この研究は、モロッコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Microbiology Biotechnology and Food Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

サフランは、アヤメ科の植物クロッカス・サティバス(Crocus sativus L.)のめしべ(柱頭)を乾燥させて得られる香辛料で、料理の香りづけや着色に世界各地で使われています。イランやスペイン、モロッコなど多くの国で栽培され、世界で最も高価な香辛料のひとつとしても知られています。サフランにはクロシンやサフラナールといった成分が含まれ、色や香りのもとになると同時に、研究チームによれば抗酸化作用などの生物活性にも関わるとされています。

ところが、実際に利用されるのは柱頭という小さな部分だけで、球茎(コルム)や葉、花被片、外皮といった残りの部分は副産物として扱われてきました。著者らは、これまでソックスレー抽出法を用いてサフランの各部位の抽出物を比べた研究は行われていないとして、本研究でその抗酸化作用と腫瘍細胞に対する作用を初めて検討したと述べています。ソックスレー抽出法とは、溶媒を循環させながら植物材料から成分を繰り返し抽出する、実験室で標準的に使われる手法です。

何をどう調べたか

研究チームは、モロッコ南部タリウイン産の球茎を用い、東部オウジダ地域で化学的な処理を加えずに栽培した植物から、10月から11月にかけて各部位を手作業で採取しました。採取した材料は光を避けて室温で乾燥させたのち粉砕し、ヘキサン、酢酸エチル、メタノール、蒸留水という極性の異なる溶媒を順に用いてソックスレー抽出を行いました。極性の違う溶媒を使い分けることで、水になじみにくい成分からなじみやすい成分まで幅広く取り出す狙いがあります。得られた抽出物は減圧下で乾燥させ、4℃で保存しました。すべての実験は3回ずつ繰り返されています。

抗酸化作用の評価には2つの試験が使われました。ひとつはDPPH法で、DPPHという安定したラジカル(不対電子をもつ反応性の高い分子)に試料が水素を渡して打ち消す働きを、色の変化から測る方法です。もうひとつはβ-カロテン/リノール酸系を用いる試験で、リノール酸の酸化にともなってβ-カロテンの橙色が退色していく現象を利用し、その退色をどれだけ抑えられるかを測ります。この試験は、生体膜で起こる脂質の酸化を模した実験モデルとして役立つと論文では説明されています。比較のための陽性対照にはアスコルビン酸(ビタミンC)が用いられました。

細胞増殖への影響は、ヒトの悪性細胞である2種類の培養細胞株、U373(神経膠芽腫由来)とA549(肺がん由来)を使い、MTTアッセイという生きた細胞の数を色の濃さで測る方法で調べました。細胞は各抽出物を0〜100 μg/mLの濃度で加えたのち72時間培養し、生存細胞の割合を対照群と比べています。さらに高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、抽出物に含まれる成分の同定も行われました。

報告された主な結果

DPPH法では、いずれの部位の抽出物にもラジカルを消去する働きが認められ、なかでも球茎の抽出物が最も高い活性(65%)を示したと報告されています。メタノール抽出物と酢酸エチル抽出物はおおむね同程度の活性でしたが、緑葉についてはメタノール抽出物のほうが酢酸エチル抽出物より強い抗酸化作用を示したとされています。

β-カロテンの退色を指標とした試験では、抽出物を加えない対照で初期のβ-カロテンの96.485%が酸化されました。この条件に対し、柱頭の抽出物は100 μg/mLで酸化を27.596%まで抑え、対照と比べて71.4%の低下にあたり、陽性対照のアスコルビン酸に近い効果を示したと報告されています。外皮と球茎の抽出物も酸化を中程度に抑えましたが、葉の抽出物は試験した濃度範囲では明確な低下を示しませんでした。いずれの試料でも、抗酸化作用は濃度が高いほど強くなる傾向が見られています。

細胞を用いた試験では、抽出物は濃度依存的に細胞の生存率を下げました。U373細胞に対しては緑葉の抽出物が最も強い作用を示し、細胞の増殖を対照の10.6%まで抑え、次いで外皮の抽出物が11.7%、乾燥葉が77.5%でした。球茎の抽出物では顕著な作用は見られませんでした(102.9%)。A549細胞に対する抑制はU373に比べて弱く、最も強かったのは外皮の抽出物で対照の36.8%、緑葉と乾燥葉はほぼ同程度(それぞれ49.5%、53.6%)、球茎は74.5%でした。

HPLCによる分析では、抽出物の主成分としてクロシンが最も多く、次いでサフラナールが検出され、クロシンについては複数の形が確認されたと報告されています。著者らは、観察された抗酸化作用と増殖抑制作用は、フェノール性化合物やカロテノイドによるものではないかと考察しています。

この研究が示すこと

この研究は、ソックスレー抽出法を用いてサフランの副産物から得た抽出物に抗酸化作用と細胞増殖抑制作用があることを示した最初の報告だと著者らは位置づけています。利用されずに残されてきた球茎や葉、外皮といった部分にも、柱頭と同様に生物活性をもつ成分が含まれており、部位によって働きの強さや得意とする作用が異なることが示されました。

なお、ここで報告されているのは試験管内での化学反応系と培養細胞を用いた実験の結果であり、著者ら自身も、これらの性質がどのような仕組みで生じるのかを明らかにするにはさらなる研究が必要だと述べています。高価な香辛料の生産にともなって生じる副産物を、有用な成分の供給源として捉え直す視点を提示した研究といえます。

著者:Iliass Lahmass(Laboratory of Biotechnology, Environment, Agri-food and Health, Faculty of Science Dhar Mahraz, Sidi Mohamed Ben Abdallah University, P.B. 1796 Atlas Fez, Morocco)、Mouad Lahmass(Laboratory of Biotechnology, Environment, Agri-food and Health , Faculty of Science Dhar Mahraz , Sidi Mohamed Ben Abdallah University , P.B. 1796 Atlas Fez , Morocco)、Adil Laaziz(Laboratory of Biotechnology, Environment, Agri-food and Health , Faculty of Science Dhar Mahraz , Sidi Mohamed Ben Abdallah University , P.B. 1796 Atlas Fez , Morocco)、Ilham Touiss(Laboratory of Life and Health Sciences , Department of Pharmaceutical Sciences , Faculty of Medicine and Pharmacy , University Abdelmalek Essaadi , Tangier , Morocco)、Sabir Ouahhoud(Laboratory of Biochemistry and Biotechnology , Faculty of Sciences , Mohammed First University , BP 717 , Oujda , 60000 , Morocco)、Redouane Benabbas(Laboratory of Biochemistry and Biotechnology , Faculty of Sciences , Mohammed First University , BP 717 , Oujda , 60000 , Morocco)、Ennouamane Saalaoui(Laboratory of Biochemistry and Biotechnology , Faculty of Sciences , Mohammed First University , BP 717 , Oujda , 60000 , Morocco)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Iliass Lahmass, Mouad Lahmass, Adil Laaziz, et al. SCREENING OF ANTIOXIDANT ACTIVITY AND ANTIPROLIFERATIVE EFFECTS OF VARIOUS EXTRACTS OF SAFFRON PLANT (CROCUS SATIVUS L.). Journal of Microbiology Biotechnology and Food Sciences 2026-08-18. DOI: 10.55251/jmbfs.11370. 原著ライセンス:CC BY.