著者の所属・活動拠点の国は、中国、オーストラリアです。
掲載誌:Journal of Food Measurement & Characterization
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:使いにくい植物たんぱく質の性質を変える
シーバックソーン(サジー、学名Hippophae rhamnoides L.)は、油やポリフェノールなどの成分で知られる植物です。一方、そのたんぱく質を食品素材として活用する研究は、あまり進んでいませんでした。著者らによると、シーバックソーンのたんぱく質は水に溶けにくく、散らばりにくいうえ、油と水の境目(界面)に集まる力も弱いとされています。そのため、油と水を混ぜた状態を安定に保つ「乳化」に使いにくいことが課題でした。
研究チームが注目したのは、「スクシニル化」という化学的な改変です。たんぱく質のアミノ基(主にリシンという構成成分にある部分)に無水コハク酸を反応させると、マイナスの電荷を持つカルボキシ基が加わります。その結果、たんぱく質どうしが反発し合って固まりにくくなると考えられています。この研究は、改変の程度の違いがシーバックソーンたんぱく質の構造、性質、乳化の働きにどう影響するかを体系的に調べることを目的としました。
何を調べたか
研究チームは、市販のシーバックソーンたんぱく質粉末を水に分散させました。そこへ、たんぱく質に対する質量比で0、0.02、0.05、0.10の無水コハク酸を加え、未改変のたんぱく質と、改変の程度が異なる3種類(論文中のSSBP-1、SSBP-2、SSBP-3)を作りました。
続いて、どれだけのアミノ基が改変されたか(スクシニル化度)、粒子表面の電荷、粒子の大きさを調べました。さらに、大豆油を使った乳化の能力と安定性、油と水の界面にたんぱく質がどれだけ吸着するかも評価しました。
加えて、油に溶けやすい色素成分β-カロテンをこれらのたんぱく質で包んだ乳化液を作りました。β-カロテンの包み込み効率、冷暗所での保存中の残存率、試験管内で消化の過程をまねた実験での振る舞いも調べています。
主な結果:電荷が強まり、細かく安定な乳化液に
無水コハク酸を多く加えるほど、スクシニル化度は高くなりました。最も少ない添加量では約21.5%でした。論文によると、改変によって粒子表面のマイナスの電荷はおよそ−33.8 mVから−51.6 mVへ強まりました。粒子の大きさの分布も小さい側へ移り、たんぱく質どうしの凝集が抑えられて、水中に散らばりやすくなったことが示されました。
乳化の能力を示す指標は、未改変のたんぱく質で25.02 m²/gでした。最も改変の進んだSSBP-3では35.71 m²/gとなり、約43%向上しました。界面に吸着したたんぱく質の割合も約39%から約62%へ増えました。より多くのたんぱく質が、油と水の境目の安定化に関わるようになったことになります。
β-カロテンを含む乳化液では、包み込み効率が未改変の約75%から、改変の程度に応じて約82%、約90%、約93%へと高まりました。油滴の平均サイズは、未改変の約2085 nmに対し、SSBP-3では約701 nmまで小さくなりました。4 °Cの暗所で14日間保存した後のβ-カロテン残存率は、未改変が約61%、SSBP-3が約70%で、後者のほうが分解が抑えられていました。
試験管内での消化実験では、改変たんぱく質を使った乳化液で脂質の分解が進みました。120分後の遊離脂肪酸の放出は約21%から約26%に増えています。また、消化後に吸収されうる形(混合ミセル)に移ったβ-カロテンの割合を「生体利用可能性(バイオアクセシビリティ)」と呼びます。この値は、未改変の約10%から、改変の程度に応じて約20%、約24%、約28%へ高まりました。ただし、これは試験管内で消化を模した条件での測定値です。
この研究が示すこと
著者らは、一連の結果を「電荷・構造・界面」の流れで説明しています。スクシニル化によってマイナスの電荷が増え、たんぱく質の構造が適度にほぐれて凝集しにくくなります。その結果、油と水の界面に吸着しやすくなり、より安定な界面の層ができる、という考え方です。
この研究は、利用が進んでいなかったシーバックソーンのたんぱく質でも、化学的な改変によって乳化の働きと、油に溶ける成分を包んで運ぶ能力を高められることを、試験管内の実験で示しました。著者らはこの成果を、種子の搾りかすなどの副産物を食品素材として活用するための理論的な裏付けと位置づけています。
原著論文の著者・所属:Xuehuan Cheng(College of Food Science and Engineering, Tianjin University of Science and Technology, Tianjin, 300457, China)、Shuya Ge(College of Food Science and Engineering, Tianjin University of Science and Technology, Tianjin, 300457, China)、Wanlu Liu(College of Food Science and Engineering, Tianjin University of Science and Technology, Tianjin, 300457, China)、Junhang Zhang(College of Food Science and Engineering, Tianjin University of Science and Technology, Tianjin, 300457, China)、Bing Wang(Gulbali Institute Agriculture Water Environment, Charles Sturt University, Wagga Wagga, NSW, 2678, Australia)、Chris Blanchard(Gulbali Institute Agriculture Water Environment, Charles Sturt University, Wagga Wagga, NSW, 2678, Australia)、Padraig Strappe(Curtin Medical School, Curtin Health Innovation Research Institute (CHIRI), Curtin University, Bentley, WA, 6102, Australia)、Zhongkai Zhou(College of Food Science and Engineering, Tianjin University of Science and Technology, Tianjin, 300457, China; Gulbali Institute Agriculture Water Environment, Charles Sturt University, Wagga Wagga, NSW, 2678, Australia; Key Laboratory of Agricultural Product Processing and Quality Control, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, School of Food Science and Technology, Shihezi University, Shihezi, 832000, China)、Guohua Zhao(College of Life Science, Sichuan Normal University, Chengdu, 610101, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xuehuan Cheng, Shuya Ge, Wanlu Liu, et al. Succinylation-driven structural modification of Hippophae rhamnoides L. protein enhances interfacial properties and emulsion performance. Journal of Food Measurement & Characterization 2026-09-09. DOI: 10.1007/s11694-026-04926-2. 原著ライセンス:CC BY.