この研究は、スペインの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとした研究か
亜鉛は、成長や発達、免疫のはたらきなどに関わる必須の微量元素です。亜鉛の状態を調べる方法としては、血液(血清)中の亜鉛濃度を測る方法と、食事から摂れている亜鉛の量を記録する方法があります。しかし研究チームは、以前の自分たちの研究で、食事からの亜鉛摂取が基準を下回っていても血清亜鉛濃度は基準の範囲に収まっていることがあり、両者のあいだに統計的に意味のある関連が見られなかったことを報告していました。
そこで著者らは、慢性疾患をもつ子どもと若者について、「食事からの摂取は足りているか」という評価と「血清亜鉛濃度」の評価がどの程度食い違うのか(不一致の実態)を明らかにすることを主な目的としました。あわせて、血清亜鉛濃度の区分ごとに、臨床・身体計測・栄養・血液検査の特徴にどんな違いがあるかを探索的に調べています。
この研究は、新たに患者を集めたものではなく、2002年3月から2003年9月にスペイン・バリャドリッド大学臨床病院の栄養ユニットで集められたデータを使った二次解析です。同じデータは2019年と2021年に別の研究として報告されており、今回は論点を変えて再分析したものだと著者らは説明しています。
調べ方と、報告された主な結果
対象は1歳以上20歳未満で慢性疾患をもつ90人(女性49人、男性41人、平均9.6歳)です。血清亜鉛濃度は空腹時の血液を原子吸光分光法で3回ずつ測定しました。食事は、採血前の週に平日2日と休日1日を含む72時間の食事記録を前向きに付けてもらい、栄養計算ソフトでエネルギーや各栄養素の摂取量を算出し、スペインの食事摂取基準に対する割合として表しました。
血清亜鉛濃度は、日本臨床栄養学会の2018年の指針で示された区切り(60µg/dL未満、60以上80µg/dL未満、80µg/dL以上)で分類しました。ただし著者らは、この区切りは主に成人向けに作られたもので、子どもの診断基準として検証されたものではないため、60〜80µg/dL未満という区分はあくまで分析上の「中間域」として扱う、と明記しています。食事については、基準値の80%未満を「摂取が少ない」とする運用上の線引きを用いており、これも診断基準ではないと述べています。
結果として、90人のうち28人(31%)が中間域(60〜80µg/dL未満)に入り、55人(61%)は食事からの摂取が基準値の80%未満でした。二つの評価が食い違った人は全体の53.3%にのぼります。内訳を見ると、食事からの摂取は少ないのに血清亜鉛は正常域(80µg/dL以上)だった人が37人(41%)、逆に食事は足りているのに血清亜鉛が中間域だった人が10人(11%)でした。血清亜鉛濃度の3区分と食事の2区分を照らし合わせた検定では、統計的に意味のある関連は認められませんでした(p=0.466)。血清亜鉛濃度の中央値は86.8µg/dL、食事からの亜鉛摂取量の中央値は基準値の67.3%でした。
中間域に入った人たちと正常域の人たちを比べると、ビタミンB6・D・Eの摂取量、トリグリセリド(中性脂肪)、赤血球沈降速度(ESR、炎症の指標のひとつ)、IgG3が高く、ヘモグロビンが低いという違いが見られたと報告されています。ただし著者らは、この比較が多数の項目を一度に調べた探索的なもので、多重比較の補正をしていない値であることを強調し、慎重に受け取るべき仮説の候補だと位置づけています。偽陽性を抑える補正(Benjamini–Hochberg法)を行った後にも残った関連は3つだけで、いずれも食事からの亜鉛摂取量と他の栄養素の摂取量との相関でした。血清亜鉛濃度に関わる相関は、補正後にはひとつも統計的な有意性を保ちませんでした。
この報告が示していること
著者らの結論は、食事からの亜鉛摂取量と血清亜鉛濃度は食い違うことが多く、この二つは互いに置き換えられる指標ではなく、亜鉛の状態について別々の側面をとらえる補完的な指標だということです。血清亜鉛濃度は年齢や性別、採血の時間帯、炎症や感染、代謝の変化といった食事以外の要因にも左右されるため、摂取量だけから個人の血中濃度を言い当てることはできない、と説明されています。
中間域で見られた特徴についても、著者らは因果関係を示すものではないと繰り返し述べています。対象者の病気の種類が多岐にわたり、それぞれが食事量や炎症、脂質代謝、血液の値に独自に影響するため、観察された違いを亜鉛の状態だけに帰することはできないからです。研究の限界として、データが2002〜2003年のもので現在の状況を反映していない可能性、対象の臨床的なばらつきの大きさ、中間域が28人と少なく統計的な検出力が限られることも挙げられています。
著者らがこの研究から引き出している意味は、単一の指標で子どもの亜鉛の状態を把握することがそもそも難しい、という点にあります。今回示された中間域の特徴は、今後確かめるべき関連の候補にとどまるものだと位置づけられています。
著者:Marlene Fabiola Escobedo-Monge(Department of Chemistry, Science Faculty, University of Burgos, Plaza Misael Bañuelos SN, 09001 Burgos, Spain)、José Manuel Marugán‐Miguelsanz(Department of Pediatrics, Faculty of Medicine, University of Valladolid, Avenida Ramón y Cajal, 7, 47003 Valladolid, Spain)、Joaquín Parodi-Román(Science Faculty, University of Cadiz, Paseo de Carlos III, 28, 11003 Cadiz, Spain)、María Antonieta Escobedo-Monge(Department of Chemistry, Science Faculty, University of Burgos, Plaza Misael Bañuelos SN, 09001 Burgos, Spain)、Pilar Bahillo-Curieses(Department of Pediatrics, Faculty of Medicine, University of Valladolid, Avenida Ramón y Cajal, 7, 47003 Valladolid, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Marlene Fabiola Escobedo-Monge, José Manuel Marugán‐Miguelsanz, Joaquín Parodi-Román, et al. Serum Zinc Concentrations and Dietary Zinc Adequacy in Children and Adolescents with Chronic Conditions: An Exploratory Secondary Analysis. Nutrients 2026-10-01. DOI: 10.3390/nu18193245. 原著ライセンス:CC BY.