この研究は、イギリス、アイルランドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、体内でほとんど作れないため食事から取る必要のある脂肪酸です。なかでも青魚などに多く含まれるEPAとDHAは、心血管や脳の健康に関わるとされ、近年は競技力や回復との関連も検討されています。一方で、著者らは、アイルランドのゲーリックフットボールのような断続的な動きの多いチームスポーツの選手について、実際にどれだけ摂取し、体内にどれだけ蓄えられているのかはよく分かっていないと述べています。
著者らによれば、ゲーリックフットボールは接触・高速移動・急な方向転換を伴い、他のチームスポーツと比べて負傷率が高い競技です。選手は県代表(インターカウンティ)レベルになると週30時間以上を練習や試合、回復に充てることもあります。そこでこの研究は、男子インターカウンティ選手を対象に、オメガ3の食事からの摂取量とサプリメントの使用実態、魚を食べにくい理由、そして体内の蓄積状態を一通り把握することを目的としました。著者らは、これがこの集団を対象とした初めての包括的な実態把握だとしています。
何をどのように調べたか
調査は横断研究、つまりある一時点の状態を切り取って観察する方法で行われました。9つのインターカウンティチームから76名(平均24.7歳)がシーズン前に参加し、妥当性が確認済みの食物摂取頻度質問票にオンラインで回答しました。この質問票では過去6か月間の魚介類や植物性食品、サプリメントからのEPA・DHA・ALA(植物由来のオメガ3)の摂取量を推計します。魚を週2回以上食べていない人には、その理由も尋ねました。
さらに、このうち1チームの20名(平均25.6歳)については、指先から採取した血液を乾燥させた試料を分析し、オメガ3インデックス(O3i)を測定しました。O3iは赤血球の膜に含まれる脂肪酸のうちEPAとDHAが占める割合を示す指標で、おおよそ直近120日間の体内のオメガ3の状態を反映するとされます。著者らは、この20名は当日に参加できた選手と検査キットの数という制約から選ばれた便宜的な集団であり、全体を代表するものではないと明記しています。
報告された主な結果
EPAとDHAの合計摂取量については、63.2%(48名)が欧州食品安全機関の目安である1日250〜500mgを満たすか上回っていました。摂取量の中央値は1日0.41gでしたが、個人差は大きく、50mg未満から5gを超える人までいました。一方で、魚介類を週1回以上食べていたのは47.4%にとどまり、植物由来のALAについては推奨量の1日1.6gを満たしたのは15.8%(12名)だけでした。著者らは、魚を食べる頻度の目標と、EPA・DHAの量の目標は関連はするものの別々の指標であり、両者の数字が食い違ったのは、魚の種類による含有量の差と、サプリメントの寄与によるものだろうと説明しています。実際、サプリメント使用者ではEPA・DHA摂取量の80.6%がサプリメント由来でした。
サプリメントは51%(39名)が使用しており、使用者は非使用者より目安を満たす割合が明らかに高く(89.7%対35.1%)、この差は統計的に意味のあるものでした。ただし、魚から取れているEPA・DHAの量自体は両群で差がなく、総摂取量の差はサプリメントによるものでした。使用理由としては回復の促進、認知機能、全般的な健康、炎症の軽減が挙げられ、使っていない人の65%は「知識がないから」と答えています。
血液指標を測った20名では、O3iの平均は6.06±0.93%(範囲3.64〜7.31%)で、心血管の観点から低リスクとされる8%以上に達した人は一人もいませんでした。1名は高リスクに分類される4%未満でした。また、自己申告の摂取量とO3iのあいだに統計的に意味のある関連は見られませんでした(ρ=−0.09)。ただし著者らは、この分析は対象が20名と少なく、関連を検出するだけの検出力が不足していた可能性が高いと注意を促しています。つまり「関連がないことが確かめられた」のではなく「判断がつかなかった」という位置づけです。
魚を食べにくい理由としては、味や匂いなど感覚的な要因(29%)、調理の技術(23%)、オメガ3の利点についての知識不足(20%)が上位を占め、以下、費用(11%)などが続きました。情報の入手先としては栄養士が最も多く(44名)、インターネットやSNS(30名)が次ぎ、研究論文を挙げた選手はいませんでした。
この研究が示すこと
著者らの報告からは、この集団では多くの選手がEPA・DHAの摂取目安自体は満たしているものの、それは主にサプリメントによるものであり、魚を食べる習慣や植物由来のオメガ3の摂取は推奨に届いていない、という姿が浮かび上がります。そして摂取量の多寡にかかわらず、血液指標を測った範囲では誰も8%という基準には届いていませんでした。
ただし著者らは、横断研究であること、血液を調べたのが20名にとどまることから、摂取と体内の状態の関係についての結果はあくまで記述的なものとして受け取るべきだとしています。また、炎症、回復、負傷、競技成績といった事柄はこの研究では直接測定しておらず、O3iが低いことが競技面にどう影響するかは不明のままだと述べています。それでも、摂取の実態とその背後にある障壁が具体的に示されたことは、この集団に向けた働きかけを考えるうえでの出発点になります。
著者:Mark Flanagan(School of Biological Sciences, Institute for Global Food Security, Queen’s University Belfast, Belfast BT9 5DL, Northern Ireland, UK)、Lisa Ryan(School of Health, Sport Science and Nutrition, Atlantic Technological University, H91 T8NW Galway, Ireland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mark Flanagan, Lisa Ryan. Dietary Omega-3 Intake, Supplement Use and Omega-3 Status in Elite (Tier 3) Male Gaelic Football Players: A Cross-Sectional Study. Nutrients 2026-10-02. DOI: 10.3390/nu18193261. 原著ライセンス:CC BY.