著者の所属・活動拠点の国は、タイです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
コーヒー生産の副産物をどう生かすか
コーヒー豆を取り出す工程では、果実の外側の果肉(コーヒーチェリーパルプ)が大量に残ります。研究チームによると、この果肉は生の果実重量のおよそ半分を占める主要な副産物です。果肉には抗酸化作用などが報告されているポリフェノール類と、植物の細胞壁を構成する多糖類のペクチンが含まれています。しかし、十分には利用されていません。
著者らは、果肉から有用成分を取り出す方法の違いが、得られる成分の量や組成にどう影響するかを調べました。さらに、その抽出方法が、抽出後に残る固形物(残渣)からペクチンを回収する工程にどう影響するかも検討しました。一つの原料から複数の価値ある素材を順に取り出す、一体的な活用法の検討が目的です。
三つの抽出法を比べる
研究チームは、タイ北部のコーヒー加工現場で出たアラビカ種の果肉を乾燥・粉砕して使いました。比べた抽出法は三つです。一つ目は熱水抽出、二つ目はエタノール水溶液による抽出です。三つ目は、高温・高圧で気体と液体の中間的な性質をもつ「超臨界」状態の二酸化炭素に、補助溶媒としてエタノールを加える超臨界CO2抽出です。超臨界CO2抽出は、一般的な有機溶媒の使用を減らせる「グリーン」な手法として注目されています。
超臨界CO2抽出の条件は、エタノール濃度・温度・圧力を一つずつ変える方法で選びました。その結果、エタノール50%、55℃、300barの組み合わせが採用されました。得られた抽出物について、総ポリフェノール量、総フラボノイド量、複数の試験法による抗酸化活性を測定しました。また、試験管内で酵素DPP-IVの働きをどの程度妨げるかも調べました。DPP-IVは血糖の調節にかかわるホルモンの働きに関係する酵素で、その阻害は2型糖尿病の治療・予防の考え方として知られています。ただし本研究のDPP-IV評価は、抽出物どうしの違いを探るための追加的な指標と位置づけられています。
さらに、抽出物に含まれる多数の化合物を網羅的に測定する分析(メタボロミクス)を行い、抽出法ごとの成分組成の違いを比べました。抽出後の残渣については、薄いクエン酸溶液とともに電子レンジで加熱する方法(マイクロ波抽出)でペクチンを多く含む画分を回収しました。この画分を市販の酵素で分解し、ペクチン由来の短い糖の鎖であるペクチンオリゴ糖が得られるかを確かめました。
報告された主な結果
選ばれた条件の超臨界CO2抽出物は、総ポリフェノール量が抽出物1gあたり没食子酸換算4.26mgでした。総フラボノイド量は抽出物1gあたりケルセチン換算394.9µgでした。いずれも熱水やエタノールによる抽出物の1.6〜5.4倍にあたります。一方、果肉からの抽出物の収量は、超臨界CO2抽出が最も少なくなりました。熱水抽出は糖や多糖類など水に溶ける成分を幅広く取り込みます。これに対し、超臨界CO2抽出はポリフェノール類をより選択的に取り出している可能性がある、と著者らは考察しています。
抗酸化活性は試験法によって傾向が異なりました。超臨界CO2抽出物はDPPH法とFRAP法では高い値を示しましたが、ABTS法では従来法の抽出物より低い値でした。DPP-IV阻害率は、ポリフェノール濃度をそろえた条件で58.6〜69.8%でした。抽出法の間に統計的に有意な差は見られませんでした。
網羅的な成分分析では262の化合物シグナルが検出され、抽出法ごとに明確に異なる成分組成が示されました。超臨界CO2抽出物では、クロロゲン酸、カフェオイルキナ酸、クマロイルキナ酸といったポリフェノール類の相対的な量が最も高くなりました。熱水抽出物ではフマル酸などの有機酸やインドール類が多く見られました。著者らは、こうした成分が抗酸化活性の違いと整合的である可能性を述べています。ただし、個々の成分が活性にどれだけ寄与しているかは実験的には確かめられていない、としています。
残渣からのペクチン回収とオリゴ糖
抽出後の残渣からのペクチン画分の回収には、最初の抽出法の違いがはっきり表れました。熱水で処理した残渣では、収率が8%以下に下がりました。熱水がペクチンをあらかじめ溶かし出してしまうためと考えられます。エタノールや超臨界CO2で処理した残渣では約18〜20%となり、未処理の果肉と同程度でした。また、超臨界CO2処理後の残渣は、0.002%というごく薄いクエン酸でも10.88%の収率を示しました。これは、未処理の果肉を0.2%クエン酸で抽出したときの最高収率10.77%と同程度でした。
回収したペクチン画分を酵素で分解すると、糖が1〜4個つながったペクチンオリゴ糖が生じることが確認されました。
研究が示すこと
この研究は、最初にどの方法で有用成分を抽出するかによって、得られる抽出物の性質だけでなく、残渣の使い道も変わることを示しています。超臨界CO2抽出でポリフェノール類を選択的に取り出し、残った固形物からペクチン画分とペクチンオリゴ糖を得る流れは、コーヒー果肉を無駄なく使う一体的な活用法になりうる、と著者らは結論づけています。
原著論文の著者・所属:Kamon Yakul(Division of Biotechnology, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand)、Tippapha Pisithkul(Program in Biotechnology, Faculty of Science, Maejo University, Chiang Mai 50290, Thailand)、Charin Techapun(Division of Biotechnology, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand)、Chayatip Insomphun(Division of Biotechnology, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand)、Churairat Moukamnerd(Division of Biotechnology, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand)、Phisit Seesuriyachan(Division of Biotechnology, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand)、Wilasinee Jirarat(Division of Biotechnology, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand)、Thanongsak Chaiyaso(Division of Biotechnology, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kamon Yakul, Tippapha Pisithkul, Charin Techapun, et al. Integrated Green Valorization of Coffee Cherry Pulp Through Bioactive Compound and Pectin-Rich Fraction Recovery for Pectic Oligosaccharide Production. Foods 2026-10-06. DOI: 10.3390/foods15193555. 原著ライセンス:CC BY.