著者の所属・活動拠点の国は、サウジアラビア、エジプト、オーストラリア、イラクです。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
市販の紅参エキスを分析し、銀ナノ粒子にして調べる
高麗人参の根は、生のままでは室温で傷みやすいため、乾燥させたり、蒸してから乾燥させたりして加工されます。蒸して乾燥させたものが紅参です。紅参に含まれる「ジンセノサイド」と呼ばれる成分群は、その多様な働きの主な担い手と考えられています。
研究チームは、市販の加工高麗紅参エキス製品(論文では「HO3エキス」と呼ばれています)を対象に研究を行いました。目的は二つあります。一つは、この製品にどのようなジンセノサイドが含まれているかを確かめることです。もう一つは、エキスを使って銀ナノ粒子を作り、細菌に対する作用をエキスそのものと比べることです。銀ナノ粒子とは、銀を数ナノメートルから数十ナノメートルという極めて小さな粒にしたものです。著者らは、市販の紅参製品とそのナノ粒子化を評価した研究はまだ少ないと述べています。
成分の確認とナノ粒子づくり
研究チームはまず、液体クロマトグラフィーと高分解能質量分析を組み合わせた手法(LC-HRMS)でエキスを調べました。これは混ざり合った成分を分け、それぞれの質量を精密に測る方法です。その結果、主要なジンセノサイドとしてRh1、Rh2、Rg1、Rg2、Rg3、Rb1の6種類が推定されました。
次に、エキスを銀イオンの溶液と反応させ、銀ナノ粒子を作りました。ここではエキスが、銀イオンを金属の銀に変える役割を担います。反応液は黄色から茶色に変わり、光の吸収を調べる分析でも粒子ができたことを示す吸収帯が現れました。電子顕微鏡で観察すると、粒子の大きさにはばらつきがあり、平均でおよそ5ナノメートルから29ナノメートルの範囲でした。一部には粒子同士が集まった構造も見られたと報告されています。
細菌の増殖とバイオフィルムへの作用
抗菌作用の試験には「ESKAPE」と総称される病原菌群が使われました。これは腸球菌、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、アシネトバクター、緑膿菌、エンテロバクターの頭文字をとった呼び名で、病院内での感染で問題になりやすい細菌として知られています。試験には大腸菌も含まれていました。
論文によると、調べたすべての菌で、銀ナノ粒子はエキスよりも高い増殖抑制率を示しました。たとえば腸球菌では、抑制率がエキスの約80%に対して銀ナノ粒子では約95%でした。アシネトバクターでは約72%に対して約85%でした。著者らは、特にこの2種類の菌で、標準的な抗生物質に近い抑制の水準に近づいたと述べています。ただし、比較に用いた抗生物質の抑制率はおおむね90〜98%で、多くの菌では抗生物質のほうが高い値でした。
研究チームは、バイオフィルムへの作用も調べました。バイオフィルムとは、細菌が表面に付着して作る膜状の集合体で、細菌を守るはたらきがあります。エキスによるバイオフィルムの形成抑制は7〜16%と弱いものでした。これに対し銀ナノ粒子では、大腸菌で約55%、緑膿菌で約75%と、試したすべての菌で強い抑制が見られました。著者らは、これをエキスの4〜10倍の効果と報告しています。
さらに、黄色ブドウ球菌と緑膿菌で、銀ナノ粒子の濃度と時間による変化を追いました。その結果、作用は濃度と時間の両方に依存していました。緑膿菌では、高い濃度で48時間以内に増殖が大きく抑えられました。黄色ブドウ球菌では、低い濃度だと最初の24時間にわずかな増殖の増加が見られました。それでも、より高い濃度で長く作用させると、96時間後にはほぼ完全な増殖抑制に至りました。
細胞膜を薄くする成分の予測と研究の意味
研究チームは、作用の仕組みを探るため、コンピューターによる分子動力学シミュレーションも行いました。これは、6種類のジンセノサイドが細菌の膜を模した脂質の二重膜にどう入り込むかを、分子の動きとして計算する方法です。その結果、Rg1が膜を最も大きく変形させることが示されました。通常約44〜45オングストロームの膜の厚さを、局所的に約31〜32オングストロームまで薄くしたのです。次に強かったのはRb1で、他の4種類の変化は比較的小さいものでした。膜に入り込むのに必要なエネルギーの計算でも、同じ傾向が示されました。
著者らは、銀ナノ粒子がエキスより強い作用を示した理由について、二つの作用が組み合わさった可能性を挙げています。銀ナノ粒子がもともと持つ抗菌作用と、ジンセノサイドによる膜の不安定化です。ただし、このシミュレーションは予測にとどまり、実験による検証が必要だと著者ら自身が述べています。また、調べたのは市販製品1種類だけで、製法や成分が異なる他の製品にそのまま当てはまるとは限らないことも、限界として示されています。
この研究は、試験管内の実験とシミュレーションにより、紅参エキスを銀ナノ粒子にすると細菌の増殖やバイオフィルム形成への抑制作用がエキス単独より高まることを示しました。成分分析、ナノ技術、分子シミュレーションを組み合わせ、伝統的な素材の作用を多角的に検討した報告といえます。
原著論文の著者・所属:Sultan Y. Aati(Dental Health Department, College of Applied Medical Sciences, King Saud University, Riyadh, Saudi Arabia)、Hebatallah S. Bahr(Department of Pharmacognosy, Faculty of Pharmacy, Nahda University, Beni-Suef, 62513, Egypt)、Hanan Aati(Department of Pharmacognosy, College of Pharmacy, King Saud University, 11495, Riyadh, Saudi Arabia)、Sheetal Maria Rajan(Dental School, The University of Western Australia, 6009, Perth, Australia)、Falah Hassan Shari(College of Pharmacy, Almaaqal University, Basrah, 61014, Iraq)、Ahmed M. Sayed(Department of Pharmacognosy, College of Pharmacy, Almaaqal University, Basrah, 61014, Iraq)、Hossam M. Hassan(Department of Pharmacognosy, College of Pharmacy, University of Kut, Al Kut, Wasit, 52001, Iraq; Department of Pharmacognosy, Faculty of Pharmacy, Beni-Suef University, Beni-Suef, 62514, Egypt)、Ahmed F. Basyony(Department of Laboratory Sciences, College of Pharmacy, University of Kut, Wasit, 52001, Iraq; Department of Microbiology and Immunology, Faculty of Pharmacy, Egyptian Russian University, Badr City, Cairo, Egypt)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sultan Y. Aati, Hebatallah S. Bahr, Hanan Aati, et al. Enhanced anti-ESKAPE pathogen and antibiofilm activities of Korean red ginseng-derived silver nanoparticles via membrane deformation: LC/HRMS profiling and dynamic correlations. Scientific Reports 2026-10-02. DOI: 10.1038/s41598-026-72244-0. 原著ライセンス:CC BY.