著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
豆腐など大豆製品をつくる過程で大量に出るおから(大豆の搾りかす)は、食物繊維を多く含みます。その大部分は水に溶けない不溶性食物繊維で、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンからできています。
研究チームが注目したのは、この繊維を「ピッカリングエマルション」の乳化剤として使う可能性です。エマルションとは、水と油のように本来混ざらない液体の一方が、細かな滴となって他方に分散した状態を指します。一般的な乳化剤は分子が油と水の境目に並びます。これに対しピッカリングエマルションでは、水にも油にもなじむ性質をもつ固体の微粒子が境目に付着し、油滴どうしがくっつくのを物理的に防ぎます。
ただし、多くの不溶性食物繊維は粒子が大きく、構造も緻密です。そのため、そのままでは乳化の働きが弱くなりがちです。著者らは、おから由来の不溶性食物繊維に二段階の改質を順に施しました。この改質で乳化剤としての性能が高まるか、またなぜエマルションが安定するのかを調べることが本研究の目的です。
繊維をどのように加工し、何を調べたか
研究チームはまず、脱脂したおからから酵素処理などで純度90%を超える不溶性食物繊維を取り出しました。次に、アルカリ性の過酸化水素で処理しました。論文ではこの工程を「エッチング」と呼んでいます。成分どうしの結合を切って繊維表面に穴や溝をつくり、内部の水酸基を露出させる狙いがあります。
その後、酸性条件でオレイン酸を反応させました。露出した水酸基にオレイン酸を結びつけ、繊維に油になじむ性質(疎水性)を加える処理です。
比較したのは、未処理の繊維、エッチングのみの繊維、エッチング後に疎水化した繊維の3種類です。著者らはそれぞれについて、表面の形、結晶構造、熱への強さ、水や油を抱え込む能力、粒子の大きさや表面の電気的な性質を測定しました。さらに、3種類の繊維で油を15%含むエマルションをつくり、遠心分離、凍結と解凍、加熱、15日間の保存、pH3〜9の条件で分離が起きるかを観察しました。顕微鏡による内部構造の観察や、流れやすさの測定も行っています。
主な結果
電子顕微鏡では、未処理の繊維は比較的なめらかで緻密なシート状でした。エッチング後は多数の穴や溝をもつスポンジ状に変わりました。疎水化後は穴がやや埋まったものの、未処理より複雑な表面構造が残っていました。結晶化度はいずれも約29%でほぼ変わらず、著者らは、処理が主に結晶でない部分に作用したとみています。
水中に分散させて測った粒子の大きさは、未処理で約82マイクロメートルでした。エッチング後は約7.0マイクロメートル、疎水化後は約5.0マイクロメートルまで小さくなりました。粒子表面の電気的な性質を示すゼータ電位は、未処理の約マイナス15.9ミリボルトから、疎水化後には約マイナス37.3ミリボルトへと絶対値が大きくなりました。絶対値が大きいほど粒子どうしが反発し合い、凝集しにくくなるとされます。
水滴が繊維表面となす角度(接触角)は、乳化性能の目安になります。90度に近いほど水と油の両方になじみやすいことを示します。この角度は未処理で34.6度、エッチング後で62.8度でした。疎水化後は約70度に近づき、疎水性が高まりました。油を抱え込む能力も疎水化後に大きく向上しました。赤外分光の結果から、著者らはオレイン酸が繊維表面に取り込まれたと考えています。ただし、化学結合で結びついたことを確定するには別の分析が有益だとも述べています。
エマルションの試験では、疎水化した繊維を使ったものが最も安定していました。遠心分離後も乳化した層の大部分が残りました。凍結・解凍後も目立った分離はありませんでした。85度の加熱後も均一な乳白色を保ち、15日間の保存でも分離や濁りは生じませんでした。pH3〜9のいずれの条件でも、15日間分離や沈殿は見られませんでした。一方、未処理の繊維によるエマルションは、保存3日目には分離が始まりました。
顕微鏡観察では、疎水化した繊維のエマルションで油滴が最も小さくそろい、繊維も均一に分布していました。流れやすさの測定では、3種類とも力を加えるほど粘度が下がる性質を示しました。その中で、疎水化した繊維のエマルションは初めの粘度が最も高く、著者らはしっかりした網目構造ができていることを示すと解釈しています。
この研究が示すこと
この研究は、エッチングで表面を粗くして反応できる部位を増やし、続いて疎水化で水と油の両方になじむ性質を強めるという順序立てた改質を示しました。これにより、おからの不溶性食物繊維がピッカリングエマルションを安定させる固体乳化剤として働きやすくなることを報告しています。
著者らは、こうした改質で繊維粒子の境目での性質を調整しやすくなると位置づけています。大豆加工の副産物を付加価値のある素材として生かす可能性を示すとともに、植物由来の乳化剤を設計するうえで新たな見方を提供する研究だとしています。
原著論文の著者・所属:Shuhan Ge(Jilin Agricultural University, China Agriculture Research System)、Haoyuan Li(Jilin Agricultural University, China Agriculture Research System)、Lingchao Wu(Jilin Agricultural University, China Agriculture Research System)、Wendan Jing(Jilin Agricultural University, China Agriculture Research System)、Hansong Yu(Jilin Agricultural University, China Agriculture Research System)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shuhan Ge, Haoyuan Li, Lingchao Wu, et al. Etching–Hydrophobicity Modification of Soybean Dreg Insoluble Dietary Fibers and Their Pickering Emulsion Stabilization Mechanisms. Foods 2026-08-01. DOI: 10.3390/foods15152715. 原著ライセンス:CC BY.