この研究は、カタール、ポルトガルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
植物は乾燥した環境で育つと、ストレスへの適応として独特の二次代謝産物(生育に直接必要ではないが、防御などに関わる成分)をつくることが知られています。研究チームは、この点に着目し、カタールで栽培した2種類のバジルから採った精油(植物の香り成分を集めた濃縮液)の性質を調べました。
対象となったのは、スイートバジル(Ocimum basilicum L.、論文中の記号はOB-S)と、レモンバジル(Ocimum africanum Lour.、同OA-L)です。著者らは、この2種の精油について、抗菌作用、抗酸化作用、そしてバイオフィルム(細菌が表面に付着してつくる膜状の集団)を抑える作用を評価することを目的としました。
調べた方法と主な結果
まず成分の分析にはGC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析、混合物に含まれる成分を分離して特定する手法)が使われました。その結果、2種ははっきり異なるケモタイプ(同じ種・近縁種でも主要成分の構成が異なるタイプ)を示したと報告されています。OB-Sはリナロールが豊富で、リナロール31.53%、ユーカリプトール12.91%という構成でした。一方のOA-Lはシトラール系が主体で、ゲラニアール/ネラールが78.34%を占めていました。
生物活性ではOB-Sの方が優れた結果を示しました。食中毒菌として知られるリステリア・モノサイトゲネスに対する最小発育阻止濃度(MIC、菌の増殖を抑えられる最も低い濃度)は、OB-Sが5 mg/mL、OA-Lが10 mg/mLで、OB-Sの方が低い値でした。総ポリフェノール含量もOB-Sが高く(999.06 ± 8.30に対しOA-Lは37.77 ± 3.25 µg GAE/g EO)、これと一致して抗酸化能も有意に高いと報告されています(DPPH法によるEC50は162.69 ± 0.78に対しOA-Lは939.38 ± 0.68 µg/mL。EC50は効果が半分に達する濃度で、値が小さいほど強い作用を示します)。
さらに著者らは、OB-Sの精油とその主要成分(リナロール、オイゲノール、エストラゴール、ユーカリプトール)を、リステリア・モノサイトゲネスのバイオフィルムに対して評価しました。精油全体はMICの2倍の濃度でバイオフィルムの生菌数を低減させた一方、単離した個々の成分の方が効力が高いという結果でした。なかでもオイゲノールが最も大きな低減を示し、最大で5 log CFU/cm2に達したと報告されています。この結果から著者らは、オイゲノールがOB-S精油の抗バイオフィルム作用の主要な担い手である可能性を示唆しています。
この報告が意味すること
この研究は、乾燥地という条件のもとで栽培された2種のバジルが、成分構成の面でも生物活性の面でもはっきり異なるプロフィールを持つことを示しました。同じバジルの仲間でも、種によって主成分が大きく変わり、それが抗菌力や抗酸化力の差につながりうるという点が、具体的な測定値とともに示されたことになります。
また、精油をまるごと使うよりも、そこに含まれる特定の成分の方がバイオフィルムに対して強く働いた点も注目されます。著者らは、この結果をふまえてオイゲノールが天然の食品保存料として食品安全の分野で活用される可能性を指摘しています。
著者:Samah Mechmechani(Department of Nutrition Sciences, College of Health Sciences, QU Health, Qatar University, Doha P.O. Box 2713, Qatar)、Abdullah Shaito(Biomedical Research Center (BRC), QU Health, Qatar University, Doha P.O. Box 2713, Qatar)、Mai M. Karousa(Biomedical Research Center (BRC), QU Health, Qatar University, Doha P.O. Box 2713, Qatar)、Maria Angelica M. Rocha(LAQV-REQUIMTE, Department of Chemistry, University of Aveiro, Campus de Santiago, 3810-193 Aveiro, Portugal)、Diana C. G. A. Pinto(LAQV-REQUIMTE, Department of Chemistry, University of Aveiro, Campus de Santiago, 3810-193 Aveiro, Portugal)、Mohammad Al-Khater(Torba Farm, Doha P.O. Box 5825, Qatar)、Moneer Ali(Torba Farm, Doha P.O. Box 5825, Qatar)、Mohamed M. Hassona(Qur’anic Botanic Garden, Hamad Bin Khalifa University (HBKU), Education City, Doha P.O Box 1148, Qatar)、Layal Karam(Department of Nutrition Sciences, College of Health Sciences, QU Health, Qatar University, Doha P.O. Box 2713, Qatar)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Samah Mechmechani, Abdullah Shaito, Mai M. Karousa, et al. Chemotypic Diversity, Antioxidant, Antimicrobial, and Antibiofilm Activities of Essential Oils from Arid-Grown Ocimum basilicum and Ocimum africanum and Their Representative Active Components. Molecules 2026-08-22. DOI: 10.3390/molecules31172940. 原著ライセンス:CC BY.