著者の所属・活動拠点の国は、チリです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
合成着色料に代わる天然の色素への関心が高まるなか、黒ニンジンは青紫色の色素アントシアニンを多く含む素材として注目されています。ただしアントシアニンは、温度、光、酸素、pHなどの影響を受けて壊れやすい性質があります。そのため、食品の材料として使うには、保存中に分解されにくく、食べたあとも消化の過程で十分に溶け出せる形にすることが課題になります。
そこで役立つのが「マイクロカプセル化」です。これは、有効成分を細かな粒子の中に包み込み、外の環境から守る技術です。食品工業では、液体を霧状に吹き付けて熱風で一気に乾かす「噴霧乾燥」がよく使われます。一般的な装置は1種類の液を噴霧するノズルを使います。一方、「三流体ノズル」と呼ばれる装置では、中心から噴霧した液を外側から噴霧した液が包むため、粒子の表面にもう一層の膜を作れます。
著者らによると、黒ニンジンのアントシアニンについて、通常の噴霧乾燥と三流体ノズルによる噴霧乾燥を最適化した条件で比べた研究は、今回が初めてです。研究チームは、黒ニンジン果汁のアントシアニンを粉末化する条件を最適化しました。そのうえで、2つの方法が「包み込みの効率」「保存中の安定性」「模擬消化後に溶け出す割合」に与える影響を比べました。
何をどのように調べたか
材料には、チリの試験場で2022年に栽培した黒ニンジン品種「ディープパープル」を使い、その果汁を粉末化しました。原料の黒ニンジンを分析したところ、アントシアニンのほとんどは、ほかの分子が結合した「アシル化」と呼ばれる形で、その割合は94.8%でした。また、黒ニンジンのアントシアニンの成分分析では、最も多い1種類だけで全体の約83%を占めていました。
包み込む材料には、水に溶けやすい糖類のマルトデキストリンを使いました。外側の層には、多糖類のアルギン酸ナトリウムを使いました。研究チームはまず、マルトデキストリンだけで包む通常の噴霧乾燥について、吹き込む熱風の温度と、果汁とマルトデキストリンの比率を変えて試験しました。そして、アントシアニンがどれだけ粒子の内部に包み込まれるかを示す「封入効率」が最も高くなる条件を探しました。
次に、決まった条件で2種類の粒子を作りました。1つは通常の噴霧乾燥でマルトデキストリンだけで包んだ粒子、もう1つは三流体ノズルを使い、外側にアルギン酸ナトリウムの層を加えた粒子です。これらと包んでいない果汁を、60℃で4750時間(198日)保存し、アントシアニンの残り具合を比べました。さらに、口、胃、腸の条件を試験管内で順に再現する模擬消化を行いました。消化のあとで液体部分に溶け出したアントシアニンの割合を「バイオアクセシビリティ」として評価しました。これは、消化の過程で食品から放出され、体内で吸収されうる状態になった割合の目安となる値です。
主な結果
条件の検討では、封入効率は50%から98%まで変わりました。最適な条件は、熱風温度150℃、果汁とマルトデキストリンの比率1対2でした。この条件で作った2種類の粒子は、どちらも封入効率が90%を超えていました。外側にアルギン酸ナトリウムの層を加えた粒子も93%を上回り、高い効率を保っていました。2種類の粒子のあいだで、水分の状態(水分活性)やアントシアニンの含有量に統計的な差は見られませんでした。
保存試験では、どの試料でもアントシアニンは残っている量に比例する速さで、時間とともに減っていきました。著者らは、マイクロカプセル化による保護効果が明らかだったと報告しています。一方で、結論では、アルギン酸ナトリウムの外層を加えても熱に対する安定性はそれ以上には高まらなかったと述べています。
大きな違いが出たのは模擬消化の結果です。マルトデキストリンだけで包んだ粒子のバイオアクセシビリティは88.4%で、比較した試料の中で最も高くなりました。これに対して、アルギン酸ナトリウムの外層を加えた粒子では44.1%と大きく下がりました。著者らは、この低下はアントシアニンが多く分解されたためではないと考えています。腸の条件でアルギン酸ナトリウムが水を吸ってゲル状の網目を作り、アントシアニンが外へ溶け出すのを妨げたためだと説明しています。
成分ごとの分析では、腸の中性に近いpHと酵素の働きによって、複雑なアシル化型のアントシアニンが、より単純な非アシル化型へ変わる様子が確認されました。
この研究が示すこと
この研究からは、粒子の外側に層を重ねる工夫が、必ずしも良い結果につながるとは限らないことがわかります。今回の条件では、マルトデキストリンだけで包む通常の噴霧乾燥でアントシアニンを守りつつ、模擬消化の過程でよく溶け出す粉末が得られました。外側にアルギン酸ナトリウムの層を加えると、かえって溶け出しが抑えられました。著者らは、黒ニンジンを使った食品素材を作るには、マルトデキストリンだけで包む方法の方が適していると結論づけています。
原著論文の著者・所属:Cristina Vergara(Instituto de Investigaciones Agropecuarias, INIA La Platina, Santa Rosa 11610, Santiago 8831314, Chile)、María Teresa Pino(Instituto de Investigaciones Agropecuarias, INIA La Platina, Santa Rosa 11610, Santiago 8831314, Chile)、Javier Parada(Instituto de Ciencia y Tecnología de los Alimentos (ICYTAL), Facultad de Ciencias Agrarias y Alimentarias, Universidad Austral de Chile, Av. Julio Sarrazin s/n Campus Isla Teja, Valdivia 5090000, Chile)、Olga Zamora(Instituto de Investigaciones Agropecuarias, INIA La Platina, Santa Rosa 11610, Santiago 8831314, Chile)、Paz Robert(Departamento de Ciencia de los Alimentos y Tecnología Química, Facultad de Ciencias Químicas y Farmacéuticas, Universidad de Chile, Santiago 8380000, Chile)、Paula García(Departamento de Nutrición, Facultad de Medicina, Universidad de Chile, Santiago 8380453, Chile)、María José Farias(Instituto de Investigaciones Agropecuarias, INIA La Platina, Santa Rosa 11610, Santiago 8831314, Chile)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Cristina Vergara, María Teresa Pino, Javier Parada, et al. Microencapsulation of Black Carrot Anthocyanins by Conventional and Three-Nozzle Spray-Drying: Effect on Storage Stability and Bioaccessibility. Foods 2026-08-12. DOI: 10.3390/foods15162811. 原著ライセンス:CC BY.