著者の所属・活動拠点の国は、ロシアです。

掲載誌:Medical alphabet

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

総説のねらい

血液中の脂質のバランスが崩れた状態を脂質異常症と呼びます。総コレステロール、中性脂肪(トリグリセリド)、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が高くなったり、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)が低くなったりする状態です。著者らは、脂質異常症が動脈硬化と、それに伴う心筋梗塞や脳卒中などの重要な危険因子であり、しかも生活習慣などで変えられる要因であることを出発点にしています。

治療の柱は、コレステロールの合成を抑える薬であるスタチンです。一方で著者らは、スタチンを使う患者の最大30%程度で筋肉痛などの副作用が問題になり、服薬中止につながる場合があると紹介しています。そこで本総説は、既存の文献をもとに脂質異常症の新しい治療の考え方を整理し、「ニュートラシューティカル(栄養補助成分)」が臨床でどのような位置を占めうるかを、有効性と安全性の両面から検討することを目的としています。

取り上げた内容

著者らはまず、脂質異常症の広がりと仕組みを概観しています。ロシアの大規模疫学調査(13地域、2万1048人)では、血清総コレステロールが5.0mmol/Lを超える人が平均58.4%にのぼりました。その割合は25〜34歳の37.7%から55〜64歳の74.5%へと年齢とともに高まり、農村部の住民では都市部より多かったと紹介されています。また、血管の壁にたまったLDLが酸化され、炎症が起きて血管の内側の細胞(内皮)の働きが損なわれ、動脈硬化が進む流れも説明されています。

治療については、食事の見直し、運動、減量、禁煙といった生活習慣の改善がすべての患者の基盤になるとしています。薬ではスタチンが第一選択とされ、スタチン単独で目標値に届かない場合には、腸でのコレステロール吸収を抑えるエゼチミブを併用すると、LDLがさらに約25%下がると紹介されています。PCSK9阻害薬はLDLを大きく下げる薬で、心血管リスクがとても高い患者や、遺伝的にLDLが高くなる家族性高コレステロール血症で特に有効とされています。ベンペド酸は、スタチンに耐えられない患者の代わりの選択肢として位置づけられ、エゼチミブと組み合わせるとLDLが大きく下がるとされています。中性脂肪を下げる目的には主にフィブラート系の薬が使われます。こうした標準治療を踏まえ、著者らはもっともよく研究されている栄養補助成分として、紅麹(ベニコウジ)、ナットウキナーゼ、コエンザイムQ10の三つを取り上げ、それぞれの臨床研究を紹介しています。

三つの成分について紹介された主な報告

紅麹は、米を紅麹菌で発酵させたものです。主成分のモナコリンKは、スタチンの一種ロバスタチンと構造がよく似ており、コレステロールを作る酵素の働きを抑えます。総説で紹介された中国の研究では、心筋梗塞を経験した18〜70歳の4870人を4年間追跡しました。その結果、LDLは開始時より20%、中性脂肪は15%下がり、HDLは5%上がりました。重い心血管イベントの発生率も、偽薬群の10.4%に対して紅麹群では5.7%と、統計的に意味のある差が出ています。15件の質の高いランダム化比較試験をまとめた解析では、紅麹は通常のスタチン治療と比べて中性脂肪をより大きく下げ、LDLの低下とHDLの上昇は同程度でした。単独で使っても他の成分と組み合わせても、副作用の頻度や重さは増えなかったと報告されています。スタチンに耐えられない人を対象とした試験でも、紅麹群は12週時点でLDLが1.11mmol/L低下し、筋肉の痛みの程度は偽薬群と同じくらいだったと紹介されています。

ナットウキナーゼは、納豆菌が大豆を発酵させる過程で生まれる酵素です。血栓を溶かす作用で知られていますが、脂質を下げる可能性も研究されてきました。過去の診療記録をさかのぼって調べた研究(1062人、12か月間服用)では、総コレステロールが平均15.9%、LDLが18.1%下がり、HDLは15.8%上がったと報告されています。首の頸動脈に動脈硬化がある人では、血管壁の厚さ(内膜中膜複合体厚)が21.7%、プラーク(血管壁のこぶ状の沈着)の面積が36.0%減りました。別の臨床研究では、26週間の服用後にプラークの平均面積が0.25cm²から0.16cm²に、血管壁の厚さが1.13mmから1.01mmに小さくなり、その変化は1日20mgのシンバスタチンを使った群より大きかったとされています。

コエンザイムQ10(ユビキノン)は、細胞内でエネルギーを作る過程に欠かせない成分で、抗酸化物質でもあります。50件のランダム化比較試験(2794人)をまとめた解析では、総コレステロールが平均5.53mg/dL、LDLが3.03mg/dL、中性脂肪が9.06mg/dL下がり、HDLが0.83mg/dL上がりました。64件(3422人)を対象としたより大きな解析では、脂質に加えて血糖の指標や炎症の指標も改善したと報告されています。

総説が示す意味と注意点

著者らは、生活習慣の改善を土台にし、心血管リスクが高い人やとても高い人ではスタチンを中心とする薬物治療が引き続き重要だと結論づけています。そのうえで、紅麹、ナットウキナーゼ、コエンザイムQ10は、スタチンに耐えられない人や心血管リスクが中程度の人にとって、標準治療を補うもの、あるいは代わりの選択肢になりうると位置づけています。

同時に、著者らは注意点も挙げています。市販品によってモナコリンKの含有量にばらつきがあることや、紅麹の発酵過程で腎臓に有害なカビ毒(シトリニン)が混入するおそれがあることです。そのため、成分が標準化された品質管理の確かな製品を選び、医師の管理のもとで使うことが必要だとしています。また、これらの成分が心血管疾患による死亡にどう影響するかはまだ確定しておらず、診療指針の中での位置づけを最終的に決めるには長期的な臨床研究が必要だとも述べています。この総説は、脂質異常症の治療で個人に合わせた選択肢を考える際に、栄養補助成分について現在どのような報告があり、何がまだ分かっていないのかを整理したものといえます。

原著論文の著者・所属:E. Yu. Ebzeeva(Russian Medical Academy of Continuous Professional Education)、A. V. Akimova(City Polyclinic No. 36 of the Moscow City Department of Health)、M. V. Skoblik(Consultative and Diagnostic Polyclinic No. 121 of the Moscow City Department of Health)、O. D. Ostroumova(Russian Medical Academy of Continuous Professional Education)、A. I. Kochetkov(Russian Medical Academy of Continuous Professional Education)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):E. Yu. Ebzeeva, A. V. Akimova, M. V. Skoblik, et al. Dyslipidemia and modern approaches to its management: a review of nutraceutical strategies. Medical alphabet 2026-10-25. DOI: 10.33667/2078-5631-2026-22-7-12. 原著ライセンス:CC BY.