著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Gels
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:塩を減らすと弱くなるゲルをどう補うか
ソーセージやハムのように肉をすり身状にして加熱し固める食品では、筋肉に含まれる「筋原線維たんぱく質」が加熱でゲル(網目状に固まった構造)をつくり、食感や水分の保持を左右します。この加工では一般に2〜3%の食塩が使われ、塩がたんぱく質を溶け出しやすくすることで、しっかりしたゲルができます。一方で、論文は、ナトリウムのとりすぎが高血圧や心血管疾患と深く関係すること、加工肉が食事由来のナトリウムのおよそ2〜3割を占めることを背景に挙げています。ところが塩を減らすと、たんぱく質が十分に溶けず、ゲルが弱くなってしまいます。
そこで研究チームは、二つの素材の組み合わせに注目しました。一つはアミノ酸の一種であるL-リシンで、肉たんぱく質を溶けやすくし、その立体構造を変えることが知られています。ただし、リシン単独では減塩条件でのゲルの改善に限界があるとされていました。もう一つは、こんにゃくの主成分である多糖類「こんにゃくグルコマンナン」で、水を抱え込み、とろみやゲルをつくる性質があります。著者らは、両者を併用すると、たんぱく質分子のふるまいとゲルの網目構造の両面から互いを補い合える可能性があると考え、その効果を詳しく調べました。
何を調べたか
研究チームは、3頭の牛のロース部分の筋肉から筋原線維たんぱく質を取り出し、5種類の条件で加熱ゲルをつくりました。従来に近い高塩条件(食塩0.6モル濃度)、減塩条件(0.2モル濃度)、減塩条件にリシン0.4%を加えたもの、グルコマンナン0.5%を加えたもの、両方を加えたものです。
ゲルの品質としては、加熱で失われる水分の割合(加熱損失)、遠心力をかけても保たれる水分の割合(保水性)、水がゲル内でどのような状態にあるか、硬さなどの食感、流動や弾性の性質、電子顕微鏡で見た微細構造を測定しました。あわせて、たんぱく質の構造変化を知るために、反応しやすい状態の硫黄を含む部分(スルフヒドリル基)の量、たんぱく質表面の疎水性(水をはじく部分の出やすさ)、赤外分光による構造の分析、ゲルを支える分子間の結合の種類を調べました。さらに補助的な手段として、筋原線維たんぱく質の主成分であるミオシンとリシン・グルコマンナンがどう結びつくかを、コンピューターシミュレーションで予測しました。
主な結果:併用で保水性と硬さが最も改善
塩を0.6から0.2モル濃度に減らすと、加熱損失は増え、保水性は下がり、ゲルは柔らかく、内部には大きな空洞が目立つようになりました。これに対し、リシンやグルコマンナンを加えると状態が改善しました。減塩条件で41.71%だった加熱損失は、リシン添加で31.05%、グルコマンナン添加で24.10%、併用で22.19%に下がり、保水性は28.53%から、それぞれ34.21%、49.38%、56.70%に上がったと報告されています。
ゲル内の水の状態を見ると、併用群では網目に保持された水の割合が98.15%と最も高く、自由に動ける水は1.42%と最も少なくなっていました。硬さは減塩条件の1.83ニュートンから、リシンで2.20、グルコマンナンで2.87、併用で3.10ニュートンへと上がり、併用群は高塩条件のゲルをも上回りました。顕微鏡観察でも、併用群は減塩条件のなかで最も均一で連続した網目構造を示しました。
ただし、すべての指標で併用が最高だったわけではありません。弾性や粘りを示す流動の測定では、グルコマンナン単独の群が最も高い値を示し、併用群はそれを下回りました。著者らは、併用ゲルの品質の向上は弾性の強さだけで決まるのではなく、水の閉じ込め方や網目の組織化も関わっていると解釈しています。
二つの素材の働き方には違いが見られました。リシンは、減塩で減った反応しやすいスルフヒドリル基を高塩条件に近い水準まで回復させ、表面疎水性も高めました。一方、グルコマンナンは表面疎水性を大きく下げ、水の保持を強めました。シミュレーションでは、グルコマンナンとリシンがミオシンの異なる部位に、異なる様式で結びつくと予測され、グルコマンナンの方が強く結合すると見積もられました。著者らはこれらの予測について、実際のゲル形成の過程で相互作用を直接示したものではないと明記しています。
研究から伝わること
この研究は、減塩条件で弱くなりがちな牛肉たんぱく質のゲルに、アミノ酸のリシンとこんにゃく由来のグルコマンナンを組み合わせて加えることで、水分の保持と硬さを高められることを示しました。リシンは主にたんぱく質の構造や分子どうしの結びつきに、グルコマンナンは主に水の閉じ込めと網目の安定に関わるという、役割の異なる素材を組み合わせる考え方が示された点に意味があります。
一方で、今回の結果は肉から取り出したたんぱく質でつくったモデルのゲルで得られたものです。著者らは、実際の減塩肉製品での効果や、塩味の感じ方、食べたときの好ましさなどは今回評価しておらず、確認が必要だとしています。
原著論文の著者・所属:Xiuyun Guo(Yangzhou University)、Jinsheng Yang(Yangzhou University)、Chao Fu(Yangzhou University)、Jiangpeng Yao(Yangzhou University)、Zhikun Yang(Yangzhou University)、Xiangren Meng(Yangzhou University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiuyun Guo, Jinsheng Yang, Chao Fu, et al. Improving the Quality of Low-Salt Beef Myofibrillar Protein Gels with L-Lysine and Konjac Glucomannan: Water Retention, Texture, and Protein Structural Changes. Gels 2026-08-10. DOI: 10.3390/gels12080709. 原著ライセンス:CC BY.