この研究は、ポルトガル、クロアチアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜドングリを調べたのか

ドングリはブナ科コナラ属(Quercus)の樹木が実らせる果実で、北半球に広く分布しています。ポルトガルの「モンタード」やスペインの「デエサ」と呼ばれる林と牧地を組み合わせた土地利用の中では、生態的にも経済的にも重要な位置を占めてきました。しかし、著者らによれば、かつて食べられていたドングリの利用は20世紀のあいだにほぼ姿を消してしまいました。

論文は、ポルトガルではコナラ属の樹木が国内森林面積の約36%を占め、年間およそ40万トンのドングリが生産されると推定されているという報告を引いています。そのうち約55%は採取されないまま放置されているとされ、活用されていない資源が大量にあることになります。

そこで研究チームは、7種のコナラ属(Q. pubescens、Q. ilex、Q. cerris、Q. petraea、Q. robur、Q. rotundifolia、Q. suber)から得たドングリについて、栄養成分と脂肪酸の組成、さらに食品加工に関わる性質を比べることを目的としました。著者らは、複数の種を異なる地域にまたがって比較した研究はまだ限られていると述べています。

何をどう調べたか

試料は、クロアチア(南東ヨーロッパ)とイベリア半島の異なる気候地域で、各収穫期(試料によって2022年から2024年)の10月から12月に採取されました。1か所につき1kgずつ3つの独立したまとまりを集め、それぞれ3本以上の木から採ったドングリをまとめています。

研究チームは実(可食部にあたる「粉」)と殻を手で分け、40℃で24時間乾燥させた後、200µm未満の細かい粉になるまで粉砕しました。粒の大きさを全種で揃えたのは、成分の抽出しやすさや栄養データを比べられるようにするためです。

分析では、水分・灰分(無機成分すなわちミネラルの総量)・タンパク質・脂質・総食物繊維・糖・炭水化物といった一般的な成分をAOAC法という標準的な手順で測り、脂肪酸の組成はガスクロマトグラフィーで調べました。加えて、デンプンの量やアミロース(デンプンを構成する成分の一つ)の割合、水や油を吸う能力、そしてマイクロビスコアミログラフという装置で加熱したときの糊化(デンプンが水と熱で粘りを持つ変化)や粘度の推移を測定しています。なお、Q. suberは試料量が足りなかったため、デンプンと粘度に関する測定は残る6種に限られました。

報告された主な結果

著者らの報告では、ドングリの粉は炭水化物が多く(乾燥重量で最大74.8%)、脂質は中程度(Q. pubescensの粉で16.9%に達する)、タンパク質は少ない、という特徴を示しました。一方で殻は食物繊維が際立って多く、クロアチア産Q. roburの殻では乾燥重量の77.0%に達しました。殻は主にセルロースやヘミセルロース、リグニンといった構造をつくる多糖類からできているためで、他のナッツ類の殻と似た性質だと説明されています。

脂質の中身は不飽和脂肪酸が優勢で、とくにオレイン酸(最大63.7%)とリノール酸が多くを占めました。タンパク質については、すべての種で実の部分が殻より多く、栄養素が果実の中で場所ごとに分かれて蓄えられていることが示されました。

粘度の測定では種による明確な違いが見られ、著者らはこれをデンプン部分の構造そのものが種によって異なることの反映だと述べています。

ただし研究チームは、この研究の設計上の限界をはっきりと述べています。種・産地・収穫年・加工の条件が互いに絡み合っており、ある違いが特定の環境要因や地理的要因によるものだと断定することはできません。異なる年や場所で採った試料は、同じ集団を追跡したものではなく、別々の集団を表しています。著者らは、観察された違いは集団の多様性が合わさったものであり、条件を揃えたバランスの取れた設計による今後の検証が必要だと位置づけています。

この研究が示すもの

この研究は、放置されがちな森の資源であるドングリについて、種ごと、そして実と殻という部位ごとの成分の姿を横断的に示しました。実はグルテンを含まない炭水化物と脂質に富む素材として、殻は食物繊維の供給源として、それぞれ異なる特徴を持つことが数値とともに記録されています。

著者らは、こうしたデータが、ドングリを食品の材料として使うことを検討するための基礎となり、これまで捨てられていた部分も含めて資源を循環させる考え方を裏づけるものだと述べています。同時に、得られた結果はあくまで予備的な観察であり、条件を揃えた比較によって確かめられるべきものとされています。

著者:Leonardo G. Inácio(ALiCE—Associate Laboratory in Chemical Engineering, Faculty of Engineering, University of Porto, Rua Dr. Roberto Frias, 4200-465 Porto, Portugal)、Daniela Godinho(University of Leiria and Oeste, 2411-901 Leiria, Portugal)、Susana M. S. A. Bernardino(ALiCE—Associate Laboratory in Chemical Engineering, Faculty of Engineering, University of Porto, Rua Dr. Roberto Frias, 4200-465 Porto, Portugal)、Clélia Afonso(Aquatic Research Network (ARNET), University of Leiria and Oeste, 2520-614 Peniche, Portugal)、Marko Jukić(Faculty of Food Technology Osijek, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, F. Kuhaca 18, 31000 Osijek, Croatia)、Jasmina Lukinac(Faculty of Food Technology Osijek, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, F. Kuhaca 18, 31000 Osijek, Croatia)、Raul Bernardino(ALiCE—Associate Laboratory in Chemical Engineering, Faculty of Engineering, University of Porto, Rua Dr. Roberto Frias, 4200-465 Porto, Portugal)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Leonardo G. Inácio, Daniela Godinho, Susana M. S. A. Bernardino, et al. Comparative Nutritional, Rheological, and Lipid Profiling of Acorn Flours from Seven Quercus Species: A Scientific Framework for Functional Food Applications. Foods 2026-09-24. DOI: 10.3390/foods15193398. 原著ライセンス:CC BY.