この研究は、スウェーデンの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Exposure Science & Environmental Epidemiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ幼児の食事と金属を調べたのか
幼い子どもの成長には十分な栄養が必要ですが、同時に環境中の有害物質にさらされる量を抑えることも欠かせません。土壌や水、大気に含まれるヒ素やカドミウム、水銀、鉛といった有害金属は食物連鎖に入り込むため、食事は栄養の供給源でありながら、こうした金属の摂取経路にもなり得ます。研究チームは、幼児期の有害金属への曝露が免疫機能や成長、認知、行動の変化と関連すると報告する研究が複数あることを背景に挙げています。
一方で、子どもの有害金属曝露にどの食品が最も寄与しているかは、これまで大きく分かっていませんでした。食習慣や農業・製造・調理の違いによって地域ごとに異なると考えられており、さらに「ふだん習慣的に食べている食品と飲料の組み合わせ」(食事パターン)が曝露にどう関わるかについては、いっそう情報が乏しい状況でした。
そこで研究チームは、スウェーデンの全国食事調査に参加した1歳半と4歳の子どもを対象に、血液と尿で測った複数の有害金属の濃度から食事由来を特定し、とくに懸念される食事パターンを見いだすことを目的としました。あわせて、銅・マンガン・セレン・亜鉛という必須元素の状態に関わる食事由来との比較も行っています。これらの必須元素は、体内で有害金属から身を守る働きをする抗酸化酵素の補因子(酵素の働きを助ける成分)だからです。
何をどう調べたか
調査は2021年から2023年にかけて、スウェーデン食品庁が実施した1歳半と4歳を対象とする全国横断調査「Riksmaten Young Children」の枠組みで行われました。参加者は全国から無作為に抽出され、ウェブ上で2日分の食事記録と食習慣の質問票に回答しました。さらにその一部の家族には、血液と尿の採取への参加が呼びかけられました。今回の解析に含まれたのは、食事調査を終えて血液または尿を提供した1歳半の305人と4歳の288人です。
食事記録は非連続の2日分(週末に開始し、4〜11日後に平日1日)について、食べた時間と場所、食品の種類を保護者が入力する方式でした。食品は食品成分データベースから検索でき、分量は写真や家庭で使う計量の目安から選べました。研究チームは2日分の記録から、複数情報源法(Multiple Source Method)を用いて習慣的な摂取量を推定し、野菜、果物・ベリー、穀類、いも、ナッツ・種実、鶏肉、魚介、卵、植物性代替肉、乳製品(液状)、加糖飲料、甘い菓子、ジュースおよび植物性ミルク代替品、赤身肉・加工肉という14の主要食品群を選びました。ツナ缶やジビエ(狩猟肉)のように食べる機会が限られる食品については、摂取頻度の質問票のデータを使っています。
元素の測定には誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)が用いられました。全血ではヒ素、カドミウム、コバルト、水銀、鉛、および銅、マンガン、セレン、亜鉛を測り、尿ではカドミウム、フッ素、さらに高速液体クロマトグラフィーを組み合わせて無機ヒ素の代謝物(MMA、DMA、残る無機ヒ素)と、魚介由来のヒ素化合物であるアルセノベタインを測定しました。研究チームは、有害金属の曝露指標としては血清や血漿より全血の濃度が適しており、セレンや銅についても全血がより長期の状態を反映すると説明しています。尿中カドミウムは腎臓の皮質に蓄積して半減期が数十年に及ぶため長期曝露を、尿中のヒ素とフッ素は短期の曝露を反映します。
解析では、元素濃度と各食品群の習慣的摂取量の相関を調べるとともに、主成分分析(よく一緒に食べられる食品の組み合わせを取り出す方法)とk-means法によるクラスター分析(子どもを食事の型で排他的なグループに分ける方法)という2つのデータ駆動型の手法で食事パターンを導き、元素濃度との関連を回帰分析で検討しました。モデルは子どもの性別、年齢、親の教育年数、採取の季節、1日のエネルギー摂取量で調整されています。1歳半と4歳では食事パターンが通常異なるため、解析は年齢群ごとに別々に行われました。
報告された主な結果
両年齢群とも、血液と尿の有害元素・必須元素の濃度には大きな幅がありました。最も一貫していたのは居住地域による違いで、多くの元素で地域差が見られた一方、ほかの背景要因との関連は一貫しませんでした。4歳児は1歳半児より血中カドミウム、血中コバルト、尿中フッ素の濃度が有意に高い一方、血中銅とマンガンはわずかに低いと報告されています。
魚介の摂取と関係する元素については、血中ヒ素と尿中アルセノベタインの相関が強く、研究チームは子どものヒ素曝露の主要な形態がアルセノベタイン(海産の魚介にほぼ限って由来するヒ素化合物)であったと述べています。血中水銀とセレンも、両年齢群で魚介と野菜の摂取と相関しました。調整後の解析でも、魚介・果物・ベリー・野菜に富む食事パターンへの傾きが強いほど、血中ヒ素、水銀、セレンの濃度が高くなる関連が示されました。ツナ缶を食べる子どもは食べない子どもより血中水銀が中央値で高く(1歳半では1.12対0.91 µg/L、4歳では1.22対0.91 µg/L)、ただしツナの役割をほかの魚の摂取と切り分けることはできなかったとしています。血中水銀の中央値は両年齢群とも0.99 µg/Lで、研究チームはこれが米国の健康に基づく指針値である血中5.8 µg/Lより低い水準だと位置づけています。
無機ヒ素については、尿中DMAの一部が魚介由来である可能性を考慮し、尿中アルセノベタインで追加調整する方法と、DMAが尿中代謝物の80%未満の子どもに限る方法の2つで感度分析が行われました。後者に限定すると魚介との相関は弱まり、野菜との相関はほぼ変わらなかったと報告されています。研究チームは、DMAが80%未満の4歳児の尿中無機ヒ素代謝物の中央値が3.6 µg/L(範囲1.3〜15.4 µg/L)であったことから、食事その他の経路からの無機ヒ素曝露は幼いスウェーデンの子どもたちでは低かったと結論づけています。なお、この研究では米はほかの穀類とまとめて扱われており、この食品群はどのヒ素の指標とも相関しませんでした。
カドミウムについては、1歳半児で尿中カドミウムが植物性ミルク代替品とナッツ・種実の摂取と正の相関を示し、鶏肉の摂取とは逆の相関を示しました。調整後の解析では、植物性代替肉・代替ミルクやナッツ・種実を多く含む食事パターンへの傾きが強い1歳半児で、カドミウムとマンガンの曝露が高くなる関連が示されています。より多様な食事をとる4歳児では、この傾向はそれほど明確ではありませんでした。鉛については、ジビエの摂取を報告した子どもの血中鉛が、報告しなかった子どもよりわずかに高い値でした(1歳半で中央値7.61対6.35 µg/L)。
この研究が伝えること
この研究は、全国規模の食事調査と血液・尿の測定を結びつけることで、幼い子どもの有害金属曝露がどの食品や食事の型と結びついているかを具体的に描き出しました。魚介と野菜・果物に富む食事は、ヒ素や水銀の指標と同時に、防御に関わる必須元素セレンの濃度も高める形で現れており、植物性の代替食品やナッツ・種実に寄った食事は、より低年齢の子どもでカドミウムやマンガンの曝露と結びついていました。
有害な元素と有用な元素が同じ食品群を通じて同時に入ってくること、そして食事パターンごとに関わる元素が異なることは、子どもの食事を考えるうえで曝露と栄養の両面を合わせて見る必要があることを示しています。また、居住地域による濃度の違いが一貫して見られた点は、曝露が食事だけでなく地理的な背景とも関わりうることを示唆する所見として報告されています。
著者:Mohammad Redwanul Islam(Institute of Environmental Medicine, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Mercedes Trask(Institute of Environmental Medicine, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Maria Kampouri(Institute of Environmental Medicine, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Michael Levi(Institute of Environmental Medicine, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Taranbir Singh(Institute of Environmental Medicine, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Klara Gustin(Institute of Environmental Medicine, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Helena Bjermo(Department of Risk and Benefit Assessment, Swedish Food Agency, Uppsala, Sweden)、Pernilla Almerud(Occupational and Environmental Medicine, School of Public Health and Community Medicine, University of Gothenburg and Sahlgrenska University Hospital, Gothenburg, Sweden)、Florencia Harari(Occupational and Environmental Medicine, School of Public Health and Community Medicine, University of Gothenburg and Sahlgrenska University Hospital, Gothenburg, Sweden)、Marie Vahter(Institute of Environmental Medicine, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Sanna Lignell(Department of Risk and Benefit Assessment, Swedish Food Agency, Uppsala, Sweden)、Maria Kippler(Institute of Environmental Medicine, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mohammad Redwanul Islam, Mercedes Trask, Maria Kampouri, et al. Identifying dietary sources and patterns of exposure to toxic metals and other trace elements in Swedish toddlers and young children. Journal of Exposure Science & Environmental Epidemiology 2026-09-25. DOI: 10.1038/s41370-026-00973-5. 原著ライセンス:CC BY.