この研究は、アルゼンチンの研究機関の研究論文です。
掲載誌:International Journal of Life Science and Agriculture Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
ブルーベリーを低速圧搾してジュースを作ると、皮・種・残った果肉からなる湿った搾りかす(ポマス)が残ります。ポリフェノールなどの成分は果実の外側の組織に多く集まるため、この搾りかすには色素や食物繊維とともに有用な成分が残っています。著者らは、これを廃棄物ではなく二次原料としてとらえ、成分を回収する方法を検討しました。
従来この種の成分回収には、酸を加えたアルコール系の溶媒がよく使われてきましたが、揮発しやすく燃えやすいという性質があります。そこで研究チームが着目したのが、天然由来の物質を組み合わせた「天然深共晶溶媒(NADES)」です。これは、単独では固体の物質同士を混ぜると融点が大きく下がり、室温で液体になる混合物のことで、本研究ではこの性質を満たす混合物という運用上の定義を採用しています。研究の目的は、コリン塩化物を基材とする5種類の溶媒と3種類の処理方法を同一の実験計画の中で比べ、溶媒の組み合わせ・処理条件・両者の相互作用が、フェノール類・フラボノイド・単量体アントシアニンの測定値にどう影響するかを明らかにすることでした。
どのように調べたか
材料には、アルゼンチン・リオネグロ州で2024年に収穫された栽培品種エリオットのブルーベリーが使われました。低速圧搾式のジューサーを用いて、独立した6回の操作で毎回250 gの果実を処理し、平均で175.3 ± 1.6 gのジュースと70.0 ± 1.5 gの生の搾りかすが得られました。搾りかすは果実重量の28.0%にあたり、水分は55.5%でした。果実そのものやジュース、搾りかすについては、水分・糖度・酸度などの基本的な性質や色も測定されています。
溶媒は、水素結合の受け手となるコリン塩化物に、尿素・フルクトース・リンゴ酸・シュウ酸・乳酸のいずれかを1対1のモル比で組み合わせ、水を15%含む形で5種類を調製しました。有機酸を用いた3種類は見かけのpHが1.36〜2.45と強い酸性を示し、尿素とフルクトースを用いたものは5.50〜6.00でした。粘度は組成によって大きく異なり、25 ℃で最も低いコリン塩化物・尿素系の17.3 mPa·sから、最も高いコリン塩化物・乳酸系の447 mPa·sまで幅がありました。なお粘度は各条件1回の測定であり、著者らは統計的な比較ではなく説明のための情報として扱っています。
抽出は、生の搾りかす300 mgに溶媒4.00 mLを加え、3つの条件のいずれかで行いました。40 ℃で30分間の加熱撹拌、40 kHzの超音波槽で30分間の超音波処理、そして計15秒だけ照射するマイクロ波処理です。各組み合わせについて、独立に調製した6個の抽出液を用意しました。比較の基準として、加熱撹拌と超音波処理には酸性化エタノールも含めています(マイクロ波処理では安全上の理由で除外)。得られた抽出液は分光光度法で測定され、フェノール類はガロ酸相当量、フラボノイドはカテキン相当量、単量体アントシアニンはシアニジン-3-グルコシド相当量として、いずれも生の搾りかす100 gあたりで表されました。
主な報告結果
分散分析の結果、溶媒の種類、処理技術、そしてその両者の相互作用は、3つの測定値すべてに有意な影響を与えていました。相互作用が有意だったため、著者らは各要因の平均だけでなく、溶媒と技術の具体的な組み合わせごとに結果を解釈しています。つまり、ある溶媒がどれだけ効果を発揮するかは、どの処理方法と組み合わせるかによって変わっていたということです。
最も高い値を示した組み合わせは、成分の種類によって異なりました。フェノール類とフラボノイドでは、コリン塩化物・乳酸系を加熱撹拌と組み合わせた条件が最高で、それぞれ100 gあたり667.43 ± 15.33 mgガロ酸相当量、256.36 ± 10.37 mgカテキン相当量でした。同じ加熱撹拌条件下の酸性化エタノールと比べると、それぞれ27.4%、22.6%高い値です。一方、単量体アントシアニンでは、コリン塩化物・シュウ酸系と加熱撹拌の組み合わせが最高で、100 gあたり187.39 ± 7.18 mgシアニジン-3-グルコシド相当量、酸性化エタノールより22.5%高い値でした。
全体としては、有機酸を用いた酸性の3種類が、加熱撹拌・超音波・マイクロ波のいずれの処理でも上位に位置し、尿素系とフルクトース系は下位にとどまりました。このことから著者らは、処理技術も測定値の大きさに影響するものの、溶媒そのものの選択が抽出性能を左右する主要な要因だったと述べています。また、粘度が高いコリン塩化物・乳酸系が高い値を示したことから、性能は粘度の低さと単純に反比例するわけではないとも指摘しています。マイクロ波処理は照射時間がわずか15秒でしたが、すべての溶媒で定量可能な値が得られました。ただし3つの処理は時間や投入エネルギーをそろえていないため、著者らはエネルギー効率や工業的な生産性の優劣を論じる根拠にはならないと明記しています。
この研究が示すこと
著者らは、生の搾りかすから乾燥の工程を経ずにフェノール類・フラボノイド・アントシアニンを回収できたことを、この副産物が搾汁直後からそのまま処理できる原料となりうる根拠として挙げています。
興味深いのは、成分の種類によって最適な溶媒が分かれた点です。これは、万能の溶媒を探すのではなく、狙う成分に合わせて溶媒の組成を選ぶという考え方につながります。ただし著者らは、分光光度法による測定値の違いは、成分ごとの取り出されやすさの差を反映している可能性もあれば、測定法が試料の影響を受けた結果である可能性もあり、化学的な選択性が示されたわけではないと慎重に述べています。個々の化合物を特定して定量する分析が今後の課題として残されており、今回見いだされた条件は有望な候補であって最適化されたものではない、という位置づけです。
著者:F. C. Namor(Faculty of Food Science and Technology, National University of Comahue, Villa Regina, Río Negro, Argentina)、C. A. Paulino(Faculty of Food Science and Technology, National University of Comahue, Villa Regina, Río Negro, Argentina)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):F. C. Namor, C. A. Paulino. Extraction of Bioactive Compounds from Fresh Blueberry Pomace Using Choline Chloride-Based Systems: Influence of Formulation and Treatment Conditions. International Journal of Life Science and Agriculture Research 2026-09-02. DOI: 10.55677/ijlsar/v05i09y2026-01. 原著ライセンス:CC BY.