著者の所属・活動拠点の国は、メキシコです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
メスカルはアガベ(リュウゼツラン)を原料とするメキシコの伝統的な蒸留酒です。製造の過程では、蒸留後に「ビナス(蒸留残液)」と呼ばれる副産物が残ります。先行研究では、メスカルのビナスに食物繊維やポリフェノール類(フェノール化合物)、フラボノイド、抗酸化性の分子などが含まれることが報告されており、食品素材として活用できる可能性があります。
一方で、ビナスには製造工程に由来するHMF(ヒドロキシメチルフルフラール)やフルフラールといったフラン系化合物も含まれます。著者らは、これらの存在が食品素材としてそのまま利用する際の大きな障害になると指摘しています。ただし、これらを除去しようとすると、有用なフェノール化合物まで失われるおそれがあります。また、有用成分は酸化や吸湿、熱によって劣化しやすいという課題もあります。
そこで研究チームは、まずビナスを処理してHMFを減らしつつフェノール化合物をできるだけ残す条件を探り、次にその処理済みビナスを、成分を包み込んで粉末にする「マイクロカプセル化」によって乾燥粉末にする方法を、二つの段階に分けて検討しました。
第1段階:HMFを減らし、フェノール化合物を残す処理
研究には、メキシコ州マリナルコの蒸留所で、アガベ・アングスティフォリアからメスカルを製造した際に出たビナスが使われました。研究チームは、吸着材である活性炭の添加量、酵素ラッカーゼの添加量、液の酸性度(pH)の三つを組み合わせて変え、HMFの減少率とフェノール化合物の残存率がどう変わるかを、統計的な実験計画に基づいて調べました。
その結果、処理条件によってHMFの減少率は74.8〜93.9%、フェノール化合物の残存率は2.9〜72.3%と大きく異なりました。HMFを最も多く減らした条件では、フェノール化合物がごくわずかしか残りませんでした。著者らは、活性炭による吸着がHMFだけを選んで取り除くわけではなく、さまざまな芳香族化合物なども同時に吸着しうることと、この結果が整合すると考察しています。
また、今回の条件の範囲では、ラッカーゼを増やしてもHMFの減少にはつながらず、むしろ添加量が少ないほどHMFの減少が大きいという傾向が示されました。一方で、ラッカーゼを増やすとフェノール化合物は残りやすい傾向がありました。著者らは、これはラッカーゼにHMFを変化させる能力がないことを意味するのではなく、反応を助ける仲介物質を加えず、成分の複雑な酸性の液に直接加えたという今回の条件の中での結果として解釈すべきだとしています。
実際に試した条件の中で最もバランスがよかったのは、ビナス100mLあたり活性炭0.01g、ラッカーゼ873µLを加え、pH4.5とした条件で、HMFを76.69%減らしながら、フェノール化合物の72.30%を残すことができました。
第2段階:トウモロコシでんぷんを使った粉末化
次に研究チームは、第1段階で最もバランスのよかった条件で処理したビナスに、包み込む材料としてトウモロコシでんぷんを加え、「噴霧乾燥」で粉末にしました。噴霧乾燥は、液体を細かい霧状にして熱風で瞬時に乾かす方法です。入口温度、送風の設定、液の供給速度を変えた15通りの条件で粉末をつくり、その性質を比較しました。
粉末の「水分活性」(微生物の増殖や劣化に関わる、自由に動ける水の度合いを示す指標)は、条件によって0.13から0.39まで幅がありました。赤外分光分析では、どの粉末もおおむね似た化学的特徴を示しつつ、でんぷんなど炭水化物の分子の並び方や水和の状態に違いがみられました。熱分析でも、乾燥条件によって熱に対する振る舞いに大きな差が確認されました。
電子顕微鏡による観察では、粒子は丸いもの、多面体状のもの、不規則なものが混在し、一部が融合した塊になっていました。粒子の大きさ(中央値)は条件によって約4.3〜5.8µmでした。表面がなめらかで欠陥の少ない粉末もあれば、しわや亀裂、くぼみが目立つ粉末もありました。
著者らが最も好ましいと判断したのは、入口温度140℃、送風設定50V、供給速度毎分10mLの条件です。この粉末は水分活性が0.1306と低く、表面は比較的なめらかで目立った欠陥が少ないという特徴を示しました。一方で、同じく水分活性が低かった別の条件の粉末は表面の欠陥が多く、水分をよく取り除けたからといって粒子の表面状態が良くなるとは限らないことも示されました。
この研究が示すこと
著者らは、活性炭とラッカーゼによる処理と噴霧乾燥を組み合わせることで、メスカルの副産物であるビナスを、HMFを減らしつつフェノール化合物の一部を保った、水分活性の低い粉末に変えられることを示したと結論づけています。特に、望ましくない成分の除去だけを最大化すると有用な成分も大きく失われるため、両者を同時に評価する必要があるという点を強調しています。
ただし、この研究は一つの蒸留所・一種類のアガベに由来するビナスを使った実験室規模のものであり、フェノール化合物も個々の成分ではなく総量として評価されています。粉末の保存安定性、残った成分の安全性、生物学的な機能性はまだ調べられていないと著者らは述べています。この研究は、副産物を素材として生かすための出発点となる実験的な手がかりを示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Alejandro Castrejon(School of Engineering and Sciences, Tecnologico de Monterrey, Avenida Eugenio Garza Sada 2501 Sur, Monterrey 64849, NL, Mexico)、Elisa Dufoo-Hurtado(School of Engineering and Sciences, Tecnologico de Monterrey, Avenida Eugenio Garza Sada 2501 Sur, Monterrey 64849, NL, Mexico)、Yuritzi Barbosa(División de Ingenierías, Universidad Anáhuac Querétaro, Cto. Universidades I, Fracción 2, Zibatá, Querétaro 76246, QRO, Mexico)、Marcela Gaytán-Martínez(Posgrado en Ciencia y Tecnología de los Alimentos, Research and Graduate Studies in Food Science, School of Chemistry, Universidad Autónoma de Querétaro, Centro Universitario, Santiago de Querétaro Qro 76010, CP, Mexico)、Aurea K. Ramírez-Jiménez(School of Engineering and Sciences, Tecnologico de Monterrey, Avenida Eugenio Garza Sada 2501 Sur, Monterrey 64849, NL, Mexico)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Alejandro Castrejon, Elisa Dufoo-Hurtado, Yuritzi Barbosa, et al. Microencapsulation of Mezcal Vinasse: Reduction of Undesirable Compounds Derived from the Production Process and Morphological Characterisation. Foods 2026-10-13. DOI: 10.3390/foods15203633. 原著ライセンス:CC BY.