この研究は、エジプト、サウジアラビアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられる果皮を活かすという出発点
ザクロ(Punica granatum L.)の皮は果実全体の重さの約40〜50%を占め、ジュースを搾る工程でふつうは廃棄されます。著者らは、FAOの推計として、工業的なザクロ加工の現場から年間およそ150万トンの廃棄物が生じると紹介しています。ところがこの皮には、エラジタンニンやガロタンニン、フラボノイド、アントシアニンといったフェノール性化合物(ポリフェノール)が多く含まれており、抗酸化・抗菌・抗炎症の働きが知られている成分群だと論文は述べています。
ただし抽出物をそのまま食品に混ぜるのは簡単ではありません。ポリフェノールは酸素・光・温度・pHの影響を受けて壊れやすく、またザクロ皮の抽出物には苦味や渋みがあって、加えた食品のおいしさを損ねるおそれがあります。そこで使われるのが「カプセル化(encapsulation)」で、壁になる素材(壁材)で有効成分を包み、安定性を高めて好ましくない味の影響を抑える技術です。
カプセル化の代表的な手法は噴霧乾燥ですが、入口温度が高く(145〜160℃)、熱に弱いポリフェノールが30〜40%失われることもあると論文は指摘します。これに対し凍結乾燥(フリーズドライ)は低温・真空下で水分を昇華させるため熱による劣化が小さい一方、費用・時間・エネルギーがかかるという制約があります。
この研究の目的は、Ibrahim と Alqurashi(2024)が特許化した「二段階の凍結乾燥」によるカプセル化法を、ザクロ皮のポリフェノール抽出物に適用して評価することです。壁材としてオレンジの皮と市販ペクチンを用い、保存中および焼成(ベーキング)中のポリフェノールの安定性が改善するかどうかを調べています。著者らは、天然の壁材を使った二段階凍結乾燥法を本格的に評価した研究はこれが初めてだとしています。
何をどう調べたか
材料は、エジプト産でサウジアラビアのアルアハサー市場に流通したザクロと、同じく「バラディ」種のオレンジです。ザクロの皮は乾燥・粉砕してから80%エタノールに浸し、遠心分離と減圧濃縮を経て抽出物としました。オレンジの皮は繊維部分を粉砕し、90℃の湯に20分浸して保水性の高い繊維にしたうえで乾燥させています。ペクチンは柑橘由来の市販品です。
特許法によるカプセル化は二段階で行われました。第一段階では抽出物と乾燥オレンジ皮粉末を4対1で混ぜ、−40℃で予備凍結したうえで凍結乾燥します。第二段階では、得られた粉末にさらに抽出物を3対1の比で混ぜ、同じ条件で凍結乾燥を繰り返します。これにより外側に二層目の保護層ができる構造が想定されています。比較対象のペクチン系は、抽出物にペクチンを溶かして70℃で3分加熱したのち、一段階の凍結乾燥で作りました。抽出物と壁材の全体比はどちらも7対1です。
評価は三つの切り口で行われました。第一に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でポリフェノールの種類と量を調べ、カプセル化していない抽出物(PE)、オレンジ皮カプセル(EPEOP)、ペクチンカプセル(EPEP)の成分プロファイルを比較しています。第二に、60℃で45日間という加速保存試験を行い、3日ごとに総ポリフェノール量(Folin–Ciocalteu法)と抗酸化活性(DPPHラジカル消去)、さらに色(L*・a*・b*)の変化を追いました。第三に、小麦粉の重量に対してポリフェノール濃度1000 ppmとなるように各抽出物を配合したクラッカーを作り、200℃で7分間焼成する前後でポリフェノール量と抗酸化活性を比べています。クラッカーについては過酸化物価、食物繊維量、10名のパネルによる官能評価も実施されました。なお著者らは、HPLCの定量は外部標準に基づくもので、検量線や検出限界、回収率といった分析法の完全な妥当性確認は本研究では行っておらず、結果は各抽出物の成分の特徴を記述する目的で示していると明記しています。
報告された主な結果
HPLCでは、カプセル化していない抽出物に17種、オレンジ皮カプセルに18種、ペクチンカプセルに16種のポリフェノールが同定されました。量が多かったのはプニカラギン、没食子酸、クロロゲン酸、カテキン、カフェ酸、シリング酸、エラグ酸です。フェルラ酸とケルセチンはオレンジ皮カプセルで高く、著者らはオレンジ皮自体がこれらを含むためだと説明しています。一方、メチルガレートとナリンゲニンはカプセル化していない抽出物のほうが高く、壁材との結合や凍結過程の影響が考えられるとしています。
色については、カプセル化していない抽出物の赤み(a*値)が保存後に23.77から−0.37へと大きく低下しました。これに対し二つのカプセルはいずれも高い赤みを保ち、明るさ(L*)や黄色み(b*)も安定していました。著者らは、カプセルの基質が酸素などへの曝露を抑える保護の壁として働いたと解釈しています。ただし、二つの壁材には異なるカプセル化法を適用したため、壁材そのものの寄与と手法の寄与を切り分けることはできないと、論文は自ら限界を述べています。
総ポリフェノール量は、どの試料でも保存中に減るのではなく増える傾向を示しました。45日間での増加率は、カプセル化なしで40.5%、オレンジ皮カプセルで75.0%、ペクチンカプセルで63.0%です。著者らはこれを、抽出物の構造に結合していたポリフェノールが保存中に徐々に遊離し、測定試薬と反応しやすくなったこと、また複雑なポリフェノールが単純な形へ加水分解されたことによる「測定値の増加」として説明しており、既報にも同様の現象があると紹介しています。最大値に達する時期は系によって異なり、ペクチンカプセルは18日目に25.86 mg/g、オレンジ皮カプセルは30日目に27.88 mg/gで全処理中最高、カプセル化なしは42日目に20.98 mg/gでした。30日目にはオレンジ皮カプセルがカプセル化なしより約50%高い値を示しています。
抗酸化活性では、開始時点でオレンジ皮カプセルが81.53%と最も高く、カプセル化なしが77.80%、ペクチンカプセルが68.03%でした。その後、カプセル化していない抽出物は変動しながら低下し、42日目に22.82%まで下がりました。一方、二つのカプセルは高い水準を保ち、オレンジ皮カプセルは21日目以降おおむね90%超で42日目に97.14%、ペクチンカプセルは15日目に99.07%に達したと報告されています。著者らは、抗酸化活性が総ポリフェノール量と必ずしも一致しない点にも触れ、ポリフェノールが抗酸化能の異なる物質へ変化するためだと説明しています。
クラッカーの焼成では、すべての試料でポリフェノール量と抗酸化活性が有意に低下しました。ポリフェノール量の減少幅はオレンジ皮カプセルが6.7%と最も小さく、カプセル化なしが40.8%、ペクチンカプセルが69.4%でした。焼成後もオレンジ皮カプセル入りのクラッカーが最も高い値を保っています。ただし抗酸化活性の挙動は異なり、焼成後にカプセル化なしでは47.33%から51.80%へ上昇した一方、オレンジ皮カプセルは21.27%、ペクチンカプセルは6.53%へと有意に低下し、ペクチンカプセルは対照(無添加)との差が認められませんでした。著者らは、加熱によってポリフェノールが、カラメル化やメイラード反応で生じた糖の断片など生地中の他成分と相互作用しやすくなることが低下の要因になりうるとし、焼成では結合型フェノール酸が減り遊離型が増えるという既報も挙げています。
この研究が示すこと
論文が伝えているのは、捨てられていた二つの果皮を「包まれる中身」と「包む材料」の両方として組み合わせられる、という点です。保存試験でも焼成試験でも、カプセル化しない抽出物に比べてカプセル化した試料のほうが色とポリフェノールをよく保ち、とくにオレンジ皮を用いた二段階凍結乾燥の系が総ポリフェノールの保持で良好でした。もっとも、焼成後の抗酸化活性ではカプセル化した試料のほうが低くなるという一致しない結果も報告されており、指標によって見え方が変わることが示されています。
著者ら自身が述べているとおり、オレンジ皮の優位は壁材の性質と二段階というカプセル化法の違いが重なった結果であり、本研究の設計では両者を分離できません。それでもこの報告は、食品加工の副産物を有効成分の保護材として使う道筋を具体的な測定値とともに示し、副産物の価値化を通じた食品開発の選択肢を一つ広げるものとして位置づけられています。
著者:Marwa Ezz El-Din Ibrahim(Department of Nutrition and Food Science College of Home Economic, Capital University Cairo Egypt)、Randah Miqbil Alqurashi(Department of Food and Nutrition Sciences, College of Agriculture and Food Sciences King Faisal University Al‐Ahsa Saudi Arabia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Marwa Ezz El-Din Ibrahim, Randah Miqbil Alqurashi. Encapsulation of Pomegranate Peel Phenolic Extract Using Orange Peel and Pectin: Stability Evaluation in Baked Products. Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72311. 原著ライセンス:CC BY.