この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Brain Structure and Function

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

思春期は脳がまだ大きく変化し続ける時期で、記憶や思考を支える神経回路が環境の影響を受けやすいと考えられています。著者らは、この時期の食事のとり方が認知成績とどう関連し、その関連に脳の構造的な特徴がどう関わるのかを調べることを目的としました。

これまでの研究の多くは、特定の食品や栄養素、あるいは外部で定められた「食事の質」の指標を用いてきました。著者らは、複数の食品群にまたがる食習慣全体のまとまりを扱うほうが、認知との関連を透明に要約できると考え、食事の多次元的な特徴を保ったまま分析する方法を採りました。

何をどう調べたか

分析には、米国の大規模な子ども追跡研究であるABCD Studyのデータ(Release 5.1)が使われました。栄養・認知・脳画像の3種類の測定がそろう4年後の追跡時点を対象とし、主要な統合サンプルは3,308人でした。3つの測定はいずれも同じ時期のものであるため、著者らはこの分析を横断的なもの、つまり時間的な前後関係や因果を示すものではなく、共有された分散(ばらつきの重なり)を捉えるものと位置づけています。

食事は子ども向けの簡易質問票で評価され、果物、野菜、全粒穀物、乳製品、肉・魚、豆類とナッツ、いも類、炭酸飲料、加糖飲料、調味料という10の食品群の摂取量が用いられました。著者らはこれらを主成分分析という手法でまとめ、互いに重ならない5つの食事の次元(主成分)を取り出しました。これらは食事全体のばらつきの77.0%を説明しました。第1主成分は全般的に多く食べる傾向、第2主成分は炭酸飲料や加糖飲料の摂取が少ない傾向を主に表していました。

著者らはさらに、これら5つの主成分を認知成績との関連の強さに応じて重みづけて合成した指標を作り、「PolyIQ」と呼びました。ただし著者らは、この指標が食事の質を一般的に測る規範的な尺度でも、独立に検証された新しい指標でもなく、あくまで探索的で、このサンプルから導かれた「認知に沿った食事の方向性」であると繰り返し断っています。同じ人の認知データが重みづけと後続の分析の両方に使い回されることを避けるため、家族単位でデータを分割し、ある参加者の点数は本人ときょうだい以外の家族から推定した重みで計算する手続き(交差適合)が取られました。

認知成績は、語彙や読解から成る「結晶性認知」と、注意の抑制・作業記憶・エピソード記憶から成る「流動性認知」の2つの合成得点として扱われました。脳の測定には、ABCDが配布している要約値が用いられ、白質では脳弓(海馬と前頭部・皮質下の記憶系をつなぐ経路)などの線維の性質を表すFA(異方性比率)が、灰白質では記憶・言語・実行機能に関わる領域の体積、皮質の厚さ、表面積があらかじめ指定されて調べられました。年齢、性別、思春期の段階、社会経済的状況、睡眠、体格指数などが調整され、多重比較の補正も行われました。

報告された主な結果

認知に沿った食事得点が1標準偏差高いと、結晶性認知の合成得点は0.099標準偏差、流動性認知は0.064標準偏差高いという関連が報告されました。これは重みづけに本人の認知情報を使わない条件で得られた値です。著者らは、この結果を「新しい独立した要因の発見」ではなく、認知に沿った食事の方向性が他の家族のデータにも当てはまることを示すものだと説明しています。認知の情報を使わずに作った5つの主成分をまとめて検定した場合にも、両方の認知領域との関連が確認されました。

脳の構造と認知成績の関係では、左右の脳弓と海馬傍回帯状束のFAが結晶性認知と正の関連を示し、左右の脳弓と右の海馬傍回帯状束のFAは流動性認知とも関連していました。これらの関連は体格の指標を調整しても弱まりませんでした。灰白質では、左右の海馬傍回、紡錘状回、右中側頭回などの体積が結晶性認知と関連しましたが、流動性認知と関連する体積は補正後には残りませんでした。皮質の厚さと表面積では、補正に耐える関連は見つかりませんでした。

指定したすべての脳領域を対象に、食事得点と認知成績の関連のうち脳の測定値で統計的に説明できる部分を調べたところ、補正後に残ったのは左右の脳弓のFAだけでした。その割合は、結晶性認知では右が約6.4%、左が約6.1%、流動性認知では約9.7%と約8.2%と報告されています。認知の情報を使わない主成分による分析でも、第1主成分から右脳弓のFAを経て流動性認知に至る間接的な関連が補正後も残りました。灰白質では、すべての領域を対象にした補正に耐える間接的関連はありませんでした。左海馬傍回の体積には小さな関連が見られましたが、補正後は有意ではなく、著者らはこれを今後の検討候補にとどめると述べています。

この報告が示す意味

著者らは、食事・認知・脳という3つの測定がいずれも同時期のものであることから、この分析が因果関係や時間的な順序を示すものではないと明確にしています。食事が脳の構造に影響したのか、その逆なのかは区別できません。また、食事の評価は簡易な質問票に基づいており報告の誤差を含むこと、画像データのある集団は元のコホート全体を代表していないこと、見いだされた間接的な関連はいずれも小さく、食事と認知の重なりのごく一部しか説明しないことも限界として挙げられています。

それでもこの研究は、思春期における食習慣全体のまとまりと認知成績との重なりが、脳の広い範囲に一様に現れるのではなく、海馬から伸びる記憶の経路である脳弓という特定の白質経路に選択的に集まっていることを、多数の領域を公平に検定したうえで示しました。個々の食品ではなく食事全体の型に目を向け、脳のどの部分と重なるのかを慎重に切り分けたこの報告は、栄養と認知発達の関係を考えるうえでの一つの出発点を提示しています。

著者:Isabelle Brocas(University of Southern California, IAST and CEPR, Los Angeles, USA. [email protected])、Liam Kirwin(University of Southern California, Los Angeles, USA)、Matthew Kuloszewski(University of Southern California, Los Angeles, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Isabelle Brocas, Liam Kirwin, Matthew Kuloszewski. Brain structural pathways linking dietary patterns and cognitive performance in adolescents. Brain Structure and Function 2026-08-29. DOI: 10.1007/s00429-026-03190-w. 原著ライセンス:CC BY.