819. 原著ライセンス:CC BY.