野菜や果物を多く食べる人は、そうでない人に比べて気分が落ち込みにくいのだろうか。それとも加工食品や甘い飲み物の摂り過ぎが、不安や憂うつな気分と関係しているのだろうか。こうした問いに対し、個別の栄養素ではなく「食事パターン」——普段どんな食品の組み合わせをどれくらいの頻度で食べているか——という切り口から迫った研究が、学術誌『ジャーナル・オブ・ビヘイビア・アンド・フィーディング』に発表されました。著者らはメキシコのグアダラハラ大学に所属する研究チームです。この研究は、2014年から2024年の間に発表された論文を対象に、成人における食事パターンとうつ症状・不安症状の両方を同時に扱った研究を横断的に整理したレビューです。
701件の論文から絞り込まれた8件の研究
研究チームはPubMed、ScienceDirect、Web of Scienceの3つの学術データベースを使い、「食事パターン」「地中海式ダイエット」「DASH食」「MIND食」「植物性食品中心の食事」「西洋型食事パターン」「超加工食品」といった語と、「うつ症状」「不安症状」といった語を組み合わせて検索しました。対象は18歳以上の成人で、うつと不安の両方の症状を同時に評価した観察研究や実験研究に絞り、片方の症状しか扱っていない研究や、新型コロナウイルス流行下の巣ごもり期間中に行われた調査などは除外されています。
最終的に701件の候補から重複や条件に合わないものを除き、8件の研究(参加者数の合計は27,061人)が分析対象として残りました。研究が行われた場所はイランが6件(テヘラン、イスファハン、ヤズド、シラーズなど)、中国が1件、スペインが1件で、いずれも横断研究(ある一時点で食事と症状の両方を調べる方式)でした。研究チームは、縦断的な追跡調査やランダム化比較試験を条件に含めていたものの、条件に合う研究が見つからなかったため、今回集まった証拠はすべて「ある一時点での関連」を示すものにとどまると説明しています。参加者の規模も、スペインで気管支拡張症患者205人を対象にした研究から、中国で11,971人を対象にした全国調査まで幅がありました。
「健康的」とされる食事パターンで低い数値、「加工度の高い」パターンで高い数値
8件の研究では、あらかじめ定義された食事パターン(地中海式、DASH、MIND、植物性食品指数など)への当てはまり具合を調べる方法と、統計的な手法(主成分分析)でその集団特有の食習慣パターンを抽出する方法の、大きく2通りのアプローチが取られていました。症状の評価には、DASS-21(抑うつ・不安・ストレス尺度)やHADS(病院不安抑うつ尺度)などの標準化された質問票が使われています。
果物や野菜、脱脂乳製品などを多く摂る「健康的パターン」への当てはまりが強い群では、うつ症状のオッズ比が0.47、不安症状のオッズ比が0.71という数値が報告された研究がありました(オッズ比は1より小さいほど、その症状が起きにくい方向の関連を示します)。一方、同じ研究では、精製された白いパンや米、鶏肉、赤身肉、豆類を多く摂る「伝統的パターン」への当てはまりが強い群で、うつ症状のオッズ比が1.82、不安症状のオッズ比が1.50という、逆方向の数値が示されました。また、甘い飲み物や加工肉、内臓肉、菓子類などを多く含む「西洋化パターン」については、この研究では統計的に意味のある関連は見られなかったとされています。
別の研究では、乾燥果物や缶詰の果物、果汁、オリーブなどを多く摂る「フルーツパターン」で、うつ症状のオッズ比が0.63、不安症状のオッズ比が0.64と報告されました。DASH食への当てはまりが強い群では、うつ・不安それぞれの症状の得点が低い傾向が示され、地中海式ダイエットへの当てはまりが強い患者群でも、うつ症状のオッズ比が0.663という数値とともに、症状得点の低さが報告されています。MIND食についても、当てはまりが強い群でうつ症状のオッズ比が0.68(女性では0.60)という数値が示された一方、別の研究では統計的に意味のある関連が確認できなかったとも記されています。植物性食品を中心とした食事指数を用いた研究では、より「健康的な植物性食品」の指数が高いほどうつ・不安症状のオッズ比がわずかに低く、逆に「不健康な植物性食品」(精製穀物や甘いものなど植物由来でも質の低い食品を多く含む指数)が高いほどオッズ比がわずかに高くなる、という対照的な結果も報告されています。
この研究をどう読むべきか
著者らは、こうした関連の背景として、全身性の炎症や酸化ストレス、腸内細菌叢の変化、視床下部-下垂体-副腎系(HPA系)の調節といった生物学的な仕組みが関わっている可能性を挙げていますが、今回のレビューで集めた8件の研究自体はこうした仕組みを直接検証したものではありません。また、いずれの研究も横断研究であるため、食事パターンと症状のどちらが先に生じたのか、因果の向きは分からない点が明確な限界として述べられています。さらに、対象となった研究の多くがイランで行われたものに偏っており、中国とスペインの研究がそれぞれ1件ずつ加わる構成であるため、他の文化圏や食習慣を持つ集団にそのまま当てはめられるとは限らない、と著者らは注意を促しています。加えて、性別や身体活動量、社会経済的状況、体格指数(BMI)といった要因が症状と食事パターンの両方に影響しうることも指摘されており、研究によってこれらの要因の調整の仕方が異なる点も、結果のばらつきの一因とされています。
今回のレビューで示されたのは、あくまで食事パターンと症状の「関連」であり、特定の食事が不安やうつを予防したり改善したりすると証明するものではありません。著者らも、方向性や因果関係を確かめるには、より長期の追跡調査やランダム化比較試験が必要だと結論づけています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Mariano Otero López Anguiano, Felipe Santoyo Telles, Isabel Cristina Marin Arriola, et al. Consumo de distintos patrones dietéticos y su asociación con la sintomatología de depresión y ansiedad en adultos. ジャーナル・オブ・ビヘイビア・アンド・フィーディング (2026). DOI: 10.32870/jbf.v6i11.134.