著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Gels
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
3種のイモでんぷんを同じ物差しで比べる
ジャガイモ、サツマイモ、そしてタピオカの原料となるキャッサバは、世界で広く栽培されている重要なでんぷん作物です。これらのでんぷんは、パンや菓子、春雨や麺、タピオカパール、ゼリーなど、さまざまな食品に使われています。著者らは序論で、3種のでんぷんの間には結晶の型、加熱したときの糊化のしかた、粘り、冷凍と解凍への強さ、消化されやすさなどに違いがあると説明しています。
一方で、3種それぞれの構造や加工特性は個別に調べられてきたものの、分子レベルの構造と加工上の性質の対応関係を同じ条件で体系的に示した研究はまだ報告されていない、と研究チームは指摘しています。そこで本研究では、市販のジャガイモでんぷん、サツマイモでんぷん、タピオカでんぷんを対象に、分子の形から食品加工に関わる性質までをまとめて比較しました。
何を測ったのか
でんぷんは、ブドウ糖がつながってできた分子の集まりです。主に、ほぼ一本の鎖状のアミロースと、枝分かれの多いアミロペクチンの2種類から成ります。研究チームはまず、でんぷんの含有量と色を測ったうえで、枝分かれを切り離した鎖の長さの分布を調べました。鎖の長さは、ブドウ糖がいくつつながっているかを表す「重合度」で示されます。この測定には、短い鎖を細かく分ける電気泳動と、長い鎖まで大きさ別に分ける分析法の2つが用いられました。
さらに、粒としての性質に加え、加熱したときの熱の出入り、加熱と冷却に伴う粘りの変化、固めたゲルの硬さや弾力などの食感、冷凍と解凍を3回繰り返したときの離水、試験管内での酵素による消化性を測定しました。消化性は、20分以内に分解される「速く消化されるでんぷん」、20分から120分の間に分解される「ゆっくり消化されるでんぷん」、120分後も分解されずに残る「難消化性でんぷん」の3つに分けて評価されています。
主な結果
でんぷんの含有量は、乾燥重量あたりでジャガイモ94.03%、サツマイモ92.14%、タピオカ92.56%で、統計的に有意な差はありませんでした。色については、タピオカでんぷんが最も白く明るい値を示しました。サツマイモでんぷんは赤みと黄みが最も強く、著者らは色素が残っている可能性を挙げています。
分子構造の面では、ジャガイモでんぷんは中程度から長い鎖のアミロペクチンを多く含み、アミロースの割合は21.98%と比較的低い値でした。これに対し、サツマイモとタピオカのでんぷんは短い鎖のアミロペクチンが多く、アミロースの割合も高く、タピオカが28.11%で最も高い値でした。
加工特性では、ジャガイモでんぷんが最も強い粘りを示しました。ゲルの硬さは519.31グラムで、サツマイモの110.29グラム、タピオカの100.29グラムを大きく上回り、しっかりとまとまった食感でした。著者らは、中程度から長いアミロペクチンの鎖が分子どうしの結びつきを支え、ゲルの網目を強めていると考察しています。その一方で、ジャガイモでんぷんは冷凍と解凍への耐性が最も低く、糊化の温度も低めでした。
サツマイモでんぷんは、冷えたあとに粘りが戻る度合いが最も大きく、冷凍と解凍への耐性も最も高い結果でした。消化試験では、難消化性でんぷんの割合が65.66%と最も高く、速く消化されるでんぷんは10.86%と最も低い値でした。タピオカでんぷんは、食感と消化性がおおむね中間的でした。ゆっくり消化されるでんぷんの割合は、ジャガイモとタピオカでいずれも約23%でした。
ただし著者らは、消化試験が加熱していない生のでんぷん粒を用いた簡易な試験管内の条件で行われたことを強調しています。そのため、この結果は調理や加工をした食品の中での消化のされ方を示すものではありません。サツマイモでんぷんについても、完成した食品で血糖値が上がりにくいことや、腸内環境への効果を示す根拠にはならない、と論文は明記しています。
研究が示すこと
著者らは、3種のイモでんぷんの加工特性や消化の挙動は、アミロースの量だけで決まるのではなく、アミロペクチンとアミロースそれぞれの鎖の長さの細かな分布にも左右されると結論づけています。こうした違いは、用途に応じてでんぷんを選ぶ際の構造的な手がかりになりうるものです。
一方で、今回の分析は限られた数の市販試料に基づいています。そのため研究チームは、得られた関連は探索的な結果として受け止めるべきだとしています。
原著論文の著者・所属:Guohua Fan(Institute of Sorghum Research, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030600, China)、Songnan Li(Joint International Research Laboratory of Agriculture and Agri-Product Safety of the Ministry of Education of China, Institutes of Agricultural Science and Technology Development, Yangzhou University, Yangzhou 225009, China)、Xiang Gao(Institute of Sorghum Research, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030600, China)、Hong Li(Institute of Sorghum Research, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030600, China)、Jiaxin Li(College of Agriculture, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China; Institute of Cotton Research, Shanxi Agricultural University, Yuncheng 044000, China; Institute of Sorghum Research, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030600, China)、Hui Wang(Institute of Cotton Research, Shanxi Agricultural University, Yuncheng 044000, China)、Jianghui Li(College of Agriculture, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China; Institute of Cotton Research, Shanxi Agricultural University, Yuncheng 044000, China; Institute of Sorghum Research, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030600, China)、Yuandong Wang(Agricultural Water Development Center of Hequ, Xinzhou 034000, China)、Huiyong Shen(Institute of Sorghum Research, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030600, China)、Xiaomin Feng(Institute of Sorghum Research, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030600, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Guohua Fan, Songnan Li, Xiang Gao, et al. A Systematic Comparative Study of Potato, Sweet Potato, and Tapioca Starches: From Molecular Architecture to Processing Performance. Gels 2026-10-20. DOI: 10.3390/gels12100939. 原著ライセンス:CC BY.