この研究は、イエメン、インド、ペルーの研究機関の研究論文です。
掲載誌:BMC Public Health
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜこの研究が行われたのか
ビタミンDの血中濃度が低い人ほど乳がんのリスクが高い、という関連を報告した研究はこれまでに数多くあります。ただし著者らによれば、そうした研究の多くは、がんと診断される前にビタミンD濃度を測っておき、その後の発症を追いかける「前向き」の設計で行われてきました。そのため、一般の米国女性のうち、すでに乳がんの既往がある人たちのビタミンD濃度がどうなっているのかを幅広く記述したデータは限られていたといいます。
そこで研究チームは、米国を代表する大規模な健康調査のデータを使い、ビタミンDの充足状況と「現に乳がんの既往がある状態(有病)」との関連を記述することを目的に、今回の分析を行いました。あわせて、ビタミンD不足が調査年ごと、また年齢や人種・民族などの集団ごとにどう分布しているかも調べています。
何をどう調べたか
用いたのは、米国国民健康栄養調査(NHANES)の2001〜2002年から2017〜2018年までのデータです。この調査は、施設に入所していない米国の一般住民を代表するように設計された継続的な全国調査で、自宅での聞き取りと専用の検査施設での身体計測・採血を組み合わせて行われます。研究チームは、20歳以上で妊娠中でない女性のうち、血中ビタミンDの測定値がある15,904人を分析対象としました。
乳がんの有無は、医学的既往を尋ねる質問票への本人の回答(自己申告)から判定しています。ビタミンDの指標には血中の25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)を用い、50 nmol/L未満を「欠乏」、50〜74 nmol/Lを「不足」、75 nmol/L以上を「充足」の3段階に分けました。なお測定方法が調査年の途中で変わっているため、著者らは古い年代の値に米国CDCが提供する換算式を当て、新しい測定法に相当する値へそろえる作業を行っています。
分析では、全国を代表する推定値になるよう調査設計上の重みづけを行ったうえで、ビタミンDの段階と乳がんの有無の関連をオッズ比という指標で推定しました。重要な点として、年齢・人種/民族・受診した季節・学歴、さらに高血圧と糖尿病を段階的に計算へ加え、関連がどう変化するかを確かめています。ここでの季節の調整は、日光を浴びる量によってビタミンD濃度が大きく変わるためで、著者らは季節自体が乳がんと直接結びつくとは考えていないと説明しています。
報告された主な結果
重みづけを行った推定では、乳がんの既往がある女性の割合は2.9%でした。ビタミンDについては、全体の24.1%が欠乏、32.7%が不足、43.2%が充足に当たりました。人種・民族による差は大きく、非ヒスパニック系黒人女性では欠乏が58.0%と最も高く、充足は17.2%でした。メキシコ系米国人女性でも欠乏は45.4%と高い一方、非ヒスパニック系白人女性では欠乏が14.1%で最も低く、充足が54.3%で最も高いと報告されています。また測定法がそろっている2007〜2018年のデータでは、欠乏の割合が27.7%から20.5%へと下がっていました。
関連についての結果は、やや意外なものでした。何も調整しない計算では、ビタミンDが充足している女性のほうが、欠乏している女性に比べて乳がんの既往があるオッズが高く(オッズ比2.48、95%信頼区間1.78〜3.46)、通常予想される向きとは逆でした。しかし年齢・人種・季節・学歴を調整すると、この関連は大きく弱まって統計的に意味のある差ではなくなり(1.24)、さらに高血圧と糖尿病を加えても結果はほとんど変わりませんでした(1.27、95%信頼区間0.89〜1.81)。著者らが調整要因を一つずつ加えて確かめたところ、この弱まりを主に生んでいたのは年齢と人種で、季節と学歴の寄与はわずかだったといいます。
したがって研究チームは、調整前に見えた「充足のほうが乳がんが多い」という向きは、ビタミンDそのものの働きではなく、年齢や人種といった背景要因の違い(交絡)でおおむね説明できる、と解釈しています。背景としては、高齢の女性ほど乳がんの既往を持ちやすく、同時にサプリメントの使用や医療機関との接点が多いためビタミンD濃度も高くなりやすいこと、また白人女性は肌の色の違いからビタミンD濃度が高くなりやすい一方で乳がんの有病割合も高いことを挙げています。
著者らは限界も明確に述べています。この研究はある一時点の状態を切り取った横断研究であり、原因と結果の順番を確かめられません。とくにNHANESでは、乳がんと診断され治療を受けた後にビタミンDが測られているため、診断後の食事やサプリメント、外出習慣の変化が濃度に影響している可能性(逆の因果)を排除できません。さらに、体格指数(BMI)や所得水準、喫煙といった要因は乳がん該当者のデータ欠損のため計算に十分組み込めず、未測定の要因による交絡も残ると認めています。乳がんの有無は自己申告で、病理診断による確認ではありません。人種・民族別の推定のうち症例数が30例を下回った集団については、信頼区間が非常に広く不安定であり、探索的な結果として慎重に読むべきだとしています。
この研究が伝えていること
著者らの結論は、利用できた背景要因を調整したあとでは、ビタミンDの充足状況と乳がんの有病との間に独立した関連は認められなかった、というものです。同時に、上に挙げた設計上の制約から、ごく弱い関連が存在する可能性までは否定できないとも述べています。
一方で、この分析がはっきり示したのは、ビタミンD欠乏が米国女性に広く見られ、とくに黒人女性やメキシコ系米国人女性で際立って多いという現状です。研究チームは、ビタミンD欠乏の改善は骨の健康などのために引き続き重要だとしつつ、乳がん予防を目的としてビタミンDを一律に検査することは、今回のデータからは支持されないとまとめています。見かけ上の関連が調整によって消えたこの結果は、集団間の濃度差を読み解くには年齢や人種といった背景の違いを丁寧に踏まえる必要があることを、具体的な形で示したものといえます。
著者:Iana A Malasevskaia(Private Clinic of Obstetrics and Gynecology, Sana’a, Yemen)、Delvy Rebellow(Malankara Orthodox Syrian Church Medical College, Kolenchery, Kerala, India)、Diana Baltodano(Universidad Ricardo Palma, Lima, Peru)、Vrinda Vijayan(TD Medical College, Alappuzha, India)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Iana A Malasevskaia, Delvy Rebellow, Diana Baltodano, et al. Vitamin D status and breast cancer prevalence among US women: a descriptive cross‑sectional analysis of NHANES 2001‑2018. BMC Public Health 2026-09-07. DOI: 10.1186/s12889-026-29343-4. 原著ライセンス:CC BY.