この研究は、タイの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Plants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

サツマイモは炭水化物に加えてビタミンや食物繊維、抗酸化成分を含む作物として知られています。なかでも「栗こがね」は栗のような風味と黄金色の果肉をもつ日本のサツマイモ品種です。しかし論文は、タイでのサツマイモ生産には課題があると述べています。雨季に水を過剰に受け取ると、つるや葉ばかりが茂り、光合成でつくられた養分が本来もっとも価値のあるイモではなく茎の成長に使われてしまうという問題です。加えて、露地での栽培は植え付け後1〜2か月の除草や収穫時の手掘りなど、人手のかかる作業が多いことも指摘されています。

研究チームが着目したのは、パクロブトラゾール(以下PBZ)という植物成長調整剤です。PBZはジベレリンという植物ホルモンの合成を妨げる働きをもち、茎葉の伸びすぎを抑えることで養分をイモの側へ回す効果が、ジャガイモやニンジンなど他の根菜で報告されてきました。そこで著者らは、袋を使った栽培条件のもとで、濃度の異なるPBZが「栗こがね」の茎葉の成長とイモの収量にどう影響するかを調べることを目的としました。

どのように調べたか

試験はタイ・コンケン大学農学部の野菜農場で行われました。土に牛ふん堆肥、フィルターケーキ、細かく刻んだヤシ殻を混ぜた培土を25リットルの栽培袋に詰め、1袋に1本の苗を植える方式です。PBZは0(無処理)、25、50、100、200 ppmの5段階を設定し、植え付け後2週・4週・6週の3回、1回あたり200ミリリットルずつ株元に灌注しました。無処理区には同量の水だけを与えています。各処理20反復で、2作分の栽培を行いました。

測定したのは、植え付け後30日と60日時点のつるの長さ、節の数、葉面積、葉の緑色の濃さを示すSPAD値、葉緑素やカロテノイドの量などです。収穫時には1株あたりのイモの数、長さ、太さ、生重量、地上部の重さ、そして植物全体に対するイモの割合を示す収穫指数(ハーベストインデックス)を記録しました。さらに葉に含まれる窒素・リン・カリウムなどの主要養分と、イモのタンパク質・脂質・繊維・灰分・炭水化物、糖度、カロテノイド量も分析しています。

報告された主な結果

著者らの報告によれば、植え付け後2か月の時点で100 ppmと200 ppmのPBZは1株あたりの葉面積と地上部の生重量・乾物重を有意に減らしました。一方でつるの長さはPBZ処理区のほうが長くなっており、この条件下ではPBZが葉の展開や地上部の重量よりも茎の伸長に選択的に作用したと解釈されています。

葉の状態については、植え付け後1か月の時点で100 ppmと200 ppmのSPAD値が有意に高く、クロロフィルaと総クロロフィルの量も無処理区より多くなりました。論文はこれを、葉が厚くなり単位面積あたりの葉緑素濃度が高まったことの表れである可能性として説明しています。

収量そのものについては、1株あたりのイモの数、長さ、太さ、生重量のいずれにも統計的に有意な差は認められませんでした。ただし収穫指数は無処理区の0.32に対して100〜200 ppmで0.61〜0.63へと数値上おおよそ倍になっています。著者らは、この変化はイモが実際に増えたからではなく、地上部の成長が抑えられたことが主な要因であると明記しています。生のイモの収量も100〜200 ppmで1ヘクタールあたり約41,933〜42,000キログラム、無処理区で25,200キログラムという数値上の増加傾向にとどまり、有意差はありませんでした。

成分面では、200 ppm区で葉の主要養分の蓄積が最も多く、カリウムは無処理区の3.60%に対して6.82%に達しました。イモのタンパク質含量も無処理区の2.04%に対し200 ppm区で6.32%と高くなった一方、炭水化物はわずかに減りました。50 ppm区では繊維(4.72%)と灰分(5.92%)が最も高くなっています。糖度(Brix)と総カロテノイド量には処理による差は見られませんでした。

論文は限界にも触れており、植え付け後2か月の葉面積のばらつきが大きかったこと、イモの生重量の変動が個体ごとの成長差や土の水分の違いを反映していることを挙げ、初期の成長傾向や収量の数値は慎重に読むべきだと注意を促しています。

この研究が示すこと

著者らの結論は、PBZは収量そのものを絶対的に押し上げるものではなく、茂りすぎる茎葉を抑えて養分の配分をイモの側へ向けさせる「樹冠(株の茂り)を管理する手段」として働く、というものです。実際の使用にあたっては、100 ppmでも200 ppmと同等の収穫指数の変化と生理的な効果が得られるとして、薬剤の使用量やコスト、環境への残留を抑える観点から100 ppmが推奨されています。

つるや葉が伸びすぎて収量が伸び悩む栽培条件において、養分の行き先を作物のどの部分に向けるかという視点から栽培を組み立てる余地があることを、この研究は具体的な数値とともに示しています。

著者:Kiriya Sungthongw(Agronomy Section, Faculty of Agriculture, Khon Kaen University, Khon Kaen 40002, Thailand)、Chanon Lapjit(Horticulture Section, Faculty of Agriculture, Khon Kaen University, Khon Kaen 40002, Thailand)、Khomsorn Lomthaisong(Department of Biochemistry, Faculty of Science, Khon Kaen University, Khon Kaen 40002, Thailand)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kiriya Sungthongw, Chanon Lapjit, Khomsorn Lomthaisong. Effect of Paclobutrazol on Growth and Storage Root Yield of Sweet Potato (Ipomoea batatas (L.) Lam.) ‘Kuri Kogane’ Grown in Planting Bags. Plants 2026-09-20. DOI: 10.3390/plants15182878. 原著ライセンス:CC BY.