著者の所属・活動拠点の国は、アイルランド、イギリスです。
掲載誌:Performance Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ゲーリックフットボールはアイルランド発祥の伝統的な球技で、1チーム15人で行われます。高速で走る、タックルする、跳ぶといった激しい動きと短い休息を繰り返す競技で、サッカー、ラグビー、バスケットボールの要素をあわせ持つとされています。
これまでの研究では、ゲーリックフットボール選手の食事内容が望ましい水準に届いていない例が繰り返し報告され、食行動の改善に向けた教育が求められてきました。ただし著者らによれば、栄養の知識が多いことと実際の食事内容とのつながりは弱いという報告があり、知識を伝えるだけでは十分ではない可能性があります。
そこで研究チームは、選手が実際に何をどれだけ食べているかを把握し、あわせて食行動に影響する要因を探ることを目的としました。分析の枠組みには、人の行動を「能力(Capability)」「機会(Opportunity)」「動機(Motivation)」の3要素から説明するCOM-Bモデルが用いられました。能力には知識や調理技術、機会には周囲の人間関係や食料の入手しやすさ、動機には目標や意欲などが含まれます。
何をどのように調べたか
研究チームは、量的な調査と質的な調査を組み合わせる「混合研究法」を採用しました。参加者は、属性、栄養知識、調理と食に関する技術を尋ねるオンライン質問票に回答したうえで、個別の半構造化インタビューを受け、さらに5日間の食事記録を自己記入しました。半構造化インタビューとは、あらかじめ用意した質問を軸にしながら、相手の答えに応じて掘り下げていく聞き取りの方法です。
インタビューでは、まず「理想的な健康的な食事とはどのようなものだと思うか」を尋ね、選手自身が考える健康的な食事の姿を確かめました。そのうえで、健康的な食事を続けるのに役立つ技術、練習や試合の前後の食事提供、健康的な食事への意欲を支えるものや妨げるもの、といった点を尋ねています。
分析対象となったのは20人の選手で、男女各10人、エリート水準とその一つ下の水準の選手が各10人でした。所属はアイルランド島全域のクラブ8チームとカウンティ(州代表)8チームにわたります。食事記録のデータが得られたのは、このうち17人でした。
主な結果
食事記録の分析から、炭水化物の摂取量は平均で体重1キログラムあたり1日3.8グラム、たんぱく質は1.9グラムで、脂質はエネルギー摂取量全体の約32%でした。著者らは、これらがゲーリックフットボール選手を対象とした先行研究とおおむね一致すると述べています。一方で、炭水化物の推奨量である1日あたり体重1キログラムにつき5.0グラム以上を満たしたのは17人中3人だけで、3人とも男性のエリート選手でした。対照的に、たんぱく質は全員が最低推奨量の1.2グラムを満たし、5人は上限とされる2.0グラムを上回っていました。脂質は6人が推奨範囲の20〜35%を超えていました。著者らは、実際の食事ではたんぱく質が炭水化物よりも優先されている傾向と整合する結果だとしています。
男女別に見ると、調理と食に関する技術の得点は女性のほうが高く、1日のエネルギー摂取量は男性のほうが多いという傾向がありました。ただし論文では、こうした集団間の違いは統計的な検定に基づくものではなく、記述的な比較であると明記されています。
インタビューの分析からは、6つのテーマが見いだされました。競技のための意欲が食行動を支える一方で揺らぎも生むこと、知識は実際に生かしてこそ意味があること、調理技術と事前の計画が重要であること、家族やチームメイトなど周囲の人間関係が健康的な食事を後押しすることもあれば妨げることもあること、栄養サポートが形式的な「チェック項目」にとどまっていると感じる選手が多いこと、そして食費、店の品ぞろえや距離、台所設備といった生活環境の影響です。
なかでも著者らが強調したのは、料理の腕前そのものよりも、何を食べるかを前もって決め、食材を準備し、その計画を実行し続ける「自己管理」の力でした。毎週の計画や作り置きを習慣にしている選手がいる一方で、計画していないときにジャンクフードを食べてしまうと話す選手もいました。また、収入が増えてから健康的な食事を続けやすくなったという声や、近所の店では必要な食材がそろわず手軽な食品に頼ってしまうという声もあり、本人の知識や意欲とは別に、経済的・物理的な条件が食行動を左右している様子が示されました。なお、習慣や衝動に基づく無意識的な動機に当てはまるテーマは見られず、選手が語った影響はいずれも、意識的な判断、人間関係、物質的な条件に関わるものでした。
研究が示すこと
著者らは、選手の多くは練習の負荷に合わせた食事をしようとしているものの、炭水化物が不足しがちであり、その背景には食事の計画と自己管理の難しさ、知識を日常で生かすことの難しさ、信頼できる栄養サポートを安定して受けられないこと、費用や設備などの環境面の制約、そして周囲やインターネット上の相反する情報があると結論づけています。
そのうえで研究チームは、COM-Bモデルに沿って、チームの場での実践的な調理・献立計画の練習、遅い時間の練習後や遠征時の食事提供、調理設備の確保、栄養サポートの質と継続性の確保、そして試合の成績だけでなく回復や長期的な健康にも目を向けた動機づけを提案しています。ただし、これらの提案は今回の結果をもとに概念的に整理したもので、効果が実験で確かめられたものではないと著者ら自身が述べています。参加者が少ないことや、食事記録が自己申告であることも、結果を解釈するうえでの注意点として挙げられています。
この研究は、選手の食事を改善するには栄養知識を教えるだけでは足りず、計画を立てて実行する力や、食料・設備・人間関係といった周囲の条件まで含めて考える必要があることを、選手自身の言葉と実際の食事データの両面から示しています。
原著論文の著者・所属:Michèle Renard(Technological University of the Shannon: Midlands)、Fiona Lavelle(Kings College London)、David T. Kelly(Technological University of the Shannon: Midlands)、Niamh Ní Chéilleachair(Technological University of the Shannon: Midlands)、Ciarán Ó Catháin(Technological University of the Shannon: Midlands)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Michèle Renard, Fiona Lavelle, David T. Kelly, et al. Dietary behaviours in Gaelic football: a mixed-methods exploration of players’ capability, opportunity, and motivation. Performance Nutrition 2026-11-02. DOI: 10.1186/s44410-026-00037-7. 原著ライセンス:CC BY.