著者の所属・活動拠点の国は、インド、ポーランドです。

掲載誌:Plants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

農業では、肥料や農薬にナノ粒子を使う研究が進んでいます。ナノ粒子は、大きさがおおむね1〜100ナノメートルのごく小さな粒子です。そのうち酸化亜鉛ナノ粒子は、作物に必須の微量栄養素である亜鉛を与える手段として注目されています。ただし著者らによると、これまでの研究では生育や収量が良くなったという報告がある一方、影響がない、または悪影響が出たという報告もあります。悪影響は特に濃度が高い場合に見られます。

そこで研究チームは、カラシナ(Brassica juncea、品種Varuna)を対象にしました。酸化亜鉛ナノ粒子を葉に散布し、濃度の違いによって生育、光合成、細胞を守る抗酸化の働き、収量がどう変わるかを調べました。

どのように調べたか

研究チームは市販の酸化亜鉛ナノ粒子を使いました。X線回折などで構造を確認したところ、結晶の大きさは約29ナノメートルと見積もられました。電子顕微鏡では、形のそろわない粒子が集まって塊になっている様子が観察されました。

実験は、砂壌土に堆肥を混ぜた鉢でカラシナを育てる方法で行いました。ナノ粒子を散布しない対照区と、25・50・75・100 mg/Lの各濃度で葉面散布した区を設け、それぞれ4鉢ずつ比べています。播種後30日と45日には、茎や根の長さと重さ、葉の面積、葉緑素量の目安となるSPAD値などを測りました。葉緑素蛍光も測定しています。葉緑素蛍光は、葉が受けた光エネルギーを光合成にどれだけ使えているかを示します。さらに糖やタンパク質の量、酵素の働き、細胞を傷める活性酸素の蓄積、細胞膜の傷み具合も調べました。

気孔の開き具合は、播種後45日に対照区と50 mg/L区の2つに絞って比べています。収量は播種後120日の収穫時に評価しました。

主な結果

論文によると、多くの項目で反応は濃度によって異なり、最も好ましい結果が出たのは50 mg/Lの散布でした。対照区と比べると、播種後45日には茎の長さが29%、茎の乾燥重量が30.6%、葉面積が26.6%、SPAD値で測った葉緑素量が34.4%増えました。同じ時期の気孔の開きは、対照区の2.47マイクロメートルに対して、50 mg/L区では5.077マイクロメートルでした。

光合成に関わる指標も同様の傾向でした。播種後45日の50 mg/L区では、光合成の中心となる仕組み(光化学系II)の最大効率を示す値が28.78%高くなりました。一方、使い切れない光エネルギーを熱として逃がす度合いを示す値(NPQ)は24.61%低下しました。著者らはこれを、光エネルギーをより有効に使えている状態と解釈しています。総炭水化物とタンパク質の量も、50 mg/L区で最も増えました。窒素の利用や光合成に関わる酵素、活性酸素を分解する抗酸化酵素の働きも、同じく50 mg/L区で最も高まりました。

細胞の傷みを示す指標は逆に減りました。50 mg/L区では、膜の脂質が酸化されてできる物質(MDA)が播種後45日に33.5%少なく、細胞膜からのイオンの漏れも23.9%少なくなりました。染色による観察でも、活性酸素の蓄積や根の細胞の傷みが対照区より少ないことが示されました。

収穫時の50 mg/L区では、対照区と比べて次の項目が上回りました。1株あたりのさやの数は20.5%、さや1つあたりの種子数は13.8%、種子100粒の重さは17.3%、1株あたりの種子収量は15.7%多くなりました。これに対し75〜100 mg/Lでは、こうした良い反応が弱まりました。光合成の効率を示す値は低下し、NPQは上昇しました。

結果の意味と注意点

この研究は、カラシナへの酸化亜鉛ナノ粒子の葉面散布では、濃度によって反応が大きく変わることを示しています。濃ければ濃いほど良いわけではありません。試した濃度の中では50 mg/Lが最も効果的で、それより高い濃度では良い反応が弱まりました。著者らは、散布の濃度を適切に選ぶことが重要だと強調しています。

一方で、著者らは解釈の限界も明記しています。この実験には、通常の大きさの酸化亜鉛や水に溶ける亜鉛化合物を散布した比較区がありません。そのため、今回の反応がナノ粒子ならではの性質によるのか、単に亜鉛が栄養として補われたためなのかは区別できていません。また、葉で亜鉛が検出されたことは、ナノ粒子そのものが植物の中に取り込まれて移動した証拠とはいえないとしています。さらに、結果は網で囲った管理された栽培環境で得られたもので、そのまま畑の規模に当てはめるべきではないと述べています。

原著論文の著者・所属:Rizwana Kouser(Department of Botany, Plant Physiology Section, Faculty of Life Sciences, Aligarh Muslim University, Aligarh 202002, India)、Mohammad Shiraz(Department of Botany, Plant Physiology Section, Faculty of Life Sciences, Aligarh Muslim University, Aligarh 202002, India)、Sameen Zaidi(Department of Botany, Plant Physiology Section, Faculty of Life Sciences, Aligarh Muslim University, Aligarh 202002, India)、Shamsul Hayat(Department of Biology and Plant Ecology, Faculty of Biology, University of Bialystok, Konstantego Ciolkowskiego 1J, 15-245 Bialystok, Poland; Department of Botany, Plant Physiology Section, Faculty of Life Sciences, Aligarh Muslim University, Aligarh 202002, India)、Andrzej Bajguz(Department of Biology and Plant Ecology, Faculty of Biology, University of Bialystok, Konstantego Ciolkowskiego 1J, 15-245 Bialystok, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rizwana Kouser, Mohammad Shiraz, Sameen Zaidi, et al. Concentration-Dependent Effects of Foliar Zinc Oxide Nanoparticles on Growth, Photosynthesis, Antioxidant Defence and Yield in Brassica juncea L.. Plants 2026-10-16. DOI: 10.3390/plants15203177. 原著ライセンス:CC BY.