著者の所属・活動拠点の国は、イランです。

掲載誌:Applied Food Research

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

食品の包装には石油由来のプラスチックが広く使われていますが、環境への影響が懸念されています。そのため、食べられる素材や生分解性の素材で作るフィルムやコーティングの開発が進められています。多糖類から作るフィルムは気体を通しにくい一方で、強度が低く、水蒸気を通しやすいという弱点があります。

研究チームは、バジルの種を水に浸すと出てくるぬめり成分(粘質物)を土台にしました。これに、セルロースを結晶部分の粒子にまで細かくしたナノサイズの補強材「セルロースナノクリスタル」と、抗菌作用が知られるレモングラスの精油を組み合わせ、新しい「アクティブ包装」材料を作りました。アクティブ包装とは、食品を包むだけでなく、品質を保つ働きを持たせた包装のことです。研究チームはこの材料をフィルムとして性質を調べ、さらにスイートレモン(Citrus limetta)の表面に塗るコーティングとして使い、保存中の品質への影響を評価しました。

何を調べたか

研究チームは、セルロースナノクリスタルの量を一定(粘質物の粉末に対して5%)にしたうえで、レモングラス精油の濃度を0%、0.5%、1%、1.5%と変えたフィルムを作りました。そして、厚さ、透明度、紫外線を遮る力、水への溶けやすさ、水蒸気の通しやすさ、引っ張ったときの強さや伸び、熱への安定性などを測定しました。内部構造は、赤外線やX線を使った分析と電子顕微鏡で確かめています。

使った精油の成分分析では26種類の化合物が特定されました。主成分はレモンに似た香りのもととなるシトラールの2種類の異性体で、ゲラニアールが約45%、ネラールが約30%を占めていました。

第二段階では、精油0.5%または1%を含む液をスイートレモンに塗り、何も塗らない果実と比べました。保存は20±2℃で15日間行い、重さの減少、果実の硬さ、酸味の指標となる酸度、ビタミンC量、果皮の色の変化を調べました。

主な結果

フィルムでは、精油の濃度が高いほど厚く、不透明になり、紫外線をよく遮るようになりました。厚さは精油を含まないフィルムが91.33マイクロメートル、1.5%のフィルムが153マイクロメートルでした。一方で、水に溶けにくくなり、水蒸気も通しにくくなりました。論文によれば、水蒸気の通しやすさは最大で約4割低下しました。ただし、引っ張り強さと伸びは低下しました。熱への安定性は精油を加えたフィルムで高まりました。構造分析からは、精油がフィルムに取り込まれていること、補強材と粘質物がよくなじんでいること、精油を加えても元の構造が大きくは変わらないことが示されたと報告されています。電子顕微鏡では、目に見える穴やひびは観察されませんでした。

抗菌試験では、精油を含むフィルムが黄色ブドウ球菌の増殖を抑える範囲を示し、濃度が高いほどその範囲は広くなりました。一方、大腸菌に対してはどの濃度でも抑制は見られませんでした。

スイートレモンでは、コーティングした果実のほうが、何も塗らない果実に比べて重さの減少が少なく、硬さ、酸度、ビタミンC量が高く保たれました。保存終了時の重さの減少は、0.5%のコーティングが18.42%、1%が21.74%でした。研究チームは、精油の濃度が高いと果実の代謝が高まった可能性を考えています。

果皮の色の変化の総量を示す指標は、何も塗らない果実で4.66から31.30まで増えました。これに対し、0.5%のコーティングでは1.17から11.08まで、1%では1.96から18.10までの増加にとどまりました。保存終了時の色の変化は、何も塗らない果実と比べて0.5%で64%、1%で42%小さくなりました。見た目の評価でも、コーティングした果実のほうが良好で、なかでも0.5%が最も好ましい外観を保ったと報告されています。

研究が示すこと

著者らは、フィルム材料としての性質を高める目的では精油1.5%を、スイートレモンの品質劣化を抑える目的では0.5%と1%を勧めています。最適な配合は用途によって異なり、水蒸気の遮断と強度のどちらを重視するかによって選び方が変わるという結論です。この研究は、バジルの種の粘質物が、果実の保存に使える環境に配慮したコーティング素材の土台になりうることを示しています。

原著論文の著者・所属:Maryam Shahamirian(Department of Food Science and Technology, SR. C, Islamic Azad University, Tehran, Iran, Tehran, Iran. P.O. Box: 14515.775)、Masoud Honarvar(Department of Food Science and Technology, SR. C, Islamic Azad University, Tehran, Iran, Tehran, Iran. P.O. Box: 14515.775)、Younes Zahedi(Department of Food Science and Technology, Faculty of Agriculture and Natural resources, University of Mohaghegh Ardabili, Ardabil, Iran. P.O. Box: 56199-11367)、Neda Maftoonazad(Professor, Agricultural Engineering Research Department, Fars Agricultural and Natural Resources Research and Education Center, Agricultural Research, Education and Extension Organization (AREEO), Shiraz, Iran. P.O. Box: 71555-617)、Akbar Jokar(Professor, Agricultural Engineering Research Department, Fars Agricultural and Natural Resources Research and Education Center, Agricultural Research, Education and Extension Organization (AREEO), Shiraz, Iran. P.O. Box: 71555-617)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Maryam Shahamirian, Masoud Honarvar, Younes Zahedi, et al. Sustainable active packaging from basil seed mucilage-cellulose nanocrystals embedded with lemongrass essential oil for preserving sweet lemon (Citrus limetta) fruits. Applied Food Research 2026-10-28. DOI: 10.1016/j.afres.2026.102779. 原著ライセンス:CC BY.