著者の所属・活動拠点の国は、ルーマニアです。

掲載誌:Journal of Clinical Medicine

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

体重だけでは見えない栄養と筋肉の問題

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、肥満や糖代謝の異常などを背景に肝臓に脂肪がたまる病気です。著者らは、肥満があっても栄養不良が隠れていることがあると指摘しています。MASLDでは、過剰な体脂肪と同時に、栄養摂取の不足、筋力の低下、筋肉量の減少、筋肉内への脂肪の入り込み(筋脂肪症)が起こりうるためです。

この総説の目的は、食べ方や食事内容といった「食行動」が、MASLDの人の栄養障害や筋肉の健康にどう関わりうるかを検討することです。主な対象は過体重または肥満のある成人で、小児・思春期の知見は成人とは分けて扱われています。

どのように文献を整理したか

研究チームは、PubMed/MEDLINEに収載された報告とその参考文献から、ランダム化試験、観察研究、系統的レビューなどを選び、叙述的にまとめました。著者ら自身、検索式や選別の件数は示しておらず、網羅的な系統的レビューではないと明記しています。そのうえで、MASLD患者で直接観察された知見、高齢者や一般の肥満者など関連集団からの類推、生物学的な仕組みの仮説を区別して示しています。

論文はまず用語の境界を整理しています。栄養不良、サルコペニア(筋力を重視して判定する筋肉の衰え)、サルコペニア肥満(体脂肪の過剰と筋肉量・筋機能の低下が併存する状態)、筋脂肪症は重なり合うものの、同じものではありません。また食に関わる要因を、むちゃ食い・意図的な食事制限(認知的抑制)・夜間摂食症候群などの「食行動」、たんぱく質量や加工度、食事時刻などの「食事パターン」、高齢に伴う食欲低下などの「食欲に関わる脆弱性」の三つに分け、まとめて一つの指標にしないよう求めています。

報告された主な知見

成人での直接的な研究では、食行動とMASLDの存在との関連が示されています。たとえばカナダの肝臓専門外来に通うMASLD患者100人では、20%に中等度以上のむちゃ食い症状がみられました。肝移植後の患者138人の研究では、MASLDがあることと、意図的な食事制限の傾向の強さ、除脂肪量の割合の低さがそれぞれ関連していました。ただし、いずれも一時点の調査で、食行動が栄養不良や筋脂肪症、サルコペニア肥満につながるかどうかは確かめられていないと著者らは述べています。

肝生検でMASLDと診断された93人の研究では、夜間摂食も朝型・夜型の傾向も、肝臓の組織学的な重症度とは関連していませんでした。過体重・肥満の成人197人を対象とした12週間の試験では、食事を8時間の枠内に収める時間制限食は、通常の地中海食による指導と比べて肝臓の脂肪量などを追加で改善しませんでした。

たんぱく質については、1食あたりの目標量よりも1日の総摂取量のほうが根拠がしっかりしているとされています。よく引用される「1食25〜30グラム」は、MASLDではなく高齢者の短期研究に由来するとの指摘です。エネルギー制限中のMASLD患者45人を対象にした4週間の試験では、筋肉量に有意な変化は検出されず、筋機能の改善は筋力トレーニングを行った群で多くみられ、たんぱく質の追加だけの群では少なかったと報告されています。

さらに著者らは、身体活動の不足、社会経済的な状況、複数の病気の併存、そして筋機能の低下が食べ方を変えるという逆方向の因果関係が、食行動の影響の見極めを難しくしていると強調しています。

肥満症治療などに使われるGLP-1受容体作動薬などのインクレチン関連薬については、肝臓や体重への利益を認めたうえで、除脂肪量の減少はそれだけでサルコペニアを意味しないと論じています。除脂肪量には水分や筋肉以外の組織も含まれるため、筋力や機能と合わせて解釈する必要があるという立場です。たとえば、ある大規模試験の体組成解析では、薬の群とプラセボ群のいずれでも、減った体重のおよそ75%が脂肪、25%が除脂肪組織でした。ただし、割合が似ていても減少量の絶対値や機能面への影響が同じとは限らないと著者らは注意を促しています。

この総説が示すこと

この総説は、MASLDにおいて食行動が栄養障害や筋肉の衰えを引き起こすことは、現時点では証明されていないことを明確にしています。一方で、体格指数(BMI)だけでは栄養や筋肉の状態は判断できず、食行動、栄養リスク、筋力や筋肉の状態をあわせて評価する必要があると著者らは結論づけ、成人向けの評価の枠組みを提案しています。著者ら自身、この枠組みの妥当性と、食行動が独立してどれほど関与するかは、今後の前向き研究で確かめる必要があるとしています。

原著論文の著者・所属:Ioana Armașu(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy, 700115 Iași, Romania)、Maria-Christina Ungureanu(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy, 700115 Iași, Romania)、Liliana Gheorghe(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy, 700115 Iași, Romania)、Gina Eosefina Botnariu(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy, 700115 Iași, Romania)、Alexandru Florin Florescu(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy, 700115 Iași, Romania)、Anca Matei(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy, 700115 Iași, Romania)、Irina Jari(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy, 700115 Iași, Romania)、Roxana Elena Rusu(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy, 700115 Iași, Romania)、Elena Cojocaru(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy, 700115 Iași, Romania)、Ioana Vasiliu(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy, 700115 Iași, Romania)、Cristian Cojocaru(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy, 700115 Iași, Romania)、Letiția Leuștean(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy, 700115 Iași, Romania)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ioana Armașu, Maria-Christina Ungureanu, Liliana Gheorghe, et al. Nutritional Impairment and Muscle Health in MASLD: The Potential Role of Eating Behaviors. Journal of Clinical Medicine 2026-10-25. DOI: 10.3390/jcm15218306. 原著ライセンス:CC BY.