この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Applied Polymer Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
石油由来のプラスチック包装、とくに使い捨て製品の増加は廃棄物の蓄積を招き、食品産業がその主要な発生源のひとつとされています。こうした背景から、著者らは自然界で分解される「生分解性」の素材に注目しました。なかでもデンプンは、トウモロコシやキャッサバ、小麦、ジャガイモなど身近な植物から得られ、量が豊富で再生可能なことから、発泡ポリスチレン(いわゆる発泡スチロール)に代わる候補として期待されています。
ただし論文によれば、デンプンだけで作った材料には弱点があります。機械的な強度が低く、湿気に弱いため、そのままでは用途が限られてしまうのです。そこで研究チームは、二つの食品産業の副産物を組み合わせるという方針を立てました。ひとつは大学の食堂から提供されたメロン(Cucumis melo L.)の種子で、セルロースやリグニンといった繊維成分を多く含み、材料を補強する役割が期待されます。もうひとつは乾燥ローズマリー(Salvia rosmarinus)で、ロスマリン酸をはじめとするフェノール性の成分を含み、微生物の増殖を抑える働きが知られています。著者らは、これまでメロン種子粉とローズマリー粉をデンプン発泡包装に同時に配合した研究は報告されていないとしており、二つの副産物を同時に有効活用する点を本研究の狙いとしています。
どのように調べたか
研究チームは、メロン種子とローズマリーをそれぞれ粉状に加工し、成分組成と吸水能力を測定しました。メロン種子粉は食物繊維28%、そのうち不溶性繊維が25%で、セルロース56%、リグニン12%という組成でした。一方ローズマリー粉は食物繊維44.6%、セルロース30%で、リグニンはわずか0.2%でした。この違いは吸水能力にも表れ、水をはじく性質をもつリグニンが多いメロン種子粉は2.0 mL/g、ローズマリー粉は7.0 mL/gでした。
作製した配合は5種類です。トウモロコシデンプンのみの対照(C1)、デンプンにローズマリー粉25%を加えたもの(C2)、メロン種子粉25%を加えたもの(C3)、そして両方を組み合わせた2種類 ― メロン種子15%とローズマリー15%(S15)、メロン種子15%とローズマリー25%(S25)です。いずれも水、グリセロール、グアーガム、ステアリン酸マグネシウムと混ぜ合わせ、加える水の量は各原料の吸水能力に応じて調整されました。混合物を金属の型に入れ、70 bar・150℃で17分間、加熱圧縮成形します。閉じた型の中でデンプンが糊化し、同時に水蒸気が発生して膨張することで、発泡した容器が形づくられる仕組みです。加熱条件は、抗菌性を担う成分が熱で壊れないよう配慮して決められました。
出来上がった材料については、引張・曲げ・衝撃といった機械的性質、硬さ、厚み、密度、色、吸水性のほか、細菌と真菌に対する作用、そして土壌中での分解の進み具合が調べられました。
主な報告結果
機械的性質では、成分ごとに異なる傾向が報告されています。ローズマリー粉を加えた配合はショアD硬度が高く、最大26.5(C2)を示し、引張の破断応力も最大1.60 MPa(S25)と、デンプンのみの対照(1.2 MPa)を上回りました。一方、メロン種子粉を含む配合では曲げ試験でのヤング率が高く、S15では879 MPaに達しました。ヤング率は材料の硬さ(変形しにくさ)を表す指標で、値が大きいほど変形しにくいことを意味します。対照のC1は308 MPaで、最も変形しやすく、破断に要する力も最小でした。ただし衝撃を吸収する能力(アイゾッド衝撃強度)については、デンプンのみのC1が1.6 kJ/m²と最も高い値を示しました。著者らは、粒子状の充填材を加えると応力の集中点が生じ、割れの起点になりやすいためではないかと考察しています。論文は全体として、繊維の添加が剛性と強度を高める一方で構造の不均一さも持ち込み、衝撃耐性や柔軟性を下げるという「トレードオフ」があると総括しています。
厚みと密度にも違いが出ました。対照(C1)の厚みが3.8 mmと最も厚かったのに対し、副産物を加えた配合は2.62〜3.26 mmで、とくにローズマリー濃度が高いほど薄く、緻密になりました。走査型電子顕微鏡による観察でも、ローズマリー濃度の高い配合では気泡が少なく、より詰まった構造が確認されています。密度は0.46〜0.60 g/cm³の範囲でした。
抗菌性については、メロン種子粉とローズマリー粉を併用した配合のみで効果が認められました。S15とS25は、バチルス・セレウス、サルモネラ・エンテリティディス、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に対して増殖を抑える透明な領域(阻止円)を形成し、S25では緑膿菌に対して13.2 mmという最も大きな値を示しました。一方、黄色ブドウ球菌に対しては、いずれの配合でも効果は見られませんでした。つまり、作用する菌が限られる「選択的」な抗菌性だったということです。なお比較のため用いた市販抗生物質の阻止円は17〜43 mmで、本材料の値より大きいものでした。カビについては、アオカビの一種 Penicillium roqueforti に対して、ローズマリーまたはメロン種子を含む4配合すべてが約53〜56%の菌糸成長抑制を示しましたが、アスペルギルス属の2種(A. niger、A. flavus)には効果がありませんでした。
生分解性の試験では、植物由来の堆肥土に埋めた試料の重量減少を測定しました。35日後の値は配合によって71〜76%で、論文の要旨では5週間でおおむね70〜80%の崩壊が起きたと報告されています。
この研究が示すもの
この研究が伝えているのは、これまで捨てられてきた食品産業の副産物を組み合わせることで、デンプン材料の弱点を補いながら、新たな機能を持たせられるという可能性です。メロン種子の繊維が構造を支え、ローズマリーの成分が一部の細菌やカビの増殖を抑える ― 役割の異なる二つの副産物が、ひとつの材料の中で別々の貢献をしていました。
同時に、結果は万能ではないことも示しています。強度が上がれば衝撃吸収力は下がり、抗菌性は試した菌すべてに及ぶわけではありませんでした。著者らは、こうした特性のバランスを踏まえ、開発した材料を水分の少ない食品向けの包装に適した候補として位置づけています。廃棄物を資源として循環させながら、必要な機能を備えた包装材へと変えていく ― その一つの具体的な道筋を、この研究は示しています。
著者:Ana Carolina Agne ferreira Zão(Institute of Food Science and Technology Federal University of Rio Grande do Sul Porto Alegre Rio Grande do Sul Brazil)、Naiara Jacinta Clerici(Institute of Food Science and Technology Federal University of Rio Grande do Sul Porto Alegre Rio Grande do Sul Brazil)、Flávio Fonseca Veras(Institute of Food Science and Technology Federal University of Rio Grande do Sul Porto Alegre Rio Grande do Sul Brazil)、Cecília Roratto Köhn(Institute of Food Science and Technology Federal University of Rio Grande do Sul Porto Alegre Rio Grande do Sul Brazil)、Adriano Brandelli(Institute of Food Science and Technology Federal University of Rio Grande do Sul Porto Alegre Rio Grande do Sul Brazil)、Juliane Elisa Welke(Institute of Food Science and Technology Federal University of Rio Grande do Sul Porto Alegre Rio Grande do Sul Brazil)、Patrícia Benelli(Institute of Food Science and Technology Federal University of Rio Grande do Sul Porto Alegre Rio Grande do Sul Brazil)、Alessandro de Oliveira Rios(Institute of Food Science and Technology Federal University of Rio Grande do Sul Porto Alegre Rio Grande do Sul Brazil)、Simone Hickmann Flôres(Institute of Food Science and Technology Federal University of Rio Grande do Sul Porto Alegre Rio Grande do Sul Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ana Carolina Agne ferreira Zão, Naiara Jacinta Clerici, Flávio Fonseca Veras, et al. From Agro‐Industrial Waste to Functional Packaging Using Antimicrobial and Mechanically Reinforced Starch Foams With Melon Seed and Rosemary. Journal of Applied Polymer Science 2026-09-07. DOI: 10.1002/app.71480. 原著ライセンス:CC BY.