著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:使ってはならない薬剤を食肉で確実に測れるか

家畜の病気の予防や治療、生産性の向上のために動物用医薬品や飼料添加物が使われてきましたが、その成分や代謝物が食肉に残ると、食品を通じて人が摂取するおそれがあります。韓国では、安全上の懸念が大きい物質や食用動物への使用が認められていない物質を「食品から検出されてはならない物質」として定めており、現在の韓国食品公典には30物質が指定されています。

こうした物質を規制するには、ごく微量でも成分を見分け、濃度を信頼できる形で測る必要があります。そのため、公的な分析法の性能が残留管理の実効性に直接関わります。一方、韓国で家畜の生産段階を対象に残留物質を調べる全国残留検査プログラムでは、指定物質のすべてを毎年の定期検査に含めているわけではありません。

研究チームは、2024年と2025年の重点調査で選ばれた物質を対象に、韓国食品公典に定められた既存の公定分析法が牛・豚・鶏の筋肉(食肉)で目的どおりに使えるかを確認し、その方法で生産段階の食肉を全国調査しました。対象は、ピリメタミン、ダプソン、ロキサルソン、クロラムフェニコール、バンコマイシンの5物質と、ダプソンが体内で変化してできる主な代謝物モノアセチルダプソンです。このうちダプソン、ピリメタミン、ロキサルソン、バンコマイシンは定期検査の項目に含まれておらず、国産食肉での実態に関する情報が限られていました。

バンコマイシンは、重い細菌感染症の治療で重要な抗菌薬です。論文によると、世界保健機関(WHO)はバンコマイシンを含む系統を「人への使用に限る」と分類しており、食用動物への新たな使用を認めるべきではないとしています。クロラムフェニコールについては、韓国の公定法で定められた定量下限(濃度を信頼して数値として示せる最低濃度)が1キログラム当たり0.5マイクログラムであるのに対し、欧州連合(EU)は対応の目安となる基準値を0.15マイクログラムとしています。そこで研究チームは、EUの基準値の水準で測れるかにも注目しました。

何を調べたか:分析法の性能確認と全国調査

分析には、LC-MS/MS(液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析)を使いました。これは、試料に含まれる成分を液体の流れの中で分離し、質量分析計で分子の質量などを手がかりに識別して濃度を測る方法です。

研究チームは、対象成分が検出されないことを確かめた牛・豚・鶏の筋肉を用意し、そこに既知量の成分を加えて測定しました。調べた項目は、他の成分に邪魔されずに目的の成分を見分けられるか、濃度と測定値の関係が直線的か、検出下限と定量下限、加えた量をどれだけ正確に回収できるか、同じ日や別の日に測ったときのばらつき、分析者が変わっても結果が変わらないか、です。評価の基準は、韓国食品公典の枠組みと、国際的な食品規格を定めるコーデックスの指針を参考にしました。

クロラムフェニコールについては、イタリアの機関が主催する牛の筋肉を使った外部の技能試験にも参加し、研究室の測定能力を外部から評価しました。

全国調査では、2024年に採取した202検体でダプソン、モノアセチルダプソン、ピリメタミン、ロキサルソンを、2025年に採取した300検体でクロラムフェニコールとバンコマイシンを分析しました。成分を識別する条件を満たし、かつ濃度が定量下限以上の場合を報告対象の陽性としました。韓国食品公典では、定量下限未満の結果は規制上「不検出」として扱われます。

主な結果:すべての組み合わせが基準を満たし、陽性検体はなし

論文によると、6成分と3種の食肉のすべての組み合わせが、あらかじめ定めた性能基準を満たしました。何も加えていない筋肉では、対象成分と紛らわしい信号は見られませんでした。加えた成分の平均回収率は92〜106%、測定のばらつき(相対標準偏差)はすべて10.12%以下でした。分析者が違っても、回収率とそのばらつきに統計的に意味のある差はありませんでした。

定量下限は、1キログラム当たりで、ダプソンが3種とも1.0マイクログラム、モノアセチルダプソンが1.0〜2.0マイクログラム、ピリメタミンが牛と鶏で0.1マイクログラム、豚で0.05マイクログラム、ロキサルソンが牛で3.5マイクログラム、豚と鶏で4.0マイクログラム、バンコマイシンが3種とも1.0マイクログラムでした。

クロラムフェニコールの定量下限は3種とも0.15マイクログラムでした。これは公定法に定められた値の約3分の1で、EUの基準値と同じ水準です。ただし著者らは、この結果はその濃度で定量できる能力を示すにとどまり、EU規則が求める判定限界や確認分析の要件をすべて評価・充足したことを意味しないと述べています。外部技能試験の結果は良好でしたが、試験材料の濃度は1キログラム当たり1.46マイクログラムでした。このため著者らは、この結果を定量下限での性能の直接の証拠とはみなさず、ほかの5成分の性能の裏付けにもならないとしています。

全国調査では、どの年のどの対象成分についても、報告対象の陽性となった検体はありませんでした。

この研究が示すこと

著者らは、この研究を、新しい分析法の開発ではなく、既存の公定法が特定の研究室と試料の条件で目的に合うかを確かめたものと位置づけています。そのうえで、定期的な監視データが限られていた物質を含め、生産段階の食肉について分析性能と実態の基礎データを示した点に意義があるとしています。

一方で、結果の範囲には注意が必要です。陽性がなかったことは、調査した期間・畜種・筋肉と分析範囲に限った結果です。ほかの畜産食品や時期を含めて残留が全くないことを示すものではありません。ロキサルソンは元の化合物だけを測っており、体内や環境で変化してできる他のヒ素化合物や無機ヒ素については、この研究からは分かりません。また、2つの年で対象成分と検体が異なるため、成分同士や年ごとの比較はできないと著者らは述べています。

研究は、規制上「検出されてはならない」とされる薬剤とその代謝物について、既存の公的な測定法がどの程度の濃度まで信頼して使えるかを具体的に示し、その方法で実際の国産食肉を調べた記録となっています。

原著論文の著者・所属:Sunjin Park(Livestock Product Export and Sanitation Team, Animal and Plant Quarantine Agency (APQA), 177, Hyeoksin 8-ro, Gimcheon-si 39660, Gyeongsangbuk-do, Republic of Korea)、Se-Hyung Kim(Livestock Product Export and Sanitation Team, Animal and Plant Quarantine Agency (APQA), 177, Hyeoksin 8-ro, Gimcheon-si 39660, Gyeongsangbuk-do, Republic of Korea)、Chung-Oui Hong(Livestock Product Export and Sanitation Team, Animal and Plant Quarantine Agency (APQA), 177, Hyeoksin 8-ro, Gimcheon-si 39660, Gyeongsangbuk-do, Republic of Korea)、Do Hui Kim(Livestock Product Export and Sanitation Team, Animal and Plant Quarantine Agency (APQA), 177, Hyeoksin 8-ro, Gimcheon-si 39660, Gyeongsangbuk-do, Republic of Korea)、Seon-Young Lee(Department of Companion Animal Health Care, Kyung-In Woman’s University, 63, Gyeyangsan-ro, Gyeyang-gu, Incheon 21041, Republic of Korea; Livestock Product Export and Sanitation Team, Animal and Plant Quarantine Agency (APQA), 177, Hyeoksin 8-ro, Gimcheon-si 39660, Gyeongsangbuk-do, Republic of Korea)、Soo Kyoung Lee(Department of Companion Animal Health Care, Kyung-In Woman’s University, 63, Gyeyangsan-ro, Gyeyang-gu, Incheon 21041, Republic of Korea; Livestock Product Export and Sanitation Team, Animal and Plant Quarantine Agency (APQA), 177, Hyeoksin 8-ro, Gimcheon-si 39660, Gyeongsangbuk-do, Republic of Korea)、Seok-Jae Kim(Livestock Product Export and Sanitation Team, Animal and Plant Quarantine Agency (APQA), 177, Hyeoksin 8-ro, Gimcheon-si 39660, Gyeongsangbuk-do, Republic of Korea)、Mi-Young Park(Livestock Product Export and Sanitation Team, Animal and Plant Quarantine Agency (APQA), 177, Hyeoksin 8-ro, Gimcheon-si 39660, Gyeongsangbuk-do, Republic of Korea)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sunjin Park, Se-Hyung Kim, Chung-Oui Hong, et al. Verification of Official LC-MS/MS Methods and Nationwide Monitoring of Five Prohibited Veterinary Drugs and a Major Metabolite in Livestock Muscle in Korea. Foods 2026-10-15. DOI: 10.3390/foods15203662. 原著ライセンス:CC BY.