掲載誌:Journal of Business Economics and Management

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:食の安全を情報と市場の問題として考える

インドネシアの市場では、クエ・チュチュル、クエ・ラピス、チュニル、クレポンなど、多彩な伝統菓子や軽食が売られています。こうした「ジャジャナン・パサール(市場の軽食)」は人々の日常の食を支えるだけでなく、小規模な商人や零細事業者の暮らしにも結びついています。この研究は、市場で売られる伝統菓子の安全性を、健康の問題だけでなく、情報の質や市場の働きに関わる経済の問題として捉えています。

著者らが問題にしたのは、食品への使用が禁止されている物質、食品用の規格を満たさない物質、または許可された食品添加物を基準を超えて使う場合です。著者らは、安全かどうかは「天然か合成か」だけでは判断できないと述べています。どの物質を、何のために、規定どおりに使っているかを見る必要があるという立場です。

研究チームは、このような添加物の不適切な使用が「市場の失敗」につながる可能性を分析しました。市場の失敗とは、売り買いの自由な仕組みに任せても、品質やリスクが価格や取引に十分に反映されず、望ましい結果が得られない状態を指します。分析の軸は二つです。一つは「情報の非対称性」で、売り手と買い手の間で商品に関する情報量に差がある状態をいいます。もう一つは「負の外部性」で、取引の当事者以外の社会に負担が及ぶことをいいます。

調べ方:25本の論文と政策文書を整理・比較

この研究では、著者ら自身が検査や聞き取り調査を行ったわけではありません。既存の文献と政策を読み解く質的・記述的な研究です。著者らは、2021年から2026年に発表された国内外の学術論文25本と、食品安全や食品添加物に関する法令・公的文書を集めました。そして、それぞれの知見を分類・比較し、一つの考え方の枠組みにまとめました。

整理は三つのテーマに沿って行われました。一つ目は、食品の安全性と市場で働く人々の行動。二つ目は、情報の非対称性と市場の失敗の可能性。三つ目は、監督や情報公開の役割です。著者らによれば、インドネシアの研究は軽食の実態や添加物の使用状況、商人の行動について材料を提供しました。海外の研究は、情報や消費者の信頼、政府の介入が市場でどう働くかを説明する手がかりになりました。

主な結果:消費者の情報は限られ、検査結果や商人の知識はまちまち

統合の結果、消費者は市場の軽食に使われた材料や作り方について、限られた情報しか持てないことが多いと示されました。食品の安全性は、買う時点で見た目や味から確かめにくい性質です。著者らはこれを、信頼して受け入れるしかない「信用財的な特性」として説明しています。たとえば、ある消費者調査では、伝統菓子を選ぶ理由として、味や手頃な価格に加え、「天然の材料を使っている」「保存料を使っていないと思う」といった受け止めが挙げられていました。しかし著者らは、こうした印象は検証された安全情報と同じではないと指摘しています。

一方で、取り上げられた検査研究の結果は一様ではありませんでした。スラバヤの市場を調べた研究では、ローダミンB(食品への使用が禁止された合成着色料)の検査対象27試料はすべて陰性でした。ホルマリンの検査では37試料のうち2試料が陽性でした。チェンドルという飲み物6試料を調べた別の研究では、2試料から甘味料のチクロが検出されましたが、濃度は上限値を下回っていたと報告されています。禁止物質が見つからなかった研究もありました。著者らはこれらを踏まえ、添加物が含まれていることと、基準違反であることを区別する重要性を強調しています。

商人の側も一様ではありませんでした。80人の商人を対象にした研究では、67.5%がその研究で示された目安を超えて食品添加物を使っていたと報告されています。また、知識や態度と使い方の間に有意な関連が見られました。他方で、地域ぐるみの「安全な食品市場」プログラムの対象となった市場では、商人の知識・態度・行動の得点が比較的良好でした。著者らは、情報の差は商人が意図的に隠すことだけから生じるのではないと述べています。食品の安全性が外から確かめにくいという構造そのものからも生じうるとしています。

著者らは、こうした状況が消費者の十分な情報に基づく購買判断を妨げ、市場の仕組みをゆがめるおそれがあると結論づけました。ただし、この結果は市場の軽食がすべて危険だと証明するものではないことも明記しています。

研究が示す意味:検査・情報公開・教育を組み合わせる

著者らは、情報の非対称性を減らし、消費者保護を強める方法として、いくつかの取り組みを挙げています。リスクに応じた監督、分かりやすい情報公開、商人と消費者への食品安全教育、そして政策の継続的な評価です。海外の研究からは、追跡可能性(トレーサビリティ)の仕組み、信頼できる認証、情報公開が情報の差を縮める助けになりうることが示されています。一方で、その効果は消費者の信頼や政策の実施の質に左右されることも示されています。

この研究の新しさは、新たな検査データにあるのではありません。食品の安全性と経済学の市場の失敗の考え方を、一つの枠組みで結びつけた点にあります。市場の伝統菓子の安全は、作り手の努力や消費者の注意だけで決まるのではありません。正確な情報がきちんと届くかどうかという、市場全体の問題でもあることを、この研究は示しています。

原著論文の著者・所属:Meli Silfiana(UIN SAIZU PURWOKERTO)、Sarpini, Sarpini(UIN SAIZU PURWOKETO)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Meli Silfiana, Sarpini, Sarpini. Kegagalan Pasar Akibat Penggunaan Bahan Pangan Tidak Alami pada Jajanan Pasar. Journal of Business Economics and Management 2026-10-19. DOI: . 原著ライセンス:CC BY.