この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Anatolian Environmental and Animal Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

周囲に咲く作物と、ミツバチが実際に集める蜜

蜂蜜の成分は、ミツバチがどの植物から蜜を集めたかを反映します。そのため、産地表示や品質評価では「植物由来(botanical origin)」の確認が重要になります。一方で、周囲にある作物がいくら豊富に咲いていても、ミツバチがその花を選ぶとは限りません。

この研究の著者は、タマネギ(Allium cepa L.)の開花中の畑に隣接して置かれた巣箱から採れた蜂蜜1点を取り上げ、その蜂蜜が本当にタマネギ由来の単花蜜(モノフローラル蜜)といえるのかを検討しました。論文は、タマネギの花は蜜を出すものの、花粉の形態やミツバチの花粉収集の少なさから、蜂蜜中のAllium花粉が実際の利用より少なく現れる可能性があると説明しています。そのため、花粉分析だけに頼る分類は不確かになりうる、という問題意識が出発点です。著者はこれを1点の試料に基づく事例研究と位置づけ、タマネギ関連の蜂蜜全般に広く一般化できる結論を出すことを目的とはしていないと明記しています。

花粉、成分、香り成分を組み合わせて調べる

調査地はトルコ・バルケシル(Balıkesir)で、開花の盛期に蜂蜜を採取し、同じ場所のタマネギの生花も香り成分の比較用に集めました。

分析は複数の手法を組み合わせています。ひとつは花粉分析(メリソパリノロジー)で、蜂蜜に含まれる花粉粒を顕微鏡で少なくとも500粒数え、どの植物の花粉がどの割合で含まれるかを調べます。次に、水分、pH、電気伝導度、色、HMF(加熱や保存の影響で増える指標成分)、プロリン(アミノ酸の一種)、糖組成といった理化学的な項目を測定しました。さらに、総ポリフェノール量・総フラボノイド量と、FRAP法およびDPPH法による抗酸化活性、個別のフェノール化合物の種類と量、そして香りに関わる揮発性成分を測定しています。揮発性成分については、蜂蜜とタマネギの花の両方を分析し、プロファイル(成分の顔ぶれ)を比べました。

なお、測定は同一の蜂蜜試料から取り分けた検体を3回繰り返したもので、これは分析上の反復であって、別個の蜂蜜を集めた反復ではないと著者は述べています。試料が蜂蜜1点とタマネギの花の混合試料1点であるため、統計的な検定は行われていません。

報告された主な結果

花粉分析では18種類の花粉タクサ(分類群)が確認されました。最も多かったのはカラシナ属のSinapisで28%、続いてワレモコウ属のSanguisorbaが14%、ハンニチバナ科(Cistaceae)が13%でした。これに対してAllium(ネギ属)は5%にとどまり、45%以上を占める「優勢花粉」は検出されませんでした。著者は、優勢な花粉がなく18のタクサが含まれることから、この試料は多花蜜(マルチフローラル)であると述べています。

理化学的な項目では、水分20%、pH 4.15、電気伝導度357 µS/cm、HMF 6.21 mg/kg、プロリン473 mg/kg、そして糖組成が、いずれも認められている品質基準を満たしました。果糖と葡萄糖の合計は62.06%、ショ糖は2.06%でした。著者は、水分20%は花蜜由来の蜂蜜としての品質上限にあたるため、発酵のリスクを抑えるには適切な保存が重要だと指摘しています。

総ポリフェノール量と総フラボノイド量は低い値でしたが、抗酸化活性は中程度でした。著者は、別の研究で報告されたラベンダー蜜と比べると総量は少ないのにFRAP値は高かったことに触れ、抗酸化の挙動は総量だけからは判断できず、個々の化合物の種類や相互作用に左右されうると述べています。個別のフェノール成分としては、p-ヒドロキシ安息香酸、プロトカテク酸、ケルセチン、ピノセンブリン、クリシンなどが検出されました。ただし濃度は控えめで、著者はこのプロファイルを健康効果の直接的な証拠ではなく組成上の「指紋」として解釈すべきだとしています。

香り成分の比較は、分類の判断において特に大きな手がかりとなりました。タマネギの花は硫黄を含む化合物に富むプロファイルを示し、ジプロピルジスルフィドが最も多く(25.03%)、そのほか1,3-ジメルカプトプロパン、3-メルカプト-2-ブタノール、イソプロピルメルカプタンなどが目立ちました。一方、蜂蜜側の揮発性成分は脂肪酸・アルコール・アルデヒドが中心で、タマネギの花に特徴的な主要な硫黄化合物は検出されませんでした。両方の試料に共通して見つかったのはジメチルトリスルフィドだけで、著者はその存在は蜜との限られた接触や環境的な近さを反映している可能性があり、タマネギ由来を決定づけるものではないと述べています。

この事例が示すこと

著者の結論は、花粉と揮発性成分の両方の証拠から、この試料を単花蜜のタマネギ蜜と分類する根拠は十分ではなく、タマネギ畑が広がる景観の中で生産された多花蜜と考えるほうが整合的だというものです。巣箱がタマネギの開花中の畑に隣接していたにもかかわらず、その近さは蜂蜜中のAllium花粉の高い割合には結びつきませんでした。

ここから著者が引き出しているのは、花粉が少なく現れやすい植物が関わる蜂蜜では、花粉分析に化学的なプロファイリングを組み合わせることで、植物由来の評価をより確かなものにできるという示唆です。同時に、これが蜂蜜1点とタマネギの花の混合試料1点に基づく事例研究であることから、結果は個別の事例として読むべきで、より多くの試料・複数の季節・多様な地域での検証を経ずにタマネギ関連の蜂蜜全般へ広げるべきではないと、著者自身が限界を明示しています。

周囲に何が咲いているかは、蜂蜜の中身をそのまま言い当てはしない——この一点が、産地や花の種類を確かめる作業の難しさと、複数の手がかりを重ねる意義を具体的に示した事例といえます。

著者:Esra Demir Kanbur(RECEP TAYYİP ERDOĞAN ÜNİVERSİTESİ)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Esra Demir Kanbur. When Floral Availability Fails to Predict Bee Foraging: Melissopalynological, Physicochemical, Phenolic, and Aroma Characterization of a Misclassified ‘Onion Honey’ Sample. Journal of Anatolian Environmental and Animal Sciences 2026-09-27. DOI: 10.35229/jaes.1979837. 原著ライセンス:CC BY.