この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
肥満の治療では、「1日500〜750キロカロリー減らし、週150分以上の運動をする」といった標準的な生活習慣指導が基本とされてきました。しかし著者らは、同じ指導をしても減量の成果には個人差が大きいことを問題として挙げています。そこで注目されているのが、体重が増えやすい理由を人によって測定して分類し、それに合わせて助言を変える「表現型に合わせた生活習慣指導(PLI)」という考え方です。ここでいう表現型とは、食事で満腹になりにくい、食後の満足感が続きにくい、安静時のエネルギー消費が低い、感情に左右されて食べてしまうといった、測定できる体質・行動上の特徴を指します。
もとになったPHENO-Diet試験では、PLIを受けた人の方が標準的な指導(SLI)を受けた人より減量幅が大きかったことが報告されていました。ただし両群で食事の中身がどう違っていたかは調べられていませんでした。今回の論文は、その試験のデータを使った二次解析として、12週間後の摂取エネルギー量と、炭水化物・脂質・たんぱく質の構成がどう違うかを調べたものです。研究チームは、体重減少の結果そのものを再検討するのではなく、食事内容の変化を記述することが今回の狙いだと述べています。
何をどう調べたか
対象はBMIが30以上の成人で、米国メイヨー・クリニックで行われた12週間の介入試験の参加者です。この試験は無作為割り付け(くじ引きのような方法で群を決めること)ではなく、時期を分けて前半にSLI、後半にPLIを実施する設計でした。参加者は前述の4つの表現型に分類されましたが、これらは互いに排他的ではなく、複数に当てはまる人もいました。今回の解析には、開始時と介入中に食事記録を提出した77人が含まれています。
食事内容は「24時間思い出し法」という、前日1日分に食べたもの・飲んだものを本人が書き出す方法で集められました。記録は、どちらの群かを知らされていない管理栄養士が記入漏れや矛盾を確認したうえで栄養計算ソフトに入力されました。結果は開始時の値や年齢・性別・体重を統計的に考慮したうえで、12週時点の両群を比較しています。なお、たんぱく質については牛乳・ヨーグルト・チーズ・ホエイなど乳由来のものを別に集計し、総エネルギーに占める割合も求めています。
重要な点として、PLIでは「炭水化物を何割に」といった栄養素の数値目標は示されていません。助言はあくまで食べ物や食べ方の形で与えられました。たとえば満腹になりにくい人には、食物繊維や野菜・果物の多い低カロリーでかさのある食事を8時間の時間枠内でとるよう、食後の満足感が続きにくい人には食前のたんぱく質を含む高たんぱく食を、エネルギー消費が低い人には高たんぱく食と筋力トレーニングなどの運動を、感情的に食べてしまう人には間食なしの規則的な3食と認知行動療法などのグループセッションが勧められました。
報告された主な結果
12週時点で、1日の総摂取エネルギーはPLI群が1273±182キロカロリー、SLI群が1894±176キロカロリーで、PLI群の方が低いと報告されました(p=0.018)。差の主な内訳は炭水化物(464±76対818±73キロカロリー、p=0.002)と脂質(479±76対697±73キロカロリー、p=0.036)で、いずれもPLI群が低い値でした。
一方、たんぱく質の絶対量には両群で差がありませんでした(321±29対359±28キロカロリー、p=0.306)。ただし総エネルギーに占めるたんぱく質の割合はPLI群で26.8±1.6%、SLI群で19.8±1.5%と差がみられ(p=0.003)、乳由来たんぱく質が総エネルギーに占める割合もPLI群の方が高い値でした(6.8±0.8%対3.7±0.7%、p=0.004)。栄養素の比率を指示していないにもかかわらずこうした差が現れたことを、著者らは表現型に沿った助言の結果と解釈しています。
表現型ごとの比較は探索的な解析として行われ、4つのうち3つ(エネルギー消費が低い、感情的に食べる、満腹になりにくい)ではPLI群の摂取エネルギーが低いという結果でしたが、食後の満足感が続きにくい群では両群に差がみられませんでした。著者らはこれらの小集団の結果について、人数が少なく、表現型が重複しうるため独立した比較ではないことから、慎重に解釈すべきで再現の確認が必要だと述べています。
この研究が示すこと
著者らは、限界をはっきり挙げています。食事量は本人の申告に基づくため、これは「報告された摂取量」であって実測値ではなく、減少の大きさはその前提で読む必要があります。また無作為割り付けではない設計のため、因果関係を結論づけることはできません。さらに、食事・運動・行動の各要素が同時に提供されたことから、食事の個別化だけの効果を切り出すことはできないとされています。栄養素構成や乳由来たんぱく質の解析は事前に計画されたものではなく、仮説を立てるための探索的な分析だと位置づけられています。
それでもこの二次解析は、一律のカロリー目標を示す代わりに、その人が食べ過ぎてしまう仕組みに合わせて食べ物と食べ方を助言するという方法が、実際の食事内容にどのような違いとして現れたのかを具体的に記述しています。数値目標を与えずとも炭水化物が減り、たんぱく質の相対的な比重が増えるという一貫した変化が観察されたことは、肥満の管理において個別化された食事の考え方を検討する手がかりになる、というのが著者らの見方です。
著者:María Espinosa(Precision Medicine for Obesity Program, Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)、Lindsey Sefried(Precision Medicine for Obesity Program, Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)、Jose Villamarin(Precision Medicine for Obesity Program, Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)、Lizeth Cifuentes(Precision Medicine for Obesity Program, Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)、Thomas W Fredrick(Precision Medicine for Obesity Program, Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)、Diego Añazco(Precision Medicine for Obesity Program, Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)、Sima Fansa(Precision Medicine for Obesity Program, Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)、Jamie Friend(Precision Medicine for Obesity Program, Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)、Thomas M. Rieck(Healthy Living Program, Integrative Medicine and Health, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)、Michael Camilleri(Clinical Enteric Neuroscience Translational and Epidemiological Research, Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)、Maria Daniela Hurtado(Division of Endocrinology, Diabetes, Metabolism, and Nutrition, Department of Medicine, Mayo Clinic, Jacksonville, FL 32224, USA)、Matthew M. Clark(Department of Psychiatry and Psychology, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)、Donald D. Hensrud(Division of Endocrinology, Diabetes, Metabolism, and Nutrition, Department of Medicine, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)、Andres Acosta(Precision Medicine for Obesity Program, Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):María Espinosa, Lindsey Sefried, Jose Villamarin, et al. Effect of a Phenotype-Tailored Lifestyle Intervention on Caloric Intake and Macronutrient Composition in Adults with Obesity: A Secondary Analysis of the PHENO-Diet Trial. Nutrients 2026-09-25. DOI: 10.3390/nu18193159. 原著ライセンス:CC BY.