この研究は、オランダの研究機関の研究論文です。
掲載誌:European Journal of Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
超加工食品(工業的に配合・加工された食品で、原材料の姿をほとんどとどめないもの。論文ではNova分類の第4群として扱われています)を多く含む食事は、満腹感の signalling(食べた後に「満ちた」と感じさせる体内の仕組み)を弱め、結果としてエネルギー摂取量を増やすのではないか、という仮説がこれまで提案されてきました。著者らは、この仮説を検証するにあたり、食品の栄養組成やエネルギー密度だけでなく、食感に由来する「食べる速さ(g/分)」も満腹感を左右する重要な要素だと整理しています。ゆっくり食べるとGLP-1やPYYといった満腹感に関わるホルモンの反応が高まり、空腹感に関わるグレリンがより抑えられることが先行研究で報告されているためです。
そこで研究チームは、普段は超加工食品の摂取が少ない人が超加工食品中心の食事に移行したときに、満腹感の反応性が変化するかどうかを主要な目的として調べました。副次的な目的は、食事全体の食べる速さ(速く食べられる食感か、ゆっくり食べる必要のある食感か)がその反応性に影響するかどうかを確かめることです。本論文は、1日あたりのエネルギー摂取量を主要アウトカムとした無作為化比較試験の二次解析として報告されています。
何をどう調べたか
オランダのヴァーヘニンゲン大学で2024年1月から11月にかけて実施されました。対象は21〜50歳、BMI 21〜27 kg/m²の健康な成人で、普段の食事のうち超加工食品が重量ベースで50%を超える人は除外されています。参加者は全員が2種類の超加工食品食(食感によって食べる速さが遅くなる「Slow UPF」と、相対的に速くなる「Fast UPF」)を14日間ずつ体験し、その間に14日間の休止期間を挟んで普段の食事に戻りました。どちらの食事を先に行うかは無作為に割り付けられ、参加者には研究の真の狙いは伏せられていました。2つの食事は、1食あたりの提供量、提供エネルギー、エネルギー密度、見た目のかさ、好ましさ、なじみ深さなどをそろえたうえで、食べる速さだけが意図的に異なるように設計されています。食事は原則として研究施設内で提供され、量は自由に食べられる条件でした。
満腹感の反応性は2つの方法で測られました。1つは「急性」の反応で、試験開始前(普段の食事のとき)と各14日間の食事期間の11日目または12日目に、同じ内容の固定カロリーの試験食(米のポリッジとチョコレートミルク、計552 kcal)を食べてもらい、その後180分にわたって空腹感・満腹感などの主観的な評価(100 mmの線上で答える方式)と、血中のGLP-1、グレリン、PYY、膵ポリペプチド(PP)の濃度を繰り返し測定するものです。もう1つは「経時的」な変化で、各食事期間中は毎朝の朝食前に空腹感や満腹感を記録してもらいました。解析は41名(うち採血を伴うホルモン測定は32名)を対象に行われています。
報告された主な結果
著者らの報告によれば、固定カロリー食への主観的な反応は、各時点ごとに見ると、普段の食事のときと2種類の超加工食品食の後とでほとんど差がありませんでした。ただし、180分間の推移をまとめた総曲線下面積(AUC)で比べると、どちらの超加工食品食の後も、開始前と比べて空腹感が高く、満腹感が低いという統計的に有意な差が認められました。一方、空腹時の主観評価の差は100 mm尺度で0〜6 mm程度にとどまり、満腹感のみ7 mmの差が出ましたが、著者らはこれを10 mm未満であることから無視できる程度と位置づけています。
満腹感に関わるホルモンについては、固定カロリー食後の反応(GLP-1、グレリン、PP、PYY)はいずれも、開始前と各超加工食品食の後とで有意な差がありませんでした。例外は空腹時のPYYで、Fast UPF食の後は開始前より17%高い値が報告されています。ただしこの違いは食後の反応には現れませんでした。
副次的な目的であった食べる速さの影響については、急性の反応でも、14日間を通じた朝の空腹感・満腹感の推移でも、Slow UPF食とFast UPF食のあいだに有意な差は認められませんでした。また、毎朝の空腹時評価は、どちらの食事期間中も日が経つにつれて変化することはなく、安定していたと報告されています。
この研究が示すこと
著者らは、超加工食品の摂取をエネルギー比で約95%まで大幅に増やしても、満腹感の反応性が明確かつ系統的に変化したとは言えない、と結論づけています。AUCで見た空腹感・満腹感には小さな差が出たものの、個々の時点の主観評価にも、ホルモンの食後反応にも対応する変化は伴っていませんでした。著者らはこの差について、14日間の自由摂取の食事に対して試験食が小さな固定量だったことが影響した可能性を推測として挙げつつ、慎重な解釈を求めています。
研究チームが挙げた限界としては、比較の基準となる開始前の測定が7日間の自由な生活下の食事にもとづいており、同等の介入水準としては14日間の管理された食事を基準にするほうが適切だった点があります。また、本解析は1日あたりのエネルギー摂取量を主要アウトカムとする試験の二次解析であり、この目的のために設計されたものではありません。
そのうえで著者らは、食後の満腹感の違いを生む要因としては、加工の度合いそのものよりも食べ方に関わる性質のほうが影響しやすいのではないかと論じています。超加工食品の摂取を一律に減らすことに焦点を当てるより、加工度とは独立に摂取量や満腹感に関わる食品の性質を見きわめることが、食環境を改善する手がかりになりうる、というのが本論文の示した視点です。
著者:Marieke van Bruinessen(Sensory Science and Eating Behavior Group, Division of Human Nutrition and Health, Wageningen University and Research, Wageningen, The Netherlands)、Zhen Liu(Sensory Science and Eating Behavior Group, Division of Human Nutrition and Health, Wageningen University and Research, Wageningen, The Netherlands)、Lise A.J. Heuven(Sensory Science and Eating Behavior Group, Division of Human Nutrition and Health, Wageningen University and Research, Wageningen, The Netherlands)、Markus Stieger(Sensory Science and Eating Behavior Group, Division of Human Nutrition and Health, Wageningen University and Research, Wageningen, The Netherlands)、Marlou P. Lasschuijt(Sensory Science and Eating Behavior Group, Division of Human Nutrition and Health, Wageningen University and Research, Wageningen, The Netherlands)、Ciaran Gerard Forde(Sensory Science and Eating Behavior Group, Division of Human Nutrition and Health, Wageningen University and Research, Wageningen, The Netherlands)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Marieke van Bruinessen, Zhen Liu, Lise A.J. Heuven, et al. Satiety responsiveness following dietary exposure to ultra-processed foods differing in texture-derived eating rate: a secondary analysis of a randomized controlled crossover diet intervention. European Journal of Nutrition 2026-09-24. DOI: 10.1007/s00394-026-04111-7. 原著ライセンス:CC BY.