著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Processes

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

野生ナッツの「苦味抜き」と「焙煎」の関係を調べる

プルヌス・タングティカは、中国の甘粛省や四川省の高地に自生するバラ科サクラ属の野生ナッツで、まだあまり利用されていません。研究チームによると、その種子(仁)にはポリフェノールやフラボノイドなどの成分が多く含まれます。一方で、アミグダリンという成分も含みます。アミグダリンは強い苦味のもとで、分解されると有毒なシアン化水素を生じるおそれがあります。そのため、焙煎などの加工の前に、水に浸して苦味成分を抜く「脱苦(苦味抜き)」が必要です。

ただし、水に浸すと、水に溶けやすい有用成分も苦味成分と一緒に流れ出てしまいます。著者らは、この種について脱苦と焙煎を組み合わせたときの影響を調べた研究は見当たらないと述べています。そこで本研究では、脱苦の有無と焙煎の温度・時間が、種子の有用成分、抗酸化力、香り成分にどう影響するかを調べました。目的は、香ばしさを引き出しつつ、アミグダリン由来の分解物を抑えられる条件を探ることです。

どのように調べたか

研究チームは、甘粛省迭部県の野生集団から採った種子を、脱苦したものとしないものの二つに分けました。脱苦は60℃の水に24時間浸し、4時間ごとに水を替える方法で行いました。終点は、訓練を受けた評価者が苦味をほぼ感じなくなったかどうかで判断しています。アミグダリンの量を機器で測って確かめたわけではありません。

次に、それぞれを100〜180℃の5段階の温度で、10分・20分・30分焙煎しました。そのうえで、総ポリフェノール量、総フラボノイド量、および3種類の方法(FRAP、DPPH、ABTS)で測った抗酸化力を比べました。さらに、代表的な8つの試料について、ガスクロマトグラフ質量分析という手法で香り成分(揮発性成分)を調べました。香り成分の値は、試料どうしの比較に使う半定量値で、絶対的な濃度ではないと論文は説明しています。

主な結果:成分は減り、抗酸化力と香りは強い焙煎で高まった

脱苦をすると、ポリフェノールとフラボノイドの量ははっきり少なくなりました。各焙煎条件を通じて、ポリフェノールは脱苦しない種子で1gあたり0.21〜0.36mg(没食子酸換算)、脱苦した種子では0.09〜0.27mgでした。フラボノイドも、脱苦しない種子の0.57〜1.87mg(ルチン換算)に対し、脱苦した種子では0.10〜0.63mgにとどまりました。また、これらの成分は焙煎を強くするにつれて減る傾向がありました。ポリフェノールは中程度の温度と短めの時間で比較的よく保たれ、フラボノイドは温度と時間が増すほど減り続けました。

一方、抗酸化力は強い焙煎でかえって高まりました。FRAPの値は、脱苦しない種子を180℃で20分焙煎したときに最も高くなりました。DPPHで測った値は、脱苦した種子を180℃で30分焙煎したときに最大でした。著者らはこの結果について、加熱中に糖とアミノ酸などが反応する「メイラード反応」でできる物質が、もともとの成分の減少を一部補っている可能性があると解釈しています。

香りの面では、焙煎によってナッツらしい香ばしい香りのもとになるピラジン類が大きく増えました。たとえば2,5-ジメチルピラジンは、焙煎前の脱苦しない種子の1kgあたり28.77µgから、180℃・30分の焙煎後には3909.28µgになりました。しかし同じ条件では、アミグダリンが熱で分解してできるベンズアルデヒドやベンジルシアニドも増えました。ベンジルシアニドは脱苦しない種子で1kgあたり663.49µgに達し、焙煎前の約10.5倍でした。脱苦した種子では同じ条件で233.02µgで、脱苦によって蓄積が抑えられていました。ただし、脱苦すると香りのもとになる成分も減るため、香り成分の総量は少なくなりました。なお著者らは、ベンジルシアニドをアミグダリン分解の目印として使っており、健康リスクそのものの指標ではないと説明しています。

研究が示す意味

試した条件の中で研究チームが最も適していると判断したのは、脱苦した種子では160℃・30分、脱苦しない種子では120℃・30分でした。ただし、焙煎後に残るシアン化合物の量は測っていません。このため、脱苦しない種子をそのまま食べるための条件は示していません。著者らは、これらの値を実験室規模での予備的な目安と位置づけています。

この研究からは、プルヌス・タングティカの種子の加工では、焙煎で香りや抗酸化力が高まる一方、有用成分が減り、アミグダリン由来の分解物も増えることが分かります。おいしさと安全性を両立させるには、焙煎の温度と時間を脱苦とセットで考える必要がある、というのが本研究の示す要点です。

原著論文の著者・所属:Jianjun Chen(Institute of Fruit and Floriculture Research, Gansu Academy of Agricultural Sciences, Lanzhou 730070, China)、Chaozhen Zeng(Agricultural Product Storage and Processing Research Institute, Gansu Academy of Agricultural Sciences, Lanzhou 730070, China)、Jiulong Huang(Huachi County Gannong Biotechnology Co., Ltd., Qingyang 745600, China)、Yuwen Mu(Agricultural Product Storage and Processing Research Institute, Gansu Academy of Agricultural Sciences, Lanzhou 730070, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jianjun Chen, Chaozhen Zeng, Jiulong Huang, et al. Effects of Roasting on Bioactive Components and Volatile Compounds of Prunus tangutica Kernels. Processes 2026-08-21. DOI: 10.3390/pr14162673. 原著ライセンス:CC BY.