コエンザイムQ10(CoQ10)は体内でエネルギー生成に関わる脂溶性の成分として知られ、健康志向の食品への応用が期待されています。しかし水にほとんど溶けず、光や熱、酸素によって分解されやすいという性質があるため、牛乳のような液体食品にそのまま加えることは技術的に難しいとされてきました。この課題に対し、CoQ10を細かい粒子(エマルション)に包み込んで水中に分散させやすくする研究が進められてきましたが、実際の牛乳に加えたときに、牛乳にもともと含まれる脂肪球を包む膜(乳脂肪球膜、MFGM)とどのように共存するのか、また牛乳自体の品質や保存性にどう影響するのかは、これまで十分に調べられていませんでした。

そこで中国・武漢工程大学食品科学工程学院の研究グループは、糖化大豆ペプチドとキトサンを組み合わせた二層構造のエマルション(gSP-CS二層エマルションと呼ばれる粒子)にCoQ10を閉じ込め、これを牛乳に加えて品質と保存安定性への影響を調べました。なお共著者の一人はJiangnan University(中国・無錫)の食品科学技術学院に所属しており、著者の所属はいずれも中国の研究機関です。

牛乳に加えるとどうなるか

研究チームは共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)を用いて、CoQ10を包んだエマルションの粒子が牛乳の中でどのように分布するかを可視化しました。その結果、エマルションを牛乳全体の5%という比較的少ない量で加えた場合には、外から加えた粒子が牛乳本来の乳脂肪球膜と均一に共存する様子が確認されました。一方で、添加量を20%まで増やすと、乳脂肪球膜同士が凝集したり構造が壊れたりする現象が見られたということです。

さらに、4℃で21日間保存した際のCoQ10の残存率も比較されました。エマルションの添加量が5%の場合はCoQ10の60%以上が保持されていたのに対し、20%添加した場合は25.2%しか残っていなかったと報告されています。つまり、エマルションを多く加えるほどCoQ10がたくさん保護されるわけではなく、むしろ添加量が多すぎると牛乳の構造への影響を通じてCoQ10の安定性がかえって損なわれる可能性が示された形です。

これらの安定性・官能特性(風味や質感などの評価)・CoQ10残存率の結果を総合的に踏まえ、研究チームはエマルションの添加量として牛乳全体の5〜10%程度が適当ではないかと提案しています。

この研究をどう読むか

この研究は、CoQ10入りのエマルションを実際の牛乳という複雑な系に加えたときに何が起こるかを、乳脂肪球膜との相互作用という観点から具体的に検証した点に特徴があります。ただし、これは特定の条件下で行われた一つの研究であり、ここで得られた添加量の目安や残存率の数値がすべての牛乳製品や保存条件にそのまま当てはまるとは限りません。CoQ10を配合した機能性乳製品の開発に向けた基礎データという位置づけで捉えるのが妥当でしょう。

まとめ

牛乳にCoQ10を配合する際、加える粒子の量によって牛乳本来の脂肪球の構造やCoQ10自体の安定性が変化しうることが、今回の研究で示されました。健康成分を食品に取り入れる技術は年々進んでいますが、成分を守るための工夫が食品そのものの品質にどう影響するかを丁寧に見極める必要があることを、この研究は改めて示していると言えそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:biyue Zhang, Guanxi Li, Gang Liu, et al. Application of CoQ10-loaded gSP-CS double-layer emulsion in milk: Impacts on quality and storage stability. npjサイエンス・オブ・フード (2026). DOI: 10.1038/s41538-026-01115-9. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.