著者の所属・活動拠点の国は、トルコです。
掲載誌:Marine Science and Technology Bulletin
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
漁業による漁獲を大きく増やすことが難しくなる一方、水産物の需要は伸び続けています。そのため、世界の食料供給の中で養殖の重要性が高まっています。論文によれば、養殖の今後は生産能力だけでなく、価格や消費者の好み、国際市場の状況にも左右されます。サーモンはその変化をよく表す例です。論文が引用する先行研究では、2022年のトルコ産サーモン(Turkish salmon)の輸出は37か国に向けて約4万9000トンに達したと報告されています。
研究チームは、トルコ産サーモンの輸出先を国ごとに分け、短期的な輸出量の見通しを示すことを目的としました。そのうえで、成長が見込まれる市場、リスクが表れつつある市場、国ごとの機会を見極めようとしています。
何を調べたか
分析には、東黒海輸出業者協会とトルコ統計局の資料から集めた、2022年から2025年までの国別輸出データを使いました。対象は各年の1月から8月の輸出量です。黒海の海上いけすで育てたトルコ産サーモンは、水揚げと販売が春から初夏に集中します。著者らはこの主な時期に合わせ、どの年も同じ期間で比べられるようにしました。そのため、結果は暦年1年分の輸出総量ではなく、あくまで1〜8月の輸出量として示されています。
4年間すべてのデータがそろっている25か国を対象にしました。ロシア、日本、ベラルーシ、ポーランド、ベトナム、米国、中国、ドイツ、英国などが含まれます。著者らは、これがトルコ産サーモンの輸出先すべてを網羅するものではないと断っています。
2026年から2028年の1〜8月の輸出量は、性格の異なる三つの予測手法で推計しました。一つ目のホルトの線形トレンド法は、最近の傾向をそのまま将来へ延ばす手法です。二つ目の減衰ホルト法は、先の年ほど傾向の影響を弱めて、行き過ぎた延長を抑えます。三つ目のGM(1,1)は「灰色予測」と呼ばれる手法で、データが少ない状況向けに考案されました。あわせて、2022年から2025年の年平均成長率(CAGR)を計算し、最近の伸び方を把握しています。
各国のデータは4年分しかありません。そのため研究チームは、どの手法が優れているかを判定することはしていません。複数の手法の結果を並べ、増えるか減るかという向きや変化の大きさが一致するかどうかを見る、補い合う使い方をしています。
主な結果
どの手法でも、ロシアが最大の輸出先であり続ける見通しになりました。減衰ホルト法では、ロシア向けの1〜8月の輸出量は2026年の約3530万kgから2028年に約3810万kgへ増えると推計されました。GM(1,1)はさらに高く、2028年に約4850万kgとしています。増加幅は手法によって違いますが、増えるという向きは一致しました。2022〜2025年の年平均成長率も28.62%のプラスでした。
ベラルーシ、ジョージア、リトアニア、カザフスタンも、はっきりした増加の傾向を示しました。研究チームは、これらを成長が見込まれる市場と位置づけています。日本とベトナムも、引き続き重要な輸出先とされました。
一方、2022年から2025年にかけて輸出が大きく減ったのは、ドイツ、イタリア、英国、北キプロス・トルコ共和国、ベルギーでした。ホルトの線形トレンド法では、中国、ドイツ、イラク、英国について将来値がマイナスになりました。輸出量は負になり得ないため、これらはゼロとして示されています。ただし著者らは、これは表示上の扱いであり、輸出がゼロになるという予測ではないと説明しています。
成長率の読み方にも注意が示されています。ギリシャは年平均成長率が最も高くなりましたが、これは2022年の輸出量がわずか150kgと非常に小さかったためです。2025年には9万2922kgでした。シンガポールとカタールも2022〜2025年では高い成長率でしたが、2023〜2025年に限るとマイナスでした。始まりと終わりの値だけで計算する成長率は、実際の量や途中の年の動きと合わせて見る必要があるということです。
手法によって向きが分かれた国もありました。米国、イタリア、ブルガリアでは、減衰ホルト法が増加、GM(1,1)が減少を示しました。中国とカナダでは逆の結果でした。著者らは、この違いをデータの扱い方の差で説明しています。減衰ホルト法では直近の年の大きな変動が予測に比較的強く影響し得る一方、GM(1,1)は値を積み上げて全体の傾向をとらえます。こうした食い違いは、どちらかの手法が正しい証拠ではなく、手法による結果の揺れや市場の不確かさの表れと解釈されています。
研究が示す意味
研究チームは、トルコ産サーモンの輸出の伸びは地域によって一様ではないと結論づけています。ロシアと一部のユーラシア諸国で成長が続き、アジアの一部にも有望な市場があります。一方、成熟した欧州市場のいくつかでは縮小や不確実さが目立ちます。
欧州での減少について、著者らは単一の要因だけで説明することを避けています。先行研究に照らした一つの解釈として、加工度の高い商品が好まれる国では、生鮮・冷蔵魚を得意としてきたトルコの輸出構成と市場の求める商品がかみ合っていない可能性を挙げています。これはデータで直接確かめた結果ではありません。
著者らによれば、データは国ごとに4年分の1〜8月の値だけで、為替や貿易政策、国際価格の変化などは扱えません。そのため、この研究で最も確かな結論は2026〜2028年の具体的なkg数ではなく、国ごとの輸出の向きと相対的な勢いだとしています。そのうえで研究チームは、ロシアへの依存が集中リスクにもなり得ることを指摘しています。今後の輸出では量を増やすことに加え、輸出先の分散や付加価値の高い商品づくりが重要になると論文は示しています。
原著論文の著者・所属:Gülçin Güreşçi(Dokuz Eylül University, European Studies Research and Application Center, Department of Economics, İzmir 35160, Türkiye)、Mehmet Yunus Çelik(Kastamonu University, Faculty of Economics and Administrative Sciences, Department of Economics, Kastamonu 37150, Türkiye)、Adem Yavuz Sönmez(Ankara University, Faculty of Agriculture, Department of Aquaculture Engineering, Ankara 06110, Türkiye)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gülçin Güreşçi, Mehmet Yunus Çelik, Adem Yavuz Sönmez. Forecasting Türkiye’s salmon exports: A multi-method assessment of market dynamics and country-specific prospects. Marine Science and Technology Bulletin 2026-09-29. DOI: 10.33714/masteb.2015600. 原著ライセンス:CC BY.