この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:International Journal of Agriculture Environment and Food Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
ワインづくりの副産物を麺に活かす試み
トルコで広く親しまれている麺「エリシテ」は、小麦粉、卵、塩、水を混ぜて固めの生地をつくり、薄く延ばして短く切り、乾燥させた保存のきく食品です。味にくせがなく作り方も単純で日持ちするため、栄養面を強化する土台として向いていると研究チームは述べています。
研究チームが着目したのは、ワイン製造の過程で大量に出るぶどうの搾りかす、とくにその種子の部分です。ぶどう種子はおよそ4割が食物繊維で、脂質が約16%、たんぱく質が約11%を占め、さらにカテキン類やプロアントシアニジンといったポリフェノール(植物に含まれる、活性酸素を打ち消す働きをもつ成分の総称)を豊富に含みます。この種子は活用されずに廃棄されることが多く、資源の無駄と処理コストの問題を抱えています。
そこで著者らは、ぶどう種子を細かく挽いた粉(以下、種子粉)で小麦粉の一部を置き換えたエリシテをつくり、配合量を段階的に変えたときに成分や食感、ゆで上がりの品質がどう変化するかを体系的に調べることを目的としました。
配合量を5段階に変えて比較
研究チームは、小麦粉に対する重さの比で0%(対照)、2.5%、5%、7.5%、10%の5段階で種子粉を配合しました。卵250g、塩5g、水200mLは全条件で同じにしています。材料を混ぜた生地を冷蔵庫で30分休ませ、製麺機で幅5mm・厚さ2mmに成形して4cmの長さに切り、35℃で6時間乾燥させました。製造は2回繰り返し、各分析は3回ずつ行っています。
調べたのは、総ポリフェノール量、総フラボノイド量(ポリフェノールの一群)、DPPH法による抗酸化活性、色(明るさ・赤み・黄色み)、食感、そして水分や灰分、保水力、ゆで時間やゆで損失といった調理特性です。あわせて、配合量と成分量の関係を数式で表す当てはめも行いました。
ポリフェノールは大きく増え、ゆで上がりの安定性は保たれた
総ポリフェノール量は、対照の1755.49 mg GAE/kgから10%配合で4485.82 mg GAE/kgへと、およそ2.55倍に増えました。増え方は一定ではなく、2.5%では対照とほとんど差がなく、5%以上で明確に増加したと報告されています。総フラボノイド量はより直線的に増え、93.40 mg CE/kgから384.10 mg CE/kgへと約4.1倍になりました。
一方で、DPPH法で測った抗酸化活性は配合量によらずほぼ一定(およそ872〜887 µmol Trolox/kg)で、統計的な差は認められませんでした。著者らはこれについて、ぶどう種子のポリフェノールの多くが分子の大きい重合型で、生地のグルテンやデンプンと結びついて測定に反応しにくくなっている可能性や、DPPH法自体がこうした成分を捉えにくいことを挙げ、別の測定法を組み合わせる必要があると論じています。抗酸化力が失われたという結論ではなく、この一つの測定法ではとらえきれないという指摘です。
見た目と食感も変わりました。明るさを示すL*値は63.5から44.2へ下がり、黄色みを示すb*値は18.3から10.1へ下がる一方、赤みを示すa*値は1.6から5.2へ上がり、全体に暗い赤褐色に近づきました。硬さは約770gから約1380gへ増し、噛み応えに関わる値も上昇しましたが、まとまりやすさと弾力は低下しました。
調理面では、保水力が105%から165.5%へ大きく高まり、乾麺の水分含量は9.70%から7.28%へ下がりました。最適なゆで時間は12分から13分へわずかに延び、ゆでたときに麺が吸う水の量は減少しています。注目されるのは、ゆでる際に麺から溶け出す固形分の割合(ゆで損失)が、どの配合量でも約6.1〜6.5%とほぼ変わらず、良質なパスタの目安とされる12%を大きく下回った点です。つまり10%まで置き換えても、麺がゆで崩れることはありませんでした。
この報告が示すこと
著者らは、ぶどう種子粉が、ポリフェノールとフラボノイドを豊富に含むエリシテをつくるための有望な材料であり、同時にワイン製造の副産物を活かす手段にもなりうると結論づけています。混ぜる・延ばす・切る・低温で乾かすという従来の工程のままで扱えるため、特別な設備を必要としない点も利点として挙げられています。
ただし色の変化や食感の変化は小さくないため、著者らは官能評価による確認や、含まれるポリフェノールが実際にどれだけ体に取り込まれうるかの検討、複数の抗酸化測定法の併用が今後必要だとしています。捨てられていた素材が、日常的な麺の成分を確かに変えながら、調理の扱いやすさは損なわない——この研究が示したのは、そうした一つの具体的な道筋です。
著者:Gülşah Çalışkan Koç(UŞAK ÜNİVERSİTESİ)、Selma Lubabe Erdoğan(ALANYA HAMDULLAH EMİN PAŞA ÜNİVERSİTESİ)、Ahmet Candemir(Viticulture Research Institute , Manisa , Türkiye)、Samiye Adal(AFYON KOCATEPE ÜNİVERSİTESİ)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gülşah Çalışkan Koç, Selma Lubabe Erdoğan, Ahmet Candemir, et al. Valorisation of grape seed powder in Turkish noodle erişte: effects on phenolics, texture, and cooking performance. International Journal of Agriculture Environment and Food Sciences 2026-09-24. DOI: 10.31015/jaefs.2026.3.22. 原著ライセンス:CC BY.