この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ食事と高血糖の関係を調べたのか
がんの薬物療法(化学療法)では、吐き気や脱毛などに加えて、血糖値が高くなる「高血糖」が起こることがあります。著者らは、高血糖が治療の効果を損ない、治療の遅れや中断につながりうる点を問題として挙げています。論文によれば、化学療法を受けている患者のうち高血糖がみられる割合は、これまでの研究で約19.8%から67%と報告されてきました。
高血糖が起きる背景として、論文は一部の抗がん剤がインスリンに関わる働きを妨げること、吐き気止めなどに使われるステロイド薬が肝臓での糖の生成を促し、インスリンの効きにくさを招くことを、既に知られている仕組みとして説明しています。一方で著者らは、抗がん剤そのもの以外の要因、とくに食事と高血糖の関係については研究が乏しいと指摘します。そこで、個々の栄養素を切り離して見るのではなく、実際の食生活のまとまり(食事パターン)に注目して、高血糖との関連を調べることを目的としました。
どのように調べたか
調査は韓国の大学病院で、2024年4月から2025年3月にかけて行われました。対象は化学療法を受けている患者176人です。化学療法を始める前に糖尿病と診断されていない人、3回以上の治療サイクルを終えている人などが対象となり、終末期のがんやがん以外の病気でステロイドを使っている人などは除かれています。
食事については、112項目からなる食物摂取頻度調査票を使い、過去1年間にどの食品をどれくらいの頻度・量で食べていたかを聞き取りました。運動量は、運動の種類・時間・頻度と体重から1週間あたりの消費エネルギーを計算し、「活動的でない」「活動的」「とても活動的」の3群に分けました。血糖値や血液中のアルブミン(栄養状態の指標として用いられるタンパク質)の値は電子カルテから取得しました。
血糖値は、絶食を必要としない「随時血糖」を用いています。著者らは、治療に伴う血糖上昇は空腹時以外でより目立つ可能性があり、長期の平均を示すHbA1cでは化学療法中の一時的な上昇をとらえにくいためだと説明しています。測定は点滴の約3時間前など条件をそろえ、今回と直前の治療サイクルの2回分の平均値を用い、140 mg/dL以上を高血糖と定義しました。食品群の摂取量の分析では、多数の項目を同時に調べることで偶然の「当たり」が増えるのを抑える統計的な補正(偽発見率の補正)も行っています。
報告された主な結果
176人のうち47人(26.7%)が高血糖に該当しました。食事の記録を統計的に整理すると、5つの食事パターンが浮かび上がり、そのうち最も大きな特徴を占めたのが「韓国式おかずパターン」でした。これは油脂・海藻・きのこ・野菜・調味料・肉・卵といった、伝統的な韓国の食卓に並ぶおかず類をまとめたものです。
年齢・学歴・身体活動量・血清アルブミンを考慮した分析では、この韓国式おかずパターンのスコアが1標準偏差高いことは、高血糖である見込み(オッズ)が低いことと関連していました(オッズ比0.30)。また、活動的でない群と比べて、活動的な群(オッズ比0.13)およびとても活動的な群(オッズ比0.06)では高血糖のオッズが低く、血清アルブミンが高いこともオッズの低さと関連していました(オッズ比0.17)。食品群別では、油脂・野菜・卵・海藻の摂取量が多いことが低いオッズと、穀類の摂取量が多いことが高いオッズ(オッズ比1.90)と関連し、これらはいずれも多重比較の補正後も統計的に有意なままでした。
一方、個々の栄養素については、補正前にはビタミンEやコレステロール、葉酸、食物繊維などで高血糖のオッズが低い傾向が見られましたが、補正後に有意に残ったものはなく、著者らは栄養素レベルの結果を探索的なもの(今後確かめるべき手がかり)と位置づけています。
この研究が示すこと
著者らは、この研究が一時点での観察調査であることを明記し、得られたのは因果関係ではなく関連であり、前向きの研究による確認が必要だと述べています。つまり「おかずをよく食べれば高血糖が防げる」と示したわけではなく、食事のまとまりや身体活動、栄養状態が高血糖の有無と結びついていたという報告です。
それでも、抗がん剤の種類だけでは説明しきれない部分に、食事や運動といった変えられる可能性のある要素が関わっていることを具体的な数値とともに示した点が、この研究の報告内容です。著者らは、こうした要素を手がかりに、化学療法中の高血糖の予防と管理を支える看護の取り組みを考える材料になるとしています。
著者:Kyung Hee Lim(College of Nursing, Keimyung University, Daegu 42601, Republic of Korea)、Jiyeong Kim(College of Nursing, Keimyung University, Daegu 42601, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kyung Hee Lim, Jiyeong Kim. Associations of Dietary Patterns, Daily Nutrient Intakes, and Food-Group Intakes with Hyperglycemia in Patients Undergoing Chemotherapy. Nutrients 2026-10-01. DOI: 10.3390/nu18193249. 原著ライセンス:CC BY.