著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

でんぷんは食品にとろみや粘り、ゲル状の固さを与える成分として広く使われています。一方で、消化されやすいでんぷんは食後の血糖値を急に上げやすく、肥満や2型糖尿病などとの関係が注目されています。でんぷんの中には、小腸で消化されずに大腸まで届く「レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)」と呼ばれる部分があります。これは腸内細菌によって発酵され、酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸のもとになります。

研究チームが注目したのは、でんぷんとポリフェノールの組み合わせです。条件によっては、でんぷんの鎖がポリフェノールを包み込むように結びつき、「V型」と呼ばれる結晶構造の複合体ができます。この複合体はレジスタントスターチの一種に分類され、でんぷんを消化されにくくするとされています。

ナガイモ(Dioscorea opposita Thunb.)は生の重さの約18〜25%がでんぷんです。ただし、そのままのでんぷんは糊の状態が安定しにくく、熱やかき混ぜる力に弱いなど、加工しにくい性質を持っています。そこで著者らは、植物性食品に広く含まれるポリフェノールであるクロロゲン酸を加えたとき、ナガイモでんぷんの構造がどう変わるかを調べました。さらに、その変化が消化のされやすさや、粘り・弾力といった流動の性質(レオロジー)にどう影響するかを明らかにすることを目指しました。

どのように調べたか

研究チームは、ナガイモからでんぷんを取り出しました。これを沸騰した湯で加熱して糊状にし、でんぷんの枝分かれ部分を切る酵素(プルラナーゼ)で処理しました。そのうえでクロロゲン酸をでんぷんに対して3%、5%、7%の割合で加え、100℃で30分間加熱して複合体を作りました。この割合は作製を始めるときに加えた量です。最終的にでんぷんに結びついた量ではない点を、著者らは明記しています。比較用として、何も処理していないでんぷんと、クロロゲン酸を加えずに同じ処理をしたでんぷんも用意しました。

消化のされやすさは、試験管内で消化酵素を働かせて調べました。20分までに分解された部分を「すぐ消化されるでんぷん」、20分から120分の間に分解された部分を「ゆっくり消化されるでんぷん」とし、120分後も分解されずに残った部分をレジスタントスターチとして算出しています。あわせて、でんぷんの糊について、かき混ぜたときの抵抗、弾力と粘り、強くかき混ぜた後の回復の度合いを測定しました。構造については、X線回折、固体核磁気共鳴(NMR)、赤外分光、ラマン分光、電子顕微鏡を使いました。結晶の並び方、分子のらせん構造、分子どうしの結びつき方、粒の表面の様子を多角的に観察しています。

主な結果

論文によると、クロロゲン酸を加えたでんぷんは、加えた量が多いほど消化されにくくなりました。レジスタントスターチの量は、クロロゲン酸を加えずに同じ処理をしたでんぷんと比べて有意に増え、クロロゲン酸の添加量と正の相関を示しました。

糊の性質も変わりました。クロロゲン酸を加えると、かき混ぜたときの抵抗が小さくなり、弾力と粘りを表す値も低下しました。弾力の低下はクロロゲン酸の量が多いほど大きく、ゲルの構造はゆるやかなものになりました。また、強くかき混ぜた後の粘度の落ち込みも、クロロゲン酸を加えた試料で目立ちました。

構造の分析では、X線回折で5%と7%の試料にV型の結晶構造を示すピークが現れました。NMRでは7%の試料にV型の特徴が見られました。著者らは、二つの手法で結果が異なる理由として、それぞれが捉える構造の範囲の違いを挙げています。全体の結晶化度はクロロゲン酸の量が増えるにつれて低下しました。一方で、分子が近い範囲で規則的に並ぶ度合い(短距離秩序)は高まりました。赤外分光では新しい化学結合を示す信号は見られませんでした。このため著者らは、でんぷんとクロロゲン酸は主に水素結合などの弱い結びつきで相互作用していると考えています。電子顕微鏡では、処理したでんぷんの粒の表面に多くの孔を持つ網目状の構造が観察されました。

研究が示すこと

この研究は、ナガイモでんぷんにクロロゲン酸を加えて加熱すると、でんぷんの構造が組み替えられ、それに伴って糊の性質と消化のされやすさが変わることを、構造・流動性・消化性の関係として示しました。著者らは、クロロゲン酸がでんぷん性食品の消化を遅らせる機能性素材の候補になりうると結論づけています。ただし、今回の結果は試験管内の消化試験によるものです。実際の食品の中で同じように働くかどうかは、論文自身もまだ検討が必要だとしています。

原著論文の著者・所属:Sandu Xie(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Fujian Provincial Key Laboratory of Quality Science and Processing Technology in Special Starch, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; School of Life Sciences and Chemistry, Minnan Science and Technology College, Quanzhou 362332, China)、Huiqing Chen(School of Life Sciences and Chemistry, Minnan Science and Technology College, Quanzhou 362332, China)、Liping Li(School of Life Sciences and Chemistry, Minnan Science and Technology College, Quanzhou 362332, China)、Ting Wang(School of Life Sciences and Chemistry, Minnan Science and Technology College, Quanzhou 362332, China)、Beini Wang(School of Life Sciences and Chemistry, Minnan Science and Technology College, Quanzhou 362332, China)、Hongliang Zeng(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Fujian Provincial Key Laboratory of Quality Science and Processing Technology in Special Starch, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Yi Zhang(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Fujian Provincial Key Laboratory of Quality Science and Processing Technology in Special Starch, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Baodong Zheng(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China; Fujian Provincial Key Laboratory of Quality Science and Processing Technology in Special Starch, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sandu Xie, Huiqing Chen, Liping Li, et al. In Vitro Digestibility and Rheological Properties of Chinese Yam (Dioscorea opposita Thunb.) Starch Modified with Chlorogenic Acid. Foods 2026-10-15. DOI: 10.3390/foods15203655. 原著ライセンス:CC BY.