著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。

掲載誌:Frontiers in Molecular Biosciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

シーバックソーン(サジー、学名Hippophae rhamnoides)は、多くの生理活性成分を含む植物として知られています。果実全体や油、葉に比べると、種子はあまり研究されてきませんでした。種子には、フラボノイド類、フェノール酸、プロアントシアニジン、トリテルペノイドサポニンなどが含まれることが報告されています。

研究チームは、がんの予防や治療に役立つ新しい化合物の探索という観点から、この種子に注目しました。今回の研究では、種子に由来する抽出物や成分が、正常な血液細胞とがん細胞に対してどの程度の毒性を示すかを、培養細胞を使った実験(in vitro)で調べています。

何をどのように調べたか

材料はポーランドの農園で収穫された果実から取り出した種子です。種子の一部は、ライ麦パンを焼くときの条件をまねて焙煎されました。研究チームは、生の種子と焙煎した種子のそれぞれから抽出物を作りました。さらに、抽出物を性質の異なる成分のまとまり(画分)に分け、生の種子からa〜c、焙煎種子からd〜gの計7つの画分を得ました。また、単独の化合物として二つを調べました。一つは画分bの主要成分であるイソラムネチン配糖体の一種、もう一つは画分cに多く含まれるセロトニンです。

画分ごとの主な中身は次のとおりです。画分aとdはおもにトリテルペノイドサポニンを含みます。画分bとeはケンフェロール、イソラムネチン、ケルセチンなどの配糖体(糖が結合したフラボノール)が中心です。画分cとfはセロトニンやプロアントシアニジンなどを含み、画分gは主に糖類からなります。

試験には次の細胞を使いました。正常な細胞としては、血液から分離した血小板と末梢血単核細胞(PBMC、リンパ球などの免疫細胞)を用いました。がん細胞としては、急性前骨髄球性白血病の細胞株HL-60と、肺腺がんの細胞株A549を用いました。これらの細胞に1〜100μg/mLの濃度で試料を加えました。そのうえで、細胞の生存や代謝の活発さ、DNAの損傷、細胞が自ら死ぬ仕組みであるアポトーシス、活性酸素種(ROS)の発生を測定しました。生存の指標には、生きた細胞が色素レサズリンを別の物質に変える反応を使っています。アポトーシスは、その目印となる酵素カスパーゼ3/7の活性で評価しました。

主な結果

血小板への影響は総じて小さいものでした。焙煎種子の抽出物(100μg/mL)では生存率が対照の約88.6%に、画分d(50μg/mL)では約91.1%に下がりました。一方、それ以外の多くの画分と二つの化合物では、血小板の生存率は下がりませんでした。

研究チームが最も有望と評価したのは、生の種子から得た画分bです。画分bはHL-60白血病細胞の生存の指標を下げ、50μg/mLでは対照の82.4%になりました。100μg/mLでは、アポトーシスの目印であるカスパーゼ3/7の活性を約25%高めました。また、画分bは血小板を傷つけませんでした。PBMCへの影響も、24時間・100μg/mLの条件でのみ見られたと報告されています。これに対し、同じ種類の成分を含む焙煎種子由来の画分eでは、こうした効果は見られませんでした。著者らは、加熱処理によって生物活性が低下した可能性を指摘しています。

セロトニンを含む画分cとfの結果は、好ましくないものでした。画分cはPBMCの生存の指標を下げ、100μg/mLでは対照の70.4%になりました。さらに画分cとfは、肺がん細胞A549の代謝活性をむしろ高めました。これらの作用はセロトニン単独の作用とよく似ていました。そのため著者らは、セロトニンがこれらの画分の作用の一部を担っている可能性があると述べています。また、画分cとfは抗がん剤の候補とは考えるべきではないと結論づけています。

DNA損傷については、統計的に有意な変化が見られた試料もありましたが、変化の幅は小さいものでした。活性酸素種の発生は試料によって増える場合と減る場合があり、50μg/mLのセロトニンが調べたすべての細胞で最も強く発生を増やしました。画分aとdは、測定したほぼすべての項目にほとんど影響を与えませんでした。

この研究が示すこと

この研究は、同じシーバックソーンの種子由来でも、含まれる成分のまとまりによって細胞への作用が大きく異なることを示しました。白血病細胞に作用しながら正常な血液細胞への影響が比較的小さい画分がある一方で、がん細胞の代謝活性を高めてしまう画分もありました。また、焙煎の有無によって作用が変わりうることも示されています。

これらはすべて培養細胞での結果です。著者らは、画分bが白血病細胞に対して抗がん作用の可能性を示したとしつつ、含まれる個々の成分の働きや作用の仕組み、生体内での有効性はさらに調べる必要があると述べています。

原著論文の著者・所属:Natalia Sławińska(Department of General Biochemistry, Faculty of Biology and Environmental Protection, University of Lodz, Poland)、Michał Juszczak(Department of Molecular Genetics, Faculty of Biology and Environmental Protection, University of Lodz, Poland)、Katarzyna Woźniak(Department of Molecular Genetics, Faculty of Biology and Environmental Protection, University of Lodz, Poland)、Beata Olas(Department of General Biochemistry, Faculty of Biology and Environmental Protection, University of Lodz, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Natalia Sławińska, Michał Juszczak, Katarzyna Woźniak, et al. Exploring the toxicity of extracts, fractions, and their bioactive components from raw and roasted sea buckthorn seeds on selected human cells. Frontiers in Molecular Biosciences 2026-08-11. DOI: 10.3389/fmolb.2026.1898968. 原著ライセンス:CC BY.