この研究は、イラン、カナダの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

食品の鮮度を「色」で伝える包装をめざして

石油由来のプラスチック包装は、分解されにくいこと、温室効果ガスの排出、有害物質やマイクロプラスチックの放出といった問題を抱えています。研究チームは、こうした素材に代わる、自然界の材料からつくる包装材の開発に取り組みました。

今回の研究で目標とされたのは、単に包むだけでなく、中身の状態を知らせる「インテリジェント包装(スマート包装)」です。これは、食品の傷み具合に応じて包装材そのものの色が変わり、目で見て鮮度を判断できる仕組みを指します。牛肉はアミノ酸や不飽和脂肪酸、水分を多く含むため、流通の過程で微生物による腐敗や酸化が進みやすく、その場で鮮度を確かめられる手段が求められてきました。

著者らは、ローズヒップ(イヌバラ Rosa canina の果実)に注目しました。この果実はアントシアニン(pHによって色が変わる天然色素)を豊富に含み、抗酸化・抗菌成分の供給源としても知られています。論文によれば、ローズヒップ果実の抽出物を使ってタンパク質の豊富な食品の鮮度を追跡するローカストビーンガム・カゼインナトリウム系のスマート包装をつくった報告は、これまでになかったとされています。

何をつくり、どう調べたか

土台となる素材には二つの天然材料が選ばれました。ローカストビーンガム(LBG)はイナゴマメの種子から得られる多糖類で、生分解性があり、ゲルをつくる性質を持ちます。カゼインナトリウム(SC)は牛乳タンパク質から得られる素材で、食品業界で広く使われています。研究チームはこの二つを混ぜ、凍結乾燥によって「エアロゲル」——内部に細かな空気の隙間が詰まった、軽く多孔質な固体——に仕上げました。

このエアロゲルに、ローズヒップ果実抽出物(RCE)5%と、MgO(酸化マグネシウム)を組み合わせた炭素ドット0.25%を加えました。炭素ドットとは直径10ナノメートル未満の炭素系微粒子で、水に溶け、抗酸化性や抗菌性を持つとされる材料です。今回は果実の皮と酸化マグネシウム粒子を水とともに高温高圧の容器で加熱する「水熱法」によって作製されました。添加量は予備検討にもとづいて決められており、論文では、抽出物が5%未満ではpHによる色の変化が小さく表示材として不十分で、逆に多すぎるとエアロゲルの多孔質構造が崩れて不均一になったと説明されています。

完成した素材については、内部の構造(電子顕微鏡)、化学結合の状態、結晶性、熱への耐性、水の吸いやすさ、押し縮めたときの強さ、抗菌性と抗酸化性が調べられました。さらに、pHの異なる液やアンモニア蒸気にさらしたときの色の変化を測定したうえで、牛肉110gを入れた容器のふた側に2.5cm角の小片を貼り(肉には直接触れない形で)、4±1℃で5日間保存する実験が行われました。

報告された主な結果

ローズヒップ由来の炭素ドットは、透過型電子顕微鏡の観察で平均直径2.23±0.62ナノメートル(1.20〜3.42ナノメートル)と報告され、紫外線(365nm)の下で強い青色の蛍光を示しました。元素分析では炭素53.62%、酸素40.67%、マグネシウム5.71%が検出され、量子収率は19.5%でした。

エアロゲルそのものは、蜂の巣のような多孔質構造を示しました。抽出物や炭素ドットを加えると孔は小さくなり、平均の孔の直径は無添加の141.45µmから、抽出物入りで91.89µm、両方を加えたもので54.26µmへと変化しています。物性面では、抽出物5%と炭素ドット0.25%を加えたエアロゲルは、無添加のものに比べて水分含量・吸水量・水蒸気吸収量が有意に低く、圧縮応力は高くなったと報告されました(いずれもP<0.05)。結晶性は40.33%から56.73%へ、燃焼後に残る炭の割合は16.25%から34.57%へと上がっています。

機能面では、DPPH法による抗酸化活性が、抽出物入り34.57%、炭素ドット入り38.19%、両方を含むもので54.12%と報告されました。抗菌性の試験では、黄色ブドウ球菌、リステリア菌、エルシニア菌、大腸菌に対して阻止円が形成され、グラム陰性菌のほうが感受性が低い傾向が示されています。

そして牛肉を使った実験では、抽出物5%を含むエアロゲルと、抽出物5%+炭素ドット0.25%を含むエアロゲルの両方が、冷蔵5日後に薄いカーキ色から濃い紫色へと変化し、鮮度の変化を示すことができました。このとき牛肉では、一般生菌数7.23 log CFU/g、低温細菌数6.90 log CFU/g、揮発性塩基窒素(タンパク質の分解にともなって増える指標)25.56 mg N/100g、pH 7.12という値が記録されています。

この研究が示すもの

著者らの報告は、植物性の多糖類と乳タンパク質という身近な生分解性素材の組み合わせに、果実から取り出した色素と炭素ドットを加えることで、包装材としての物性(水に対する安定性、強度、熱への耐性)を高めつつ、同時に中身の状態を色で伝える機能を持たせられることを示しています。

つまり、環境負荷の小さい材料でできた包装が、消費者や流通に携わる人に対して、器具を使わずに鮮度の手がかりを差し出す——そうした設計が実験室レベルで成り立つことを、この研究は具体的なデータとともに示したといえます。

著者:Erfan Azadi(Department of Food Hygiene, Faculty of Veterinary Medicine, Razi University, Kermanshah, Iran)、Yasser Shahbazi(Department of Food Hygiene, Faculty of Veterinary Medicine, Razi University, Kermanshah, Iran)、Nassim Shavisi(Department of Food Hygiene, Faculty of Veterinary Medicine, Razi University, Kermanshah, Iran)、Ali Barati(Department of Chemistry, Razi University, Kermanshah, Iran)、Aman Ullah(Lipids/Materials Chemistry Group, Department of Agricultural, Food and Nutritional Science, University of Alberta, Edmonton, AB, T6G 2P5, Canada)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Erfan Azadi, Yasser Shahbazi, Nassim Shavisi, et al. Anthocyanins/MgO–carbon dots obtained from Rosa canina fruit to enhance the performance of locust bean gum-sodium caseinate aerogels for intelligent packaging application. Scientific Reports 2026-09-24. DOI: 10.1038/s41598-026-71404-6. 原著ライセンス:CC BY.