著者の所属・活動拠点の国は、インドネシア、マレーシアです。

掲載誌:Journal of the Saudi Society of Agricultural Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

農業は世界の淡水取水量のおよそ7割を占めます。水不足や気候の変動が進むなか、作物の生産を保ちながら水を効率よく使う灌漑の方法が求められています。

研究チームが注目したのは「ポケット施肥灌漑(ポケットファーティゲーション)」です。これは、根の周りに輪の形をした多孔質の給水具を埋め、養分を貯める部分とつなげて、水と肥料を根の近くの土の中へ同時に届ける仕組みです。土の表面から水を与える通常の方法と比べ、表面からの無駄な蒸発を抑え、根の近くの土を湿った状態に保てる可能性があるとされています。

著者らによると、これまでのポケット施肥灌漑の研究は、主に給水具の設計や短期間の反応を調べたものでした。灌水量の違いによって効果がどう変わるかは、まだよく分かっていませんでした。そこで本研究では、ポケット施肥灌漑による収量や水利用への効果が灌水量によって変わるのかを、温室のメロン栽培で検証しました。

何をどのように調べたか

実験はインドネシア西ジャワ州ボゴール市の温室で、2023年に2回続けて行われました。1回目(6〜8月)は「ゴールデン・アリシャ」、2回目(9〜12月)は「チェリア」という別のメロン品種を栽培しました。

比べた条件は、灌漑方式2種類と灌水量2段階の組み合わせです。灌漑方式は、土の表面に養液を与える通常の施肥灌漑と、ポケット施肥灌漑です。灌水量は、蒸発計の皿から蒸発する水の量(パン蒸発量)の1.0倍と1.5倍としました。著者らは、この「1.5倍」は作物が実際に消費する水の量の1.5倍という意味ではない、と注意を促しています。組み合わせは4通りで、それぞれ鉢植えの株5つずつを使いました。

評価に使ったのは、根の周りの土の水分、収量、果実の甘さ(糖度)、水生産性、ウォーターフットプリントです。水生産性は、使った水の量あたりにどれだけ収穫できたかを示します。ウォーターフットプリントは、作物1トンを生産するのに必要な水の量を示します。この2つの指標は、同じ水利用の効率を逆の向きから表すものです。

主な結果

2回目の栽培期間は1回目より日射が強く、平均日射量は約85%、作物の蒸発散量(水の消費量)の累積は約61%多くなりました。栽培期間の違いは、調べた4つの指標すべてに統計的に意味のある差をもたらしました。2回目は1回目より収量と水生産性が高く、ウォーターフットプリントが低くなりました。たとえばウォーターフットプリントは、1回目が1トンあたり約92〜157立方メートル、2回目が約66〜133立方メートルでした。一方、糖度は1回目の方がおおむね高い結果でした。

灌水量は収量に影響し、パン蒸発量の1.5倍の灌水では1.0倍より収量が全体として多くなりました。ただし、養液の濃度は全区で同じだったため、灌水量が多い区では肥料の量も多くなっています。著者らは、水と養分のどちらが収量の増加に寄与したのかは、この実験では区別できないとしています。また、灌水量に対する収量の反応は、2回の栽培期間で異なっていました。

一方、ポケット施肥灌漑と通常の方法の違いは、収量、糖度、水生産性、ウォーターフットプリントのいずれにも統計的に意味のある差を生みませんでした。灌漑方式と灌水量の組み合わせによる効果も確認されませんでした。ポケット施肥灌漑の区では、同じ灌水量で比べると根の周りの土の水分が数値の上では高めでしたが、著者らはこれを観察にとどまるものと位置づけ、因果関係が確かめられたわけではないと述べています。

結果の意味と注意点

著者らは、収量だけでなく水生産性とウォーターフットプリントも組み合わせて見ることで、灌漑の成果をより広い視点から評価できたとしています。一方で、今回の結果からポケット施肥灌漑が通常の方法より優れていると結論づける根拠は十分ではない、とも明言しています。

解釈にはいくつかの制約があります。2回の栽培期間で品種が異なるため、期間による差が季節の影響なのか品種の影響なのかは区別できません。また、同じ処理の株を温室内でまとめて配置したため、置き場所の影響を処理の効果と完全には切り分けられません。この研究は、ポケット施肥灌漑への期待をそのまま裏づけるものではありません。今回の温室条件での成果と限界を慎重に示した報告といえます。

原著論文の著者・所属:Milah Shofiyati(Department of Civil and Environmental Engineering, IPB University, Bogor, Indonesia)、Chusnul Arif(Department of Civil and Environmental Engineering, IPB University, Bogor, Indonesia; Division of Sustainable Infrastructure Engineering, IPB University, Bogor, Indonesia)、Satyanto Krido Saptomo(Department of Civil and Environmental Engineering, IPB University, Bogor, Indonesia; Division of Sustainable Infrastructure Engineering, IPB University, Bogor, Indonesia)、Rudiyanto Rudiyanto(Faculty of Fisheries and Food Science, Universiti Malaysia Terengganu, Kuala Terengganu, Malaysia)、Muh Taufik(Department of Geophysics and Meteorology, IPB University, Bogor, Indonesia)、Willy Bayuardi Suwarno(Department of Agronomy and Horticulture, IPB University, Bogor, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Milah Shofiyati, Chusnul Arif, Satyanto Krido Saptomo, et al. Integrating water productivity and water footprint assessment for evaluating pocket fertigation in greenhouse melon cultivation. Journal of the Saudi Society of Agricultural Sciences 2026-10-27. DOI: 10.1007/s44447-026-00200-5. 原著ライセンス:CC BY.