著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Gels
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
すり身は、魚肉を採取して水でさらし、脱水・精製して作る魚のたんぱく質素材です。かまぼこなどの練り製品の原料として広く使われています。ただし、さらしの工程で脂質が失われやすく、風味や栄養面に影響します。研究チームによると、淡水魚のすり身製品には、加熱で重さが減りやすい、ゲルとしての性質が十分でない、冷凍と解凍で品質が落ちやすいといった課題もあります。
風味や栄養を補う目的で植物油を加える方法があります。しかし、油をそのまま加えると、すり身のたんぱく質がつくる網目構造が乱れ、食感が悪くなることがあります。一方、増粘やゲル化の働きをもつ多糖類は、すり身の保水性や食感を高めることが知られています。
そこで著者らは、こんにゃく芋由来の多糖「こんにゃくグルコマンナン」と、紅藻由来の多糖「κ-カラギーナン」の2種類を使うことにしました。これに、乳由来の乳化剤カゼインナトリウムで安定化したカメリア油(椿油)のエマルション(油を細かい粒にして水中に分散させた液)を組み合わせます。研究の目的は、これら3つの組み合わせがすり身ゲルの品質にどう影響するかを調べることです。この3成分の組み合わせは、これまでほとんど検討されていなかったといいます。
どのように調べたか
研究には、冷凍ハクレン(淡水魚)のすり身を用いました。エマルションは、1%のカゼインナトリウム水溶液に、体積で10%のカメリア油を加えて高速でかき混ぜて作りました。すり身の重さに対して、こんにゃくグルコマンナン0.6%、κ-カラギーナン1%、エマルション8%を条件に応じて加えています。これにより、何も加えない対照を含む6種類の試料を作りました。試料はいずれも食塩2%、水分80%にそろえ、40℃と90℃の2段階で加熱してゲルにしました。
評価した項目は次のとおりです。遠心力をかけても水を保てるかを示す「保水性」、加熱前後の重さの減り方を示す「加熱損失」、硬さや弾力などの食感を機械で測る試験、20名のパネリストによる官能評価、そして冷凍(−20℃で22時間)と解凍を1回行った後の品質の変化です。さらに、品質の違いが生じる仕組みを探るため、赤外分光法によるたんぱく質の構造や分子間の結びつきの解析、加熱中の弾性の変化の測定、電子顕微鏡によるゲル内部の観察も行いました。
主な結果
エマルションだけを加えた場合、ゲルの硬さなどの食感の値は高くなりました。しかし、保水性は対照より低下し、加熱損失は約36%に増えました。著者らは、油の粒がたんぱく質どうしの結びつきを妨げ、網目が緩んだためと考えています。
一方、2種類の多糖とエマルションをすべて加えた試料では、結果が大きく変わりました。加熱損失は対照の31.4%から2.3%へ下がり、保水性は対照の66.1%から97.7%へ上がりました。論文は、多糖2種のみの場合も保水性が94.6%に高まったと報告しています。電子顕微鏡で観察すると、この3成分を加えた試料は内部の穴が小さく、そろっていました。調べた試料の中で最も密で整った網目構造でした。
赤外分光の結果では、新しい化学結合を示すピークは見られませんでした。そのため著者らは、多糖やエマルションは主に水素結合などの比較的弱い相互作用ですり身のたんぱく質と結びつき、構造を強めていると解釈しています。官能評価では、3成分を加えた試料がすべての評価項目で最も高い得点を得ました。
冷凍と解凍を1回行った後は、すべての試料で保水性が下がり、加熱損失が増えました。それでも、多糖2種を加えた試料と3成分を加えた試料では変化が小さく、品質が保たれていました。逆に変化が最も大きかったのは、エマルションのみの試料でした。著者らは、冷凍・解凍への強さには、エマルションよりも多糖の影響が大きいとまとめています。
この研究が示すこと
この研究では、カゼインナトリウムで安定化したカメリア油エマルションをすり身の重さの8%加えただけでは、食感の値は高まったものの、保水性は上がらず、加熱損失も減りませんでした。これに対し、こんにゃくグルコマンナンとκ-カラギーナンをこのエマルションと併せて加えた3成分の組み合わせでは、多糖やエマルションを単独で加えた場合と比べて、保水性、食感、冷凍・解凍への強さ、総合的な好ましさが高まり、加熱損失が減ったと報告されています。著者らは、成分どうしの相互作用によって密で整ったゲルの網目ができたことが、こうした品質向上の背景にあるとしています。
著者ら自身は、この成果を実験室規模での予備的な知見と位置づけています。そのうえで、天然素材の組み合わせによってすり身ゲルの構造を整えるという考え方は、品質の高いすり身製品づくりの基礎になるとしています。また、実際の製造に用いる前に、原料コストや既存の加工方法との相性を検討する必要があることも付け加えています。
原著論文の著者・所属:Tianzhen Xiong(College of Tea and Food Science, Xinyang Normal University, Xinyang 464000, China)、Lala Li(College of Life Science, Dabie Mountain Laboratory, Xinyang Normal University, Xinyang 464000, China)、Guanchen Wu(College of Life Science, Dabie Mountain Laboratory, Xinyang Normal University, Xinyang 464000, China)、Lihua Zhang(College of Life Science, Dabie Mountain Laboratory, Xinyang Normal University, Xinyang 464000, China)、Wei Xu(College of Life Science, Dabie Mountain Laboratory, Xinyang Normal University, Xinyang 464000, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tianzhen Xiong, Lala Li, Guanchen Wu, et al. Surimi Gel Quality Enhanced by κ-Carrageenan/Konjac Glucomannan and Sodium Caseinate-Stabilized Emulsion. Gels 2026-10-08. DOI: 10.3390/gels12100907. 原著ライセンス:CC BY.