日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Cureus
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
うつ病は世界的に生活上の支障をもたらす主な原因の一つです。食事は比較的費用をかけずに見直せるため、職場やかかりつけ医での健康支援でもすでに取り組みの対象になっています。これまで、食事の質と抑うつの関係は多く調べられてきました。また、米国の全国健康栄養調査(NHANES)を使った過去の分析では、食事のエネルギーに占めるたんぱく質の割合が高い人ほど抑うつが少なく、炭水化物の割合が高い人ほど多いと報告されていました。
ただし、たんぱく質・脂質・炭水化物の三つは食事のエネルギーのほぼすべてを占めます。そのため、どれか一つの割合が増えれば、ほかのどれかが必ず減ります。栄養素を一つずつ調べる従来の方法では、たんぱく質が増えたときに減ったのが炭水化物なのか脂質なのかを区別できません。著者らはこの点に着目しました。そして、総エネルギー量を一定にしたまま、ある栄養素のエネルギーを別の栄養素に置き換えた場合の関連を推定する「等カロリー置換モデル」を用いました。どの置き換えが抑うつ症状と関連するのかを明らかにすることが、この研究の目的です。
調べた対象と方法
研究チームは、新型コロナウイルス感染症の流行で調査が中断された後に初めて完了したNHANESの調査周期(2021年8月〜2023年8月)のデータを分析しました。対象は、就労している人が最も多い20〜64歳の成人です。2日分の信頼できる食事の聞き取り記録など、必要なデータがそろった2,125人を分析に含めました。
抑うつ症状は、9項目の質問票PHQ-9で測定しました。合計点(0〜27点)が10点以上の場合を「抑うつ症状あり」としています。食事については、たんぱく質・脂質・炭水化物から得たエネルギーの合計を100%として、それぞれの占める割合を計算しました。分析では、年齢、性別、総エネルギー摂取量に加え、学歴、就労の有無、収入、喫煙、飲酒、睡眠時間、運動量、体格指数(BMI)などの影響を統計的に調整しました。
なお、この研究は一時点の状態を調べる横断研究です。食事と症状が同時にどう結びついているかは分かりますが、どちらが原因かは判断できません。
主な結果
分析対象者のうち277人(13.0%)に抑うつ症状がみられました。たんぱく質の割合で対象者を4つのグループに分けると、抑うつ症状のある人の割合は、たんぱく質が最も少ないグループの18.8%から、最も多いグループの8.3%へと低くなっていました。炭水化物では逆に、割合が最も低いグループの10.2%から、最も高いグループの19.4%へと高くなっていました。脂質については、さまざまな要因を調整すると明確な関連はみられませんでした。
置き換えの分析では、栄養素から得るエネルギーの5%分を炭水化物からたんぱく質に置き換えると、抑うつ症状がある見込み(オッズ)が約3割低いことと関連していました(オッズ比0.70)。脂質からたんぱく質への置き換えでも、同程度の関連がみられました(オッズ比0.74)。一方、炭水化物と脂質のあいだでエネルギーを入れ替えても、抑うつ症状との関連はみられませんでした。
炭水化物からたんぱく質への置き換えの関連は、男女別でも、働いている人と働いていない人の別でもほぼ同じ大きさでした。働いている人では、週の労働時間を考慮しても結果は変わりませんでした。分析条件を変えた複数の確認でも、この関連はおおむね保たれました。ただし、全国を代表するよう重み付けをした分析では、脂質からたんぱく質への置き換えの関連は統計的に明確ではなくなりました。
この研究が示すこと
著者らは、抑うつ症状との関連は炭水化物と脂質のバランスではなく、たんぱく質が関わるエネルギーの置き換えにあると結論づけています。これまで栄養素を一つずつ見ていただけでは分からなかった「何が何に置き換わったときに関連が現れるのか」を、より具体的に示した点がこの研究の特徴です。
一方で、著者らは解釈上の注意点も挙げています。横断研究であるため因果関係は示せません。また、食欲の低下はうつの症状の一つなので、抑うつ症状が食事内容に影響している可能性もあります。さらに、条件を満たさず分析から外れた人が対象年齢層の半数近くにのぼること、抗うつ薬の使用状況をこの調査周期では把握できないこと、対象者の平均BMIが30.1と高めであることも限界として示されています。
論文は、これらの結果はあくまで関連を示すものであり、食事の推奨につなげるには、時間を追って人々を観察する前向き研究が必要だとしています。そのうえで、食事のエネルギー構成と心の健康との結びつきを、「置き換え」という視点から捉え直した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Naoki Choda(Occupational Health, Itsuki Occupational Health Office, Kobe, JPN)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Naoki Choda. Macronutrient Composition and Depressive Symptoms Among Working-Age Participants in a US National Health Survey: An Isocaloric Substitution Analysis. Cureus 2026-08-21. DOI: 10.7759/cureus.114949. 原著ライセンス:CC BY.