この研究は、イタリア、スペイン、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:European Journal of Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

30年前の提案を振り返る目的

1995年、ウィレットらが地中海沿岸の食習慣をまとめた「食のピラミッド」を発表しました。これは、オリーブの栽培地域に古くから伝わる食べ方を図式化したもので、その後の栄養学研究に大きな影響を与えたと論文は述べています。この論考は、発表から30年が経った時点で、この食事パターンをめぐる研究がどこまで広がったのかを振り返ることを目的としています。

著者らによれば、疫学研究で使われる地中海食の定義は、健康によさそうな要素だけを都合よく集めたものではなく、その地域の伝統に忠実に作られてきたといいます。1960年代にアンセル・キーズがこの食事の特徴を記述して以降、1993年の国際会議やマドリードでの合意会議などを経て、原則が整理されていった経緯も紹介されています。

心血管疾患から、肝臓・腎臓・心の健康へ

この論考は、体系的な数値解析ではなく、近年発表された研究を物語のようにたどって整理する「ナラティブレビュー」という形をとっています。心血管疾患、糖尿病、がん、認知機能の低下、総死亡といったすでによく調べられた分野は前提としたうえで、著者らはそこから外れる分野、すなわち肝臓と腎臓の病気、そして精神的な健康に関する過去10年ほどの報告に焦点を当てています。

まず前提となる証拠として、スペインで行われたPREDIMED試験では、低脂肪食を勧めた群と比べ、エクストラバージンオリーブオイルを加えた地中海食で主要な心血管イベントが31%、ナッツを加えた場合は28%少なかったと報告されています。また、すでに冠動脈疾患のある患者を対象としたCORDIOPREV試験では、心血管イベントの再発リスクが26%低かったとされています。

肝臓については、世界で最も多い慢性肝疾患である代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)に対し、地中海食が有望な手立てとして浮上していると述べられています。観察研究では肝臓の脂肪量の減少や肝酵素の改善との関連が繰り返し報告され、ランダム化比較試験のメタ分析でも、結果のばらつきはあるものの重症度の指標を和らげうると結論づけられました。一方で、この食事パターンに含まれる適量の飲酒については、アルコールが肝臓に有害であることが知られているため、肝臓病の文脈では議論が続いていると論文は指摘しています。

腎臓については、慢性腎臓病が世界で推計8億5000万人に影響する課題だとしたうえで、証拠の状況が分野によって異なることが率直に示されています。CORDIOPREV試験では心筋梗塞の経験者で腎機能の維持に有益な結果が得られた一方、2型糖尿病の参加者を調べたPREDIMEDでは、6年間で低脂肪食に対する上乗せの効果は示されませんでした。これは両群で体重減少が同程度だったためかもしれない、と著者らは述べています。

心の健康では、うつ病の発症に対する保護的な働きを支持する証拠が積み重なりつつあるとされます。複数の食事指標を比較した系統的レビューでは、地中海食とうつ病の新規発症について最も説得力のある証拠が見つかり、遵守度が最も高い群は最も低い群に比べてリスクの推定値が0.67(95%信頼区間0.55〜0.82)だったと引用されています。ただし長期の介入試験は乏しく、PREDIMEDの評価はおおむね差がなく、ナッツを加えた群でわずかに有意な結果が見られた程度だったことも併せて記されています。

この振り返りが示すもの

著者らは、こうした効果が単一の成分によるものというより、栄養密度の高い食品の組み合わせから生まれる相乗的なものだろうと考えています。オリーブオイルや果物、野菜、ナッツ、豆類に含まれるポリフェノール、食物繊維、カリウムやマグネシウムといったミネラル、そして加工肉や赤身肉、いわゆるジャンクフードを控えるという質素さ。それぞれが単独でも意味を持ちますが、全体として足し算以上の働きをしているのではないか、という見方です。

同時に論考は、まだ分かっていないことの多さも隠しません。作用の仕組みの解明も、さまざまな集団での有効性の検証も、これからの課題として挙げられています。さらに、気候変動が果物や野菜、オリーブオイルの生産に影響を与えていること、健康的な食事が不健康な食事より高くつくという入手しやすさの問題にも触れられています。30年を経てなお、この食事の遺産は完結していない ― 著者らはそう締めくくっています。

著者:Francesco Visioli(Department of Molecular Medicine, University of Padova, Viale G. Colombo 3, 35121, Padova, Italy. [email protected])、Diego Martínez‐Urbistondo(Área de Medicina Vascular, Departamento de Medicina Interna, Clínica Universidad de Navarra, 28027, Madrid, Spain)、Miguel Ángel Martínez‐González(Department of Nutrition, Harvard T.H. Chan School of Public Health, Boston, MA, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Francesco Visioli, Diego Martínez‐Urbistondo, Miguel Ángel Martínez‐González. The Mediterranean pyramid: 30 years later, still relevant. European Journal of Nutrition 2026-09-24. DOI: 10.1007/s00394-026-04114-4. 原著ライセンス:CC BY.